「出エジプト記」が旅行コーナーに! TSUTAYA図書館の斬新すぎる分類問題はなぜ起きたのか? その危うさを考える

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 各ジャンルの名前は「専門的な言葉ではなく、より日常利用に近い言葉に置き換えた表現」を用いて図書館に縁遠かった人にも親しみやすいよう配慮したという。特に目玉とする「旅行」と「料理」にはガイド本や料理本に加え、「そのジャンルにまつわる周辺の関連書籍についても同じ棚に配列」することで利用者の「発見性」が高まるように努め、このところマーケティング用語として注目されているセレンディピティ(思いがけないものを偶然に発見すること)の演出を狙っているようだ。

 CCC側の資料を見ると、あるテーマに関する書籍が書かれた観点によって「分散」して配架分類される欠点を「ライフスタイル分類」が克服するかのように思える。だが、前出のJLA担当者によれば、それは昔から知られていることで「従来の図書館でも現場の創意工夫でその欠点は十分に補われてきた」と話す。NDCは「標準分類法」であって規則ではないので、NDCという確固とした分類方法を基盤にしつつ、各図書館は自館の利用者の特性や利便性に合わせて独自にアレンジを施すことができる。区分ごとに需要の多い棚を充実させて入口近くに置いたり、看護系図書館などの専門図書館は専門分野だけ独自の分類で配架したりする場合もあるそうだ。

 またCCCと神奈川県の海老名市立図書館を指定管理者として共同で運営することを試みたものの図書館運営に対する「理念の違い」を理由に袂を分かった図書館流通センター(TRC)の広報担当・尾園清香氏も、たとえばクリスマスだったら、キリスト教、ケーキなどの料理、飾り付けに関する本を集めるといった特集棚やテーマ展示を図書館は頻繁に企画していると話す。尾園氏は一部の書架やコーナーを使って限定的に催すテーマ展示を「図書館全体でやってしまった」(尾園氏)のがTSUTAYA図書館である、と嘆息する。

 CCCが運営する海老名市立中央図書館ではNDCのラベルの上にライフスタイル分類による新ラベルが貼られてしまっており、通常NDCを学んでいる司書もその能力を発揮できない。またすべて公開されているNDCとは対照的に、ライフスタイル分類は詳細な区分表が「非公開」である点も問題視されている。NDCなら間違った配架はすぐ見つけられるが、ライフスタイル分類の場合だと、本の所在が一斉点検までわからなくなる恐れもある。

「書店と図書館の考え方の違いなのか」と、尾園氏は感想をもらす。書店であれば同じ本を何冊か仕入れられる。「旅行・イタリア」の棚にイタリアの歴史本やイタリア料理本が置かれていても、「歴史」や「料理」の棚にも同じ本が並んでいれば、書店では問題はおこらない。しかし、図書館では同じ本を何冊も購入することは稀だ。「歴史の本を探しに来たのに、それが歴史の棚になく、旅行の棚まで行かなければいけない」(尾園氏)のは滑稽だ。

 CCCの資料にNDC分類に対する認知率調査(1000人対象)の円グラフが掲載されていたが、それによると認知率33%、実際に活用している人は15%だという。利用者レベルではNDCに理解が薄いことを強調しようという意図が透けて見える。だが、大ジャンルが0~9と少なく、下位の区分もある程度の法則性(1が日本、2が中国・東洋を表す場合が多い)を持つNDCのほうが25ものジャンル区分があるライフスタイル分類に比べ、はるかに覚えやすいはずだ。何より図書館司書はNDCを勉強して熟達しているわけだから、レファレンスサービスでもはるかに迅速に対応できる。NDCで使われる項目名には古めかしいものも多いが、過去から現在まで、幾世代にもわたって所蔵資料を管理する「継続性」からしてやむをえないことだ。こういった図書館の重要な機能が、ライフスタイル分類で破壊されてしまうのではないかと、危惧を覚える人は少なくない。CCCが運営するTSUTAYA図書館で、人類が過去から築き上げてきた知的遺産をうまく次世代に伝えていけるのか。不安が尽きない。
(竹内一晴)

最終更新:2017.11.24 07:54

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