思想統制、人格統制、教育格差化……安倍政権の「教育改革」が危険すぎる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 それにしても「教育の危機」はこの20年、常套句として繰り返されてきたが、一体何をどう改善したがっているのか。著者はその狙いが透ける典型例として2002年に文科省が策定した「21世紀教育新生プラン:7つの重点戦略」の広報パンフレット「危機に瀕する我が国の教育」にある4つの見出しを挙げる。

1:いじめ、不登校、校内暴力、学級崩壊、少年犯罪
2:個人の尊重を強調し「公」を軽視する傾向
3:行き過ぎた平等主義による子どもの個性・能力に応じた教育の軽視
4:これまでの教育システムが時代や社会の進展から取り残されつつあること

 (1)は言わずもがな解決が必要だろう。(2)は驚くべき文言だ。なんたって、個人を尊重しすぎだから、それよりも公(=愛国心)を重視せよという。極めて露骨だ。(3)はそもそも文章として奇妙。だって(2)で個人の尊重はもういいと書きながら、個性に応じた教育が必要だと書いているのだから。この(3)の本音は別のところにある。個々人に平等に付き合いすぎるあまり、エリートが生まれにくい教育体制が生まれており、これを抜本的に改善したいのだ。著者もこの(3)を「能力主義・新自由主義」的だと分析している。(4)はちっとも具体的ではない。いかにして時代や社会の進展から取り残されているかが見えてこない。

 今年放送された木村拓哉主演の「HERO」はなんと文科省が「道徳教育」をテーマにタイアップしていた。制作発表には下村文科相が出席し、「徹底的に生きるとは何なのかを目指す、すばらしい番組」(朝日新聞・2014年9月18日)と絶賛した。その上でちゃっかり、下村文科相の写真入りの「HERO」のポスターを作成、全国の小中学校に向けて80万枚も配ったという。そのポスターの狙いは、この4月から「心のノート」の改訂版として使われている教材「私たちの道徳」の使用呼びかけだった。

 安倍政権にとって「道徳の教科化」は第一次政権時代から続く悲願。この長期政権の間に、教育改革はじわじわと、個人の尊重よりも我が国と郷土を愛する「公」を尊重せよという方向で突き進んでいく。「教育の危機」を訴え続けてきた成果が遂に実ると意気揚々だが、その勢いにこそ「教育の危機」を感じざるを得ない。
(武田砂鉄)

最終更新:2014.12.29 08:14

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

安倍「教育改革」はなぜ問題か

新着芸能・エンタメスキャンダルビジネス社会カルチャーくらし

思想統制、人格統制、教育格差化……安倍政権の「教育改革」が危険すぎるのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。安倍晋三教育武田砂鉄の記事ならリテラへ。

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄