『まどマギ』の人気脚本家・虚淵玄が苦言!ネット評価は緩やかな言論統制の産物

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 そもそも脚本は視聴者の目に直接触れることはない。そのため、脚本家について評価することは本来であれば難しいはず。実際、「アニメの脚本とゲームのシナリオでは、書き方の違いはありますか?」と問われ、こう答えている。

〈歴然と違います。(中略)アニメの脚本は、要は監督と絵コンテの演出さんに見せるためのものなので、お客さんが読むものではないんですよ。しいて言うなら声優さんが読むわけですが、それも声優さんの演技を通して別ものに翻訳されていくので、しょせん設計図なんですよ〉

 また、自作の『PSYCHO-PASS』について、“未来警察もの”として『攻殻機動隊』や『パトレイバー』といった同ジャンル作品との差別化のためにフィリップ・K・ディックを参考にしたと語っている。ここからも共同制作上での役割に自覚的であると同時に、ジャンルにおける自作の立ち位置にも非常に意識的に取り組んでいることが伺える。おそらくこうした作家性と切り離した冷静な視点こそが虚淵氏に成功をもたらしたのだろう。

 しかし、こうした虚淵氏の思いとはまったく別に、ファンの間の虚淵評価は急激に高まっていった。それらはおもにネット、Twitterなどのソーシャルメディアの中で醸成されたものだ。

 実は虚淵氏は同誌の『楽園追放』特集のなかで、こうしたネット言論についても言及している。この15年の情報環境の変化について聞かれた際、「世代的についネガティブになってしまいます」としたうえで、こんな感想をもらしている。

〈「これからはインターネットのおかげでみんなお友達になれるぞ」って。僕らの世代が社会人になったときのビジョンはバラ色だったので、まさかネットのおかげで友愛や相愛が理解されるよりも早く偏見や憎悪が分散されちゃうことになるなんて思いもしませんでしたし、悲しい結末ですよね〉

 さらに、ちょうど『まどマギ』の時期に一気に普及したTwitterについてもこう話す。

〈いつの間にやら恐ろしいメディアになりましたけど。日に日に使い方が難しい代物だと思いますね。ネットのお祭り騒ぎがメインになってしまっていて、情報そのものを手に入れるための手段ではなくなっていますし。「たとえデマでも祭りになるならいいじゃない?」という恐ろしい空気を感じますよね〉
〈それが常識になってしまうと、うかつに口を開けなくなりますよ。何をネタにしていじられるのかわからない世界って、一種のゆるやかな言語統制のようなものですよね〉

 サイバーパンクSFである『楽園追放』は、電脳世界「ディーヴァ」が物語の鍵を握る。もしかすると、そこには虚淵氏のネットへの失望が反映されているのだろうか。こんなことをいうと、あのクールな調子で「それはただの深読みです」と返されてしまうかもしれないが……。
(小熊けい)

最終更新:2018.10.18 04:24

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