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「侮辱罪の刑罰強化」の目的は政権批判封じ=ロシア化だ! 自民党PT座長の三原じゅん子は「政治家にも口汚い言葉は許されない」
三原じゅん子Twitterより
ロシアによるウクライナ侵略に注目が集まるなか、岸田政権が“ロシア化”に繋がりかねない決定をおこなった。8日、岸田政権は刑法などの改正案を閣議決定したが、この改正案には「侮辱罪の刑罰強化」が含まれているからだ。
現行の侮辱罪の法定刑は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」だが、この改正案が今国会で通れば「1年以下の懲役もしくは禁錮、または30万円以下の罰金」が追加され、公訴時効も1年から3年に延長される。つまり、誹謗中傷などに対して懲役刑を科すことが可能になり、現在の名誉毀損罪にかなり近くなるというわけだ。
侮辱罪の刑罰強化の動きが活発化したのは『テラスハウス TOKYO 2019-2020』(フジテレビ)に出演していた女子プロレスラー・木村花さんの死を受けてのことで、岸田政権も侮辱罪の刑罰強化について「ネット上の誹謗中傷を抑止するため」と説明。ネット上でも賛同の声があがっている。
ネット上の誹謗中傷に対して被害者救済などの何らかの対策は必要であることは事実だろう。とりわけSNS上では、性被害を告発したりジェンダー平等を訴える女性や在日コリアンが標的にされるケースも頻発している。だが、問題なのは、侮辱罪の厳罰化を進めてきた自民党の真の目的が、ネット上の悪質な侮辱行為にかこつけた「権力批判の封じ込め」にあることだ。
そもそも、名誉毀損罪は公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立するが、例外規定として、公共の利害にかんする内容かつ公益を図る目的があり、その内容が真実であれば罰せられない。また、真実だと信じてもやむをえない状況や理由、つまり「真実相当性」があれば悪意はないとして違法性は阻却されることになっている。一方、侮辱罪は事実を摘示しなくても公然と人を侮辱した場合に成立し、名誉毀損罪のような例外規定がない。何をもって「侮辱」とするかは極めて曖昧だ。
そして、今回の侮辱罪厳罰化の狙いは、政府・与党政治家への批判を「誹謗中傷」「侮辱」だと解釈し、気に食わない言論や表現への弾圧に利用しようというものだ。
自民党PT座長の三原じゅん子が町山智浩のツイートに漏らした「本音」とは…
実際、木村花さんの死を受け、自民党は「インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、安倍政権下の2020年6月に侮辱罪の厳罰化などを求める提言案を政府に提出したが、その座長となった三原じゅん子参院議員は映画評論家・町山智浩氏の〈木村花さんを政治に対する批判封じ込めに利用しないで欲しいです〉というツイートに対し、〈政治批判とは検討を加え判定・評価する事です。何の問題も無い。ご安心を〉と取り繕いながら、つづけてこう投稿したのだ。
〈しかし、政治家であれ著名人であれ、批判でなく口汚い言葉での人格否定や人権侵害は許されるものでは無いですよね〉
ようするに、最初から木村さんの死を利用して、表現の自由を潰し、政治家への言論を規制する気が満々だったのである。
そして、今回の侮辱罪厳罰化の審議では、こうした政治家への言論を規制したいという目論見に対し、何の歯止めもなされていないのだ。
刑法35条では「正当行為は罰しない」と規定され、侮辱罪の厳罰化をめぐる法制審議会の審議でも「政治批判など公益のための言論なら罰されない」という意見が出されているが、しかし、公益性があるかどうかを判断するのは権力側の捜査当局だ。事実、この法制審議会での議論に対し、言論法やジャーナリズム研究が専門の山田健太・専修大学教授は〈侮辱罪の免責の説明としてはあまりに牧歌的だし、実態にもあっていない〉と指摘。さらに、こうも述べている。
〈部会委員からは「侮辱はそもそも価値のある言説ではないから、違法性阻却を考える必要がない」との理解が示され大勢を占めていた。それゆえに侮辱罪に名誉毀損同様の公共性がある場合の特例(刑法230条の2の免責要件)を認めることは否定的で、一般市民の政治家への批判が、悪口では済まず「侮辱」と認定される余地があることを示している。〉(琉球新報2021年12月11日付「メディア時評」)
言わずもがな、「公人中の公人」である政治権力者、とくに政府・与党政治家は、ときに「口汚い言葉」になるような苛烈な批判も受け入れるべきものだ。そして、プーチン政権への批判を圧殺するために言論統制を強めているロシア政府を見れば一目瞭然であるように、いかに辛辣で品位を欠く表現であろうが、為政者に対して自由に批判できることこそが民主主義国家としての絶対条件、最後の砦だ。ところが、このままでは為政者に対する正当な批判さえも「誹謗中傷」にすり替えられ、侮辱罪が適用される危険が高いのである。
しかも、街頭演説での市民のヤジを「憎悪」「誹謗中傷」呼ばわりし、「こんな人たちに負けるわけにいかない」などと市民を指差した安倍晋三・元首相や、水道橋博士のツイートに対して訴訟をちらつかせた日本維新の会の松井一郎代表をはじめとする為政者の振る舞いを見れば、批判的言辞に対して「侮辱だ」と恫喝をかけてくることは目に見えている。
世界の流れに逆行する厳罰化の真意 自民党が狙うロシアと同じ「言論弾圧できる体制」
いや、それだけではない。このまま為政者などの権力者に対する批判が侮辱罪に適用されるかどうかが曖昧なまま厳罰化されれば、批判的な言論自体が萎縮していくだろう。実際、前出の山田教授は、法制審議会の議論において「抑制的な量刑の引き上げで萎縮効果は生まれないし、ネット上の表現行為にはより強い抑止効果が必要」という意見が続いたことに対し、〈その前提には現実社会に萎縮は起きていないという認識があるようだ〉と指摘した上で、〈近年続いている様々な集会や催し物における作品の撤去、デモや集会の中止といった、忖度による表現の自由の可動域の縮減は、萎縮そのものではないのだろうか〉と記述。また、札幌弁護士会憲法委員会委員長代行である田村智幸氏も〈厳罰化されれば長期間身柄を拘束される可能性が出てくる。多くの国民は批判的な表現をすることに抵抗を感じ、必要以上に消極的になるでしょう〉と述べている(北海道新聞1月12日付)。
そもそも、世界的には侮辱罪や名誉毀損罪は非犯罪化の流れにあり、当事者間の民事訴訟で解決をめざす動きになっている。国連自由権規約委員会も2011年に名誉毀損や侮辱などを犯罪対象から外すことを提起、「刑法の適用は最も重大な事件に限り容認されるべきで拘禁刑は適切ではない」としている。ところが、今回の侮辱罪厳罰化は世界の流れに逆行するだけでなく、もっとも懸念すべき権力者への批判封じ込めに濫用されかねないシロモノになっているのである。
山田教授は前述した琉球新報掲載のメディア時評のなかで、こう警鐘を鳴らしている。
〈日本では、政治家や大企業からの記者・報道機関に対する「威嚇」を目的とした訴訟提起も少なくない。いわば、政治家が目の前で土下座させることを求めるかのような恫喝訴訟が起きやすい体質がある国ということだ。そうしたところで、より刑事事件化しやすい、あるいは重罰化される状況が生まれれば、間違いなく訴訟ハードルを下げる効果を生むだろう。それは結果的に、大きな言論への脅威となる。〉
ロシアの言論弾圧を目の当たりにしている真っ只中に、岸田政権が今国会での成立を目指す侮辱罪厳罰化。それでなくても自民党は、つい先日も情報通信戦略調査会に民放連とNHKの専務理事を出席させ、「不祥事を起こした政治家が不快な表情をする映像が流れていることに対しBPOは注意しないのか」などと質問した上、佐藤勉会長が「BPO委員の人選に国会が関われないか提起したい」と言い出す始末。政治や公権力からの圧力に抗して放送の自主・自律を守るための機関(「NHK放送文化研究所 年報2019 第63集」)であるBPOにまで介入しようとする言論統制体質は、安倍政権時代から何も変わっていないのだ。今後、侮辱罪厳罰化について国会での審議を注視していく必要がある。
(編集部)
最終更新:2022.03.15 05:01
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