夫婦別姓を認めない最高裁判決の裏に政治への忖度が…夫婦別姓もLGBT法案も安倍晋三がツブした!

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安倍晋三Twitterより


 この国は一体いつになったら女性の権利を認めるのか。夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定は違憲だとして事実婚の夫婦3組が別姓での婚姻届の受理を求めた家事審判の特別抗告審で、本日23日、最高裁大法廷は、2015年の判断を踏襲して再び「合憲」との判断を示したからだ。

 今回の「第二次夫婦別姓訴訟」では、家裁と東京高裁が〈夫婦同姓には「子を含めて家族と認識しやすい」「家族の一員と実感できる」という合理性があるとした15年の判決を引用〉して「(民法と戸籍法の)規定は夫婦になろうとするものに対する一律の扱いを定めたもので、信条にもとづく差別的な規定ではない」として訴えを退けていた(朝日新聞デジタル23日付)。だが、別姓を希望する夫婦が法律婚の効果として生じる権利や利益を受けられないというのは明らかな差別であり、この判決自体がありえないものだ。

 しかも、夫婦同姓は「子を含めて家族と認識しやすい」「家族の一員と実感できる」などという理由から定められたわけではない。この国における夫婦同姓の原則を定めたのは明治民法が最初だが、明治民法では戸主を絶対権力者に位置づける「家制度」を定め、「氏」を「家」の名称とし、夫婦も子どもも皆、同じ氏に統一した。

 そして、この「家制度」の下で女性は圧倒的に地位が低く設定されていた。女性は男性の「家に入る」のが基本。妻は財産を夫に管理され、親権も与えられず、妻の不貞のみ罪に問われた。妻は戸主に絶対服従、夫の所有物のような存在だった。夫婦同姓はこうした女性差別の元凶ともいえる「家制度」の名残であり、実際にいまも夫婦同姓制度によって名字を変えるのは96%が女性だとされているように、改姓で不利益を被っているのはほとんどが女性だ。

 つまり、夫婦同姓は憲法に定められた男女平等に反する人権侵害かつ差別制度にほかならず、不平等を訴える声に対して前近代的な価値観にだけ合理性を認めるこの「合憲」という判断は、まったく承服しがたい。

 そして、今回、時代によって変化した人びとの意識や社会実態に反した異常な判断を最高裁が示したのは、政権の姿勢や顔色を伺った結果だろう。

 実際、選択的夫婦別姓をめぐっては、昨年の菅内閣の発足後、5年に1度、政府がまとめる男女共同参画基本計画の策定にあたって橋本聖子・女性活躍担当相(当時)が実現に向けて検討を進める方針を打ち出すなど、一気に制度化に向けて動き出すかのように見られた。ところが、計画案は自民党の部会で修正に次ぐ修正に追い込まれ、〈戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ〉や〈家族の一体感を考慮〉といった文言まで追加される始末で、表現を大幅に後退させてしまった。

 さらに、自民党は3月に選択的夫婦別姓制度を議論するワーキングチームを設置することを公表したが、議論のたたき台をつくる幹部に選ばれたのは石原伸晃・元幹事長に西村明宏・前内閣官房副長官、冨岡勉衆院議員と奥野信亮衆院議員と幹部は全員が男性で、女性議員を入れようともしなかった。しかも、下村博文政調会長は女性議員を入れずに男性議員だけで論点整理をおこなうことについて、「ニュートラル(中立)な方に幹部になってもらった」などと言い放ったのだ。

辞任後、反対の動きを活発化させた安倍 過去には「夫婦別姓は共産主義のドグマ」と狂信的発言

 しかし、本サイトでも指摘したように、実際には幹部に選ばれた男性議員のほとんどが選択的夫婦別姓に「中立」どころか「反対」の立場だった(詳しくは既報参照)。案の定、このワーキングチームの議論では制度導入の是非には踏み込むことはなく、下村政調会長は6月16日の記者会見で「本格的な議論は衆院選が終わってからしたい」と先送りを表明した。

 この政権与党である自民党の姿勢を見れば、とてもじゃないが選択的夫婦別姓制度の導入など期待できようもない。

 そして、このように自民党の議論を硬直化させている元凶こそ、安倍晋三・前首相の存在だ。

 安倍前首相といえば、下野時代には「夫婦別姓は家族の解体を意味します」「左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)」(「WiLL」2010年7月号/ワック)などと語ってきた夫婦別姓反対派の急先鋒。首相に返り咲いてからは過激な反対論を唱えることはなかったが、2019年の参院選でおこなわれた日本記者クラブの党首討論会では、質問に挙手で回答するコーナーで、選択的夫婦別姓制度導入の賛否を問われた際、安倍首相だけが手を挙げなかった。

 しかも、昨年9月に「持病」を理由に首相を辞任して以降は、強硬な反対派として党内の極右議員を束ね、動きを活発化。実際、反対派として党内で立ち回っているのは、山谷えり子・元拉致問題担当相や高市早苗・前総務相、衛藤晟一・前少子化対策担当相、有村治子・元女性活躍担当相、長尾敬衆院議員、赤池誠章参院議員らといった、いずれも安倍前首相に近い極右議員ばかりだ。

 さらに、前述したように自民党内の会合では男女共同参画基本計画の政府原案に対して反対派が削除や修正を要求する事態となったが、そのとき、長尾議員はこんなツイートをおこなっていた。

〈あの会議をこちらの重要会議にぶつけて来た(ーー;)
重要会議に出席予定だった前総理も、迷う事なく瞬時にご了解頂き延期したよ。〉

 前総理というのは、言うまでもなく安倍前首相のことだろう。つまり、長尾議員は安倍前首相とともに別の会議に出席予定だったが、選択的夫婦別姓の会合が開かれることになり、安倍前首相が「迷う事なく瞬時に了解」したことで延期させた、というのである。

 このように、一気に動き出すと見られた選択的夫婦別姓制度の導入は、女性蔑視や差別を扇動してきた安倍前首相に近い極右議員の巻き返しによって、進展するどころか大きく後退に追いやられてしまったのだ。

LGBT法案に、安倍は「これは闘争だ」と宣言、「絶対に通すな」と総務会役員に圧力

 しかも、安倍前首相が後退に追いやったのは、選択的夫婦別姓制度の導入だけではない。超党派の議連で合意された「LGBT理解増進法案」についても、安倍前首相が「これは闘争だ」と言い、〈(議連がまとめた修正案を)絶対に通すなと総務会役員に直接、攻勢をかけた〉と報じられている(「AERA」6月21日号/朝日新聞出版)。

 ご存知のとおり、「LGBT法案」をめぐる自民党内の会合では、“安倍チルドレン”でネトウヨ議員の簗和生衆議院議員が「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」などと差別発言をおこない問題に。これほどの直球差別発言が繰り広げられたというのに、それでも自民党は簗議員に処分を下すこともなく、さらには「LGBT法案」を店晒しに。結局、ヘイトスピーチを撒き散らかしただけで終わってしまった。

 選択的夫婦別姓制度の導入、そしてLGBT法案の国会提出を見送らせた極右議員の背後にある、安倍前首相の存在。ここにきて自民党の憲法改正推進本部最高顧問のほか数々の議員連盟の顧問に就任するなど、体調を理由に首相を辞任したのがまるで嘘みたいにフル回転状態の安倍前首相だが、選択的夫婦別姓制度の導入やLGBT法案に反対する「黒幕」として存在感を示そうとするのは、支持者からの求心力を再び強めたいという意図があるのは明らか。もちろん、その先に見据えているのは首相への「再々登板」だ。

 そもそも、菅内閣の発足によって選択的夫婦別姓制度の導入の議論が進んだのは、猛反対していた安倍首相が退陣したからこそだった。だが、安倍前首相の影響力は党内でいまだ絶大で、実際に議論はことごとく潰されていった。安倍氏が首相を退陣したくらいでは自民党は変わらない、ということが証明されたのだ。

 差別がまかり通るこの社会を変えるためには、時代によって変化した人びとの意識に即した法律への変更、すなわち立法府たる国会において選択的夫婦別姓制度を実現させるほかない。しかし、自民党が政権与党であるかぎり、それは実現できないことははっきりとした。別姓を選択できる権利、性的少数者の権利を認め、差別を許さない社会の実現のためには、まず秋におこなわれる見通しの総選挙で自民党にNOを叩きつけるしかない。

最終更新:2021.06.23 09:16

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