池袋事故で“上級国民”批判が広がる理由とは…安倍政権や検察・警察の身内優遇に鬱積される国民の怒り

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上級国民」を顕著化させる安倍政権(首相官邸HPより)


“上級国民”批判が止まらない。周知の通り今月19日、東京・池袋で87歳の男性が運転する乗用車が暴走。31歳の母親と3歳の娘がはねられ死亡、8人が重軽傷者を負ったが、男性はその場で逮捕されなかった。ネット上では男性が通産省(現・経産省)の元高級官僚であったことが注目され、「上級国民」なるスラングが爆発的に拡散。「上級国民だから逮捕されなかったのだ」といった憶測が広がるとともに、男性に対する口を極めた批判がSNSで相次いだ。

 たしかに、東大卒業後に通産省入りし工業技術院のトップまで務め、退官後も大手メーカーの副社長となり、2015年秋の叙勲では瑞宝重光章を受け取っている男性の経歴は“エリート”と言われるに値するだろう。また、多数の死傷者を出した交通事故の場合、警察は容疑者をその場で逮捕、拘留して取り調べを進めることが多い。高齢者の場合でも逮捕されている例は数多くあり、この男性が逮捕されないというのは一見、不自然な感じもする。

 もっとも、一方では人身事故を起こしても、健康状態などを警察が考慮して、現行犯逮捕をしないというケースもある。今回の池袋事故の場合も、事故を起こした男性が怪我で入院したことが主な理由とされており、本当に「上級国民だから逮捕されなかった」のかどうかはまだ判然としない。

 だが、現段階で「加害者が元官僚だから、当局が忖度したのではないか」との疑問が出て、ネットで「上級国民」なる概念が拡散してしまうのは、相当の理由がある。

 それは、逮捕・拘留が当局の裁量次第で恣意的に運用され、身内の官僚に甘い処分が下されるケースが多いのは明らかな事実だからだ。実際、前回の記事でも指摘したように、現役検事や元検察幹部が人身事故を起こしたにもかかわらず、逮捕されなかったり、事故そのものが報道されなかったりというケースも相次いでいる。

 交通事故だけではない。安倍政権下では、政治家や安倍首相に近い人物たちが、通常なら逮捕や起訴されるケースで不可解にも免れたということがたびたび起こっている。

 典型的なのが、伊藤詩織さんから準強姦の被害を告発された“安倍官邸御用ジャーナリスト”山口敬之氏をめぐる一件だ。 2015年4月、山口氏は詩織さんを仕事のためのビザについて話をしようと食事に誘う。そして、詩織さんをタクシーで自分が宿泊しているホテルの一室に連れ、性行為に及んだ(この点は山口氏も詩織さんへのメールで認めている)。詩織さんは警察に被害を訴え、ホテルの防犯カメラに残された映像などから、高輪署が事件として捜査を進め、その後、逮捕状も発布された。

 ところが、2015年6月8日、複数の捜査員がアメリカから成田空港に帰国する山口氏を準強姦容疑で逮捕するため、空港で待ち構えていたところに、直前でストップがかかった。2017年5月の司法記者クラブでの会見で、詩織さんはこう語っている。

「『警察のトップの方からストップがかかった』という話が当時の捜査員の方からありました。『これは異例なことだ』と。当時の捜査員の方ですら『何が起こっているのかわからない』と」

 このとき、山口氏の逮捕取りやめを指示したのは、当時の警視庁刑事部長・中村格氏だった。「週刊新潮」(新潮社)の直撃に本人が「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と認めているのだが、この中村氏は、第二次安倍政権発足時に菅義偉官房長官の秘書官をつとめるなど「菅官房長官の片腕」として有名な警察官僚。つまり、「安倍首相に食い込むジャーナリストの逮捕を、菅官房長官の右腕が直前で食い止めた」という構図であり、“政権を忖度した逮捕取りやめ”ではないかと強く疑われている。

 その後、山口氏は準強姦罪で書類送検こそされたものの、2016年7月に「嫌疑不十分」として不起訴に。詩織さんは実名顔出しでの会見を開いた2017年5月に検察審査会に審査を申し立てたが、同年9月に「不起訴相当」の議決がなされ、現在は民事で山口氏と係争中だ。

安倍政権に近い政治家や官僚は逮捕さらず、権力にたてつく者はずっと拘留

 他にも、政治家の汚職や不正疑惑をめぐっても不可解なことが相次いでいる。国会議員は憲法で定められたいわゆる「不逮捕特権」があるため、そもそも逮捕のハードルは高いのだが、2000年代ぐらいまでは大物政治家の逮捕がたびたび世間を賑わせてきた。だが、第二次安倍政権が始まって以降、そうした話はパタリと止む。起訴確実と思われながらも不起訴になるというケースが多発したのだ。

 たとえば、小渕優子経産相(当時)の政治資金収支報告書をめぐる疑惑や、甘利明経済再生担当相(当時)のあっせん利得疑惑がそうだ。検察特捜部が捜査に乗り出したが、結局、逮捕もせず不起訴にした。とくに小渕のケースの場合、パソコンのハードディスクをドリルで破壊するなどの証拠隠蔽まで行われていた。だが、司法当局は小渕自身はおろか秘書を逮捕することもなかった(秘書は在宅起訴で執行猶予付きの有罪判決)。

 森友事件をめぐる当局の対応の差も記憶にあたらしい。財務省の佐川宣寿・元理財局長は、森友学園に約8億円も値引きして国有地を売却した問題に絡む決裁文書の改ざん等、虚偽公文書作成などの疑いをかけられたが、大阪地検特捜部は佐川氏を不起訴にした。もちろん逮捕もされていない。この不起訴をめぐっては市民団体が検察審査会に審査申し立てをし、先月には「不起訴不当」の議決が出ている。

 一方、森友問題では、森友学園の籠池泰典理事長夫妻が10カ月もの長期にわたって拘留された。籠池氏は国会の証人喚問でも安倍昭恵夫人の存在によって「神風が吹いた」などと証言した後、国有地売却問題と全く関係のない補助金詐欺容疑で逮捕されたのだ。これは明らかに“口封じ”のための逮捕と言わざるをえないものだった。

「上級国民」批判の正当性とあやうさ、怒りは本当の悪に向かっているか

 ようするに、第二次安倍政権では、権力にたてついたり、告発したりした人間は長期勾留される一方、政権中枢に近い政治家や官僚は、身柄を拘束されない、という状況がこれまで以上に顕在化しているのだ。そして、そのことに対する不満や不信感が国民の間に蓄積され、それがいまネット上で「上級国民」批判というかたちで噴き出しているということだろう。

 ただ、気がかりなのは、その怒りを向ける方向だ。こうした「上級国民」批判には、問題の本質は公権力の不公正、格差社会であるにもかかわらず、近視眼的になって、怒りを身近な話題、わかりやすい小さな対象に向けてしまう傾向がある。政権や、検察・警察という組織や幹部の不正を追及するのではなく、末端の公務員や事件の当事者批判に拘泥してしまう。さらには、在日特権などのようなデマに踊らされ、弱者攻撃に発展するケースも少なくない。

 今回の池袋事故にもその傾向は見て取れる。ネットを支配している“上級国民バッシング”の多くは、事故を起こした男性への攻撃なのだ。「早く逮捕されろ」、「死ね」などの感情的な言葉も少なくない。

 しかし、わたしたちはもっと本質的な問題、本当の悪に目を向けるべきだろう。今回の事故でも、最も批判されるべきは逮捕と不逮捕を恣意的に決めていると疑われる日本の警察のやり方や司法制度の方であるはずだ。そのことを改めて念押ししておきたい。

最終更新:2019.04.28 12:09

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