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安倍首相の「お父さん違憲なの」はやはりでっちあげ? 日本会議系団体が50年以上前の話を改憲プロパガンダで拡散
首相官邸HPより
統計不正をめぐるデタラメ答弁が次々露呈している安倍首相だが、例の「お父さんは違憲なの?」発言も、でっち上げの疑いが濃厚になってきた。
改めて説明しておくと、これは安倍首相が最近、9条加憲の理由としてやたら口にしている話。自衛隊員が目に涙を浮かべた子どもから「お父さんは違憲なの?」「学校の先生に言われた」という話を聞いた、だからそんなことのないように自衛隊を憲法に明記する必要がある、というものだ。
そもそも大前提として「お前のお父さん憲法違反!」といじめられた子どもがいるのだとしたら、おこなうべきはいじめの解消・解決であって、「子どもが違憲と言われたから」改憲するということ自体がむちゃくちゃだが、国会ではそのエピソードの真贋が論議になっている。
まず今月13日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の本多平直議員が「私の実感と違うんですよ。私は、小中学校とずっと自衛隊の駐屯地のそばで育ち、たくさん自衛官の息子さんがいて、こんな話が出たことがないんですよ」と質問。すると安倍首相は血相を変えて、なんら具体的な事を言わずにこうまくし立てていた。
「本多委員はですね、私が言っていること、嘘だって言っているんでしょう? それは非常に無礼な話ですよ。嘘だって言っているんでしょ、あなたは。本当だったら、どうするんです、これ。あなた、嘘だって言ってるんだから!」
「私が嘘を言うわけないじゃないですか!」
まったく、これまでさんざん国民に嘘をつきまくってきた安倍首相がよく言えたものだが、このとき安倍首相は「資料を出せと言うんであれば出させていただく」と大見得を切っていた。
そして、20日の衆院予算員会で、同じく本多議員が「いずれにしてもこんな話が憲法改正の理由になること自体がおかしいと思う」とした上で、「一応、実話かということについてご準備をいただいているようなのでお答えいただけますか」と改めて質問したのに対し、安倍首相はこう答弁したのである。
「ご指摘のエピソードについてはですね、えー、防衛省担当の総理秘書官を通じて、あの、航空自衛隊の幹部自衛官から伺った話、であります。航空自衛隊の幹部自衛官ということをここで述べていいかということを、本人に秘書官を通じて確認をしております。これ以上詳しいことはですね、自分と自分の息子も、あるいはその時の学校の先生にも関わることなので、これ以上は述べないでもらいたいと言われておりますので、えー、この航空自衛隊の幹部自衛官から伺ったということまででとどめさせてもらいたいところでございますが、秘書官自身が自衛官本人から直接、聞いたものであると、このように考えております」
ようするに、安倍首相は出すと言っていた資料を出さないまま、自分の「秘書官」から「航空自衛隊の自衛官」の話を間接的に聞いたと言い出したのだ。
そこで、本田議員はその防衛省担当の総理秘書官に「いつ頃、ご自身の話なのか、友人の話なのか」と参考人として質問しようとしたのだが、安倍首相はこれを遮って自ら答弁した。
「いわば私の秘書官ですから、私は答えるのが当然当たり前であってですね、私に聞けばよい話で、今言ったことが全てでございまして、これをですね、では、これが違うというのであればですね、その違うという証拠を出していただかなければですね、いちいち秘書官をですね、このことで、それはどうかと思いますので」
安倍首相が「秘書官から聞いた」と主張するのだから、その秘書官にあらためて事実を確認するのは当然で、しかも、事実だとすれば秘書官も何を聞かれても問題ないはずだろう。なのに、なぜ拒否したのか。それは、この話に後ろめたさがあるからとしか思えない。
“自衛隊幹部から直接聞いた”を“秘書官からのまた聞き”に修正した安倍
実際、安倍首相の今回の説明には、自身がこれまで吹聴してきたエピソードと、明らかに食い違っている部分がある。「これが違うというのであれば証拠を出せ」という安倍首相のリクエストに応じて、検証してみよう。
そもそも、安倍首相がこの「自衛官が息子に『お父さんは違憲なの?』と目に涙を浮かべながら言われた」なる逸話を改憲の理由に持ち出し始めたのは2017年からだ。調べたところ、記録として確認できるのは、同年6月24日、神戸市のポートピアホテルで行われた「神戸『正論』懇話会」の設立記念特別講演会での講演。安倍首相はこのなかで、憲法改正に関して「中学や高校の教科書の多くが、自衛隊について憲法違反という見解があることを記載しています」としたうえで、こう続けていた。
「自衛隊の幹部から、こういう話を聞いたことがあります。その幹部には息子さんがいらっしゃいますが、パイロットのお父さんが大好きで、いつも元気な息子さんだそうであります。その息子さんが数年前、中学校に入った直後、夕食のとき、その日に限ってふさぎこんだ様子で押し黙っていたそうであります。心配になったお父さんが問いただすと、一言、『お父さん、憲法違反なの?』と言って目に涙をためていたそうであります。『合憲だ』と政府見解を説明してもですね、『だって学校でそういう考えがあることを習ったんだよ』と言っていたと言います。果たして皆さん、このままでいいんでしょうか」(産経WEST「安倍晋三首相 神戸正論講演詳報(7)」より)
また、同年10月5日に生出演した『プライムニュース』(BSフジ)でも、安倍首相は憲法改正の必要性として同じく、「ある自衛官から聞いた話なんですが、お子さんから『お父さん違憲なの?』と言われたんですね。非常にショックだったんですね。この状況を変えていく責任が私たちにはあるんだろうと思っています」と語っていた。その後も安倍首相は「自衛官から聞いた」として同じ話を何度も繰り返した(たとえば2018年11月27日衆院予算委員会での答弁など)。
こうやって振り返ればわかるように、これまでは安倍首相自身が“直接”自衛官から聞いた話として語っていたわけである。ところが、事実かどうか問われた今回の答弁では、なぜか「秘書官から聞いた」、つまり“また聞き”だったとすり替えているのだ。
共産党の井上哲士院議員によると、今回は防衛省も口裏を合わせ〈総理は、H29年春頃に防衛省担当の総理秘書官を通じて、航空自衛隊の現役幹部が話していたことを聞いた〉と回答したという(井上議員の19日Twitterより)。
「お父さんは違憲なの」話を語った元自衛官の保守論客はUFO目撃も証言
安倍首相はどうしてこんな発言の“修正”を行なったのか。疑惑はますます深まってくる。安倍首相が秘書官経由で「お父さん違憲なの?」話を聞いたという、航空自衛隊の現役幹部は実在するのか。
実は、一部で、安倍首相が口にしているエピソードの根拠だと指摘されている自衛隊OBがいる。元航空自衛隊空将で、現在では右派論壇人として活動している織田邦男氏のことだ。
織田氏は、「林原チャンネル」(2019年1月21日公開)という右派系インターネット番組で、自分の息子から「お父さん、自衛隊って違憲なの?」と問われたエピソードを公開したうえ、「それを私があるところに書いたら、最近、安倍さんがそのフレーズを使うようになっちゃって、あはは(笑)」と発言していた。
また、日本会議が事務局を担う極右改憲団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の協力で運営されている「KAIKEN channel」なるインターネットテレビでも、今年1月にこのように語っていた。
「私の息子も、小学校だったか中学校だったか忘れましたけれども、帰ってきてね『お父さん、自衛隊って違憲なの?』っていう聞かれたときはショックを受けまして。なんだそれって。先生が言っていると。自衛隊の官舎に住みながらね、息子は疑問を感じたんでしょうね」
一部のネトウヨ、安倍応援団やそれ系のまとめサイトはこの織田氏の存在をもちだして「自衛官は実在している」と安倍首相を擁護しているのだ。
ちなみに、織田氏は現役時代、二等空尉として小松基地の飛行部隊に勤務していた1979〜1980年ごろの体験として、「二機のファントムがスプレッド隊形で能登半島沖を小松基地に向かって、高度一万フィートくらいを降下中に、そのスプレッド隊形の真ん中に、突如、UFOが出現したのです」などと証言したこともある(佐藤守『実録・自衛隊パイロットたちが目撃したUFO』講談社)。また現在は、前述したように、保守言論人として改憲運動に邁進している。そんな人物が「息子に『違憲なの?』と言われた」と語ったからといって、はたして信用していいものなのか。
というか、それ以前に、織田氏は現役自衛官ではないし、安倍首相や秘書官に直接話したわけでもなく、「あるところに書いたら、安倍さんが使うようになった」と言っているのだ。
元自衛官のエピソードは昔の話で本人も「さすがに今ははないだろう」
これでどうして、「現役自衛官幹部から聞いた」という安倍首相の発言が嘘でない証明になるのかさっぱりわからないが、しかし一方で、安倍首相がこの織田氏の文章を元にしていた可能性じたいは捨てきれない。というのも、安倍首相と織田氏がこのエピソードを語るようになった時期がほとんど同じだからだ。
前述したように、安倍首相がはじめて「お父さん違憲なの?」エピソードを披露したのは2017年6月24日、産経新聞が全面サポートする「神戸『正論』懇話会」講演会後のこと。ところが、織田氏はこのエピソードを、その一週間後、2017年6月30日に発売されたまさに産経新聞社発行の「正論」8月号に書いていた(「自衛官は自らを肯定する憲法を守りたい」)。これは偶然なのか。
しかし、もしネトウヨの言うように、織田氏の文章が安倍発言の根拠なのだとしたら、それは逆に安倍首相のインチキを証明することにしかならない。というのも、織田氏は現在67歳。「小学校か中学校の」息子から「お父さん、自衛隊は違憲なの?」と聞かれた時期となると、おそらく30年くらい前のことだと推測できるからだ。
安倍首相がこのエピソードを語り始めた頃から、「自衛隊への批判が強かった70年代、80年代までならいざ知らず、世論調査で90%近い支持のある現在、そんないじめがあるとは思えない」という懐疑的な声が圧倒的だったが、織田氏の「体験談」も、古い昔の話にすぎなかったのである。
実際、織田氏自身も前掲「正論」17年8月号のなかで、こう書いていた。
〈さすがに今は「自衛官の子弟」というだけで、学校で先生たちから虐められることはないだろう(そう信じたい)し、自衛隊は国民に既に定着したから「加憲」しなくてもよいではないかという護憲派もいる。〉
ところが、安倍首相はこのエピソードが「数年前、中学校に入った直後」と言っているのだ。もし、安倍首相が織田氏の書いた文章を元にしていたとしたら、インチキもいいところである。
こういうと、安倍応援団やネトウヨはきっと手のひらを返し、「安倍さんが言っているのは織田氏のことじゃない。ほかにも、同じ目にあった自衛官はいる」と言い始めるだろう。
安倍首相に自衛隊加憲を吹き込んだ日本会議幹部の団体も同じ話を拡散
たしかにこうした話はほかにもある。それは、日本政策研究センター発行の「明日への選択」に掲載されていた。日本政策研究センターは、安倍首相のブレーンで、日本会議幹部である伊藤哲夫氏が率いるシンクタンクだが、同センター所長の岡田邦宏氏がその機関誌である「明日への選択」2017年6月号で、20年以上も前の産経新聞の記事を紹介。産経OBで当時は社会部長だった大野敏明氏が“私は父が自衛官だったことで教師からいじめられた”と書いていたことを紹介しているのだ(ちなみに、このエピソードも60年安保の翌年、つまり50年以上前の古い話だった)。
さらに、翌7月号でも、やはり岡田氏が「違憲論が自衛隊に強いるかくも不条理な境遇」と題した論考で、“自衛隊が違憲であることで生じた「敵視」「蔑視」の言動”を並び立てようと試みていた。
織田氏が「正論」に「お父さん違憲なの?」エピソードを書いたのは前述したように2017年6月。つまり、同じ時期に、保守界隈で“違憲だから自衛官の子どもがいじめられている”という話が語られ始めたのだ。
これは偶然ではないだろう。周知の通り、その直前の2017年の5月、安倍首相が読売新聞のインタビューと極右改憲集会に寄せたビデオメッセージのなかで、自衛隊を憲法に明記する、いわゆる「9条3項加憲案」をぶちあげている。
つまり、この「9条3項加憲案」を正当化するために、改憲勢力や自衛隊出身の右派論客などが、古いエピソードをもちだしたのだ。
ちなみそのひとつである「明日への選択」の発行元・日本政策研究センターの代表・伊藤哲夫氏はいち早く「9条3項加憲案」を打ち出した人物で、安倍首相が打ち出したのも、伊藤氏の指南ではないかといわれている(過去記事https://lite-ra.com/2017/05/post-3147.html)。
そう考えると、安倍首相は「お父さん違憲なの?」話を現役航空自衛官でなく、自分のブレーンである日本会議幹部から「9条3項加憲案」とセットで聞いた可能性もあるだろう。
防衛省幹部も安倍発言に「情緒的すぎる」「とても現在の話とは思えない」
安倍首相の“自衛官の子どもがいじめられている”話は防衛省幹部からも批判されている。
毎日新聞が昨年10月3日夕刊の時点で、「安倍首相の『かわいそうだから改憲』 自衛隊明記で解決するのか」という特集記事を掲載している。事実確認のため、安倍首相の事務所に「子どもに泣かれた自衛官はどんな人で、実際にあった被害は何なのか」「自衛隊を違憲だという憲法学者や人数を把握しているか」などと質問状を送ったところ、期日までに回答はなかったという。しかも、記事では、防衛省の現役幹部のこんなコメントが掲載されていた。
「安倍首相が(改憲論の中で隊員の)子どもの話を持ち出すのは情緒的過ぎます。30年前ならともかく、とても現在の話とは思えません」
「人材確保やPKO派遣先の精査など、改憲よりも先にやるべきことはたくさんある。本質的には『自衛隊はどうあるべきかを国民全体が考えること』が求められているのです。自衛官の家族が気の毒だからとか、一時の政局を改憲の理由にされたら、任務に命を懸けている真面目な隊員たちが『やってられない』と思うのは当然ですよ」
でっちあげプロパガンダのにおいがどんどん濃厚になってきた安倍首相の「現役自衛官が息子に『お父さんは違憲なの?』と言われた」なる話だが、それ以上に考えなくてはならないのは、この“改憲”のロジックのおかしさだろう。仮にその現役自衛官が実在していたとして、なぜいじめそのものを解消するのでなく、ウン百億円もかけて、国際的な評価を受けている日本国憲法を変えようというのか。
安倍首相は「自衛隊加憲でもなんら変わることはない」などと言っているが、
こんな詐術を駆使する政権や人物のいうことなどとても信用できない。実際、もし、自衛隊加憲が現実になれば、強行成立させた安保法制以上に、なし崩し的に自衛隊の軍事活動が拡大されていくのは目に見えている。殉職した自衛官の子どもに、安倍首相はきっと「お父さん、合憲なんだよ」と微笑むのだろう。
(編集部)
最終更新:2019.02.27 11:29
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