愛媛のご当地アイドル自殺で自己責任論ぶつ松本人志に違和感! 貧困、パワハラ、やりがい搾取…アイドルたち過酷な実態

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亡くなった大本萌景さんのブログより

 愛媛県を拠点に活動していたご当地アイドルグループ・愛の葉Girlsの大本萌景さんが今年3月に自殺してしまった事件。大本さんの遺族が約9200万円の損害賠償を求め所属事務所などを提訴したことから、連日メディアで大きく報道されている。

 そんななか、松本人志がまた自己責任論を振りかざして死者に鞭打つような発言をした。

 愛媛県を拠点に活動していたご当地アイドルグループ・愛の葉Girlsの大本萌景さんが今年3月に自殺してしまった事件。大本さんの遺族が約9200万円の損害賠償を求め所属事務所などを提訴したことから、連日メディアで大きく報道されている。

 そんななか、松本人志がまた自己責任論を振りかざして死者に鞭打つような発言をした。

 大本さんのニュースを扱った10月14日放送『ワイドナショー』(フジテレビ)で松本は、「事務所が悪くないと言うことはできないですけど」としつつも、このように語った。

「こういう(自殺の)ニュースを扱うときに我々なかなか亡くなった人を責めれないよね。ついついかばってしまいがちなんやけど、僕はやっぱり『死んだら負けや』っていうことをね、もっとみんなが言わないと。死んだらみんながかばってくれるっていうこの風潮がすごく嫌なんですよ」

 松本は17日未明〈自殺する子供をひとりでも減らすため【死んだら負け】をオレは言い続けるよ。。。〉とツイートするなど、「自殺を減らすため」と言ってはいるが、死を考えるほど追い詰められている子どもに「死んだら負け」などという言葉が届くのだろうか。しかも、わざわざ死者に鞭打つようなことを言う必要があるのか。いつものこととはいえ、松本の強者の論理丸出しにはうんざりさせられる。

 大本さんを自殺に追いやった要因の詳細は裁判での解明が待たれるが、大本さんの死の背景には、決して自己責任では片付けられない、アイドルとしての労働環境、所属事務所の社長やスタッフとの人間関係、経済環境といったものがあったのは明らかだ。

 大本さんの遺族は、彼女を自殺まで追いやった理由として、過重労働、暴言によるパワハラ、仕事優先でスケジュールを組まれたことにより学業との両立が難しくなっていたこと、仕事のために転学した全日制高校の費用を負担する約束を事務所が反故にしたことなどを挙げ、所属事務所・hプロジェクトなどを相手に提訴している。

 遺族側の弁護団によれば、彼女の拘束時間は非常に長く、早朝集合で深夜に解散する現場もあったという。また、昨年の4月から大本さんは通信制高校に進学していたが、日曜に登校日があるためライブイベントと被ることが多かった。そこで、学業と仕事の両立に悩んだ彼女は週末が休みになる全日制の高校への転校を決め、その学費を事務所側が貸すことに決まったが、後に2019年8月末で満了となる契約を更新しない旨を伝えると、事務所側の態度は一変して貸付を拒否。さらに、大本さんに対して「事務所を辞めるのであれば違約金1億円払え」といった脅しを入れたという。

 これ以外にも大本さんが置かれた劣悪な労働環境については語られており、遅刻や忘れ物といったミスに対して罰金を払わなくてはならない制度があったり、平均報酬がわずか月額3万5000円しかなかったり、活動の内容について誰にも口外できない条項が組み込まれていたりと、契約にも多く問題があると遺族側は主張している。

 ただ、事務所社長は過重労働については認めているものの、「違約金1億円」発言については否定していたり、学費についても「貸さないと断ったのではなく、保留だった」と主張しているなど、双方の主張には一致しない部分もある。また、大本さんの全日制高校の学費を家庭で工面することはできなかったのかなどと家族のサポート体制に疑問を投げかける声もある。いずれにしても、松本人志が「死んだら負け」と言うような、大本さんの自己責任など1ミリもないだろう。

 自殺の直接的な原因などは現時点では判断できないが、大本さんがアイドルとして過酷な労働環境に置かれていたことは明らかだ。この痛ましい事件を語るときに必ず考えておかなくてはいけないのは、大本さんのような過酷な労働環境が、地下アイドルやローカルアイドル業界にまん延している事例であるということだ。

 自己責任論に話を矮小化させていい問題ではない。

タダ働き、借金、水道も止まった…アイドルたちが告白した過酷な環境

 たとえば、アイドルという仕事がいかに薄給かということは、仮面女子の元メンバーである森カノンが『仮面女子図鑑』(オークラ出版)で、このように語っていた。

「めちゃめちゃ貧乏なんです。北海道から出てきて一人暮らしなので家賃とかも払えず、借金をするんです」
「カード会社Aから借りてそれを返すためにカード会社Bから借りてまたそれを返すために…ってなるんですよ」
「この仕事はお金のためにやっている仕事ではないじゃないですか。だから夢を見て入って、ライブも楽しいしすごく毎日楽しいのに、家に帰ると緊急停止通知書、みたいな給水停止の通知書が来ていると、やばい水道代払わなきゃ、払うお金がないって気づいて、一気に現実に戻されるんですよ。お金が欲しいわけじゃないけれど、必要最低限のお金もなくってどうしよう、みたいな」

 ただ、森の待遇は、それでもまだマシなほうであるようだ。薄給や劣悪な労働環境や不当な契約条件をめぐって、法廷で争われたケースもある。

 虹色fanふぁーれのメンバーは、不当な専属契約の解除と未払い賃金の支払いを求めて所属事務所・デートピアを提訴している。「週刊文春」(文藝春秋)2017年11月30日号によれば、2015年10月のデビュー以降、契約内容としては3万8000円の月給と定められていた。

 これだけで驚くような額だが、それと同時にレッスン料として3万8000円が差し引かれるというシステムになっており、実質的にはタダで働かされるかたちとなっていた。事務所からは「売れれば、歩合給は出る」と言われていたが、2年間が限界だった。

 しかし、不当な搾取はまだ続く。契約では、〈契約締結から5年は辞められず、契約を解除しても2年間は芸能活動ができない〉との条項があり、芸能活動を続けたいと思う限り、抜け出せない仕組みとなっていたのだ(この裁判は2018年5月31日付で和解。事務所が契約解除を認めることなどが盛り込まれた)。

やりがい搾取、貧困…アイドルを取り巻く劣悪環境の改善を

 もちろん健全に運営されているアイドルもあるが、こうしたトラブルは決してめずらしいことではない。トラブルになったり表面化していなくても、アイドルへの夢や憧れをエサに、いわゆる“やりがい搾取”的に過酷な環境を受忍させられているアイドルたちも少なくないだろう。

 大本さんらアイドルにぶつけられる自己責任論のひとつとして、「どんな事務所なのかよく調べずに入ったのが悪い」「事務所をちゃんと見極めるべき」というものがあるが、大手も含め芸能事務所の契約問題についてきちんとメディアが伝えているとは言い難い。それに、そもそも愛媛など地方ではアイドル活動ができるプロダクションの数も限られているだろうし、また、多くの選択肢がある東京や大阪といった大都市圏に出るにも、金銭や家庭のサポートといった面でハードルが高い。“子どもの貧困”が深刻化するなか、家庭の経済状況によっては都市部のいろんな事務所のオーディションを受けたり情報を入手することすら困難な者だっているだろう。

 そもそも、未成年者を預かる以上、プロダクションは仕事のパートナーであると同時に、親や先生のように保護者的な役割も担う責任がある。

 そうである以上、学業との両立のサポートや心身の健康状態など、アイドルの家庭との密なコミュニケーションは必須なはずだが、現状出ている情報では、それがうまくいっていたとは言い難い。

 裁判による真相の究明と同時に、こうした悲劇を繰り返さないためにアイドルを取り巻く環境が一刻も早く改善されることが必要だろう。

 もう1点指摘しておきたいのは、もし高校の学費問題が自殺のトリガーになっているのだとしたら、“経済的理由で高校に通えない子ども”を生み出している日本の経済政策もやはり大きな問題だ。

 いずれにしても松本人志の言う「死んだら負け」とか「死んだらかばってくれる風潮がいや」とか自己責任で片付けられる話では、まったくないということをあらためて繰り返しておきたい。

最終更新:2018.10.18 11:05

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