4人以上子どもを産んだ女性を表彰し、子どものいない世帯は増税! 安倍政権のあまりにグロテスクな少子化対策

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自由民主党HPより


 安倍自民党が選挙で打ち出した「教育無償化」が嘘八百であったことを昨日の記事でお伝えしたが、じつはもうひとつ、政府がとんでもないプランをぶち上げた。

 2018年度税制改正の主要テーマである所得税改革において、年収800~900万円を上回る子どもがいない世帯に増税とする案を検討しており、今月下旬から議論を進めるというのだ。

 子育て世帯への支援というかたちではなく、子どもがいる世帯と子どもがいない世帯を区別して、いない場合は増税を課す──。これはあきらかに「子どもを産まない/産めない人」への差別ではないか。

 それでなくても日本は、「女性は子どもを産んで当然」という圧力が強い。その一方、不妊に悩む男女カップルは増加傾向にあり、結果として断念する人も少なくない。そうした人たちに「子どもがもてなかったから」と増税しようというのは、傷口に塩を塗るようなものだ。

 いや、そもそもすべての人には、子どもを産むことも、いつ産むのか、何人産むのか、そして産まないという選択をする権利がある。これはリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)という概念で、国連で認められた人権のひとつだ。

 こうした権利を守るためには、本来、子を産む人も産まない人も公平になる制度をつくることが求められる。しかし、産まれてくる子どもには生存権があり、生活水準の確保や教育を受ける権利がある。そのための子どもに対する社会保障や子育て支援は充実させるべきだ。だがそれを、子どもをもたなければ税金を課すというかたちで「分断」しようとすることは、産む/産まないの権利を蹂躙する言語道断の政策だ。

安倍政権の少子化対策は、戦時中の「産めよ殖やせよ」「産児報国」とソックリ

 その上、腹立たしいのは、この増税案の目的が少子化対策であるだろうことだ。さんざん指摘されつづけているように、少子化を食い止めたいと本気で考えているのならば、まずは待機児童問題の解消をはじめ、女性が仕事と育児を両立しやすい環境づくりや、男女ともに不安定雇用や長時間労働の見直し、男性の育児参加、選択的夫婦別姓制度の導入、さらに未婚でも産みやすい社会──男女の賃金格差の是正、同棲や事実婚に法律婚と同様の保護を与える──などを押し進めるのが筋だろう。

 にもかかわらず、そうした必要な整備とは逆行する決定をおこなってきたのが安倍政権だ。2017年末までに待機児童を解消するという公約はあっさり破られ、非正規雇用は増加の一途を辿り、国会で上程予定の「働き方改革関連法案」では、時間外労働の上限規制は過労死ラインの月80時間を超える「月最大100時間未満」。こうして「まずやるべきこと」からどんどん離れた上、「増税対象となるなら産もうという人も増える」などと本気で考えているのだとしたら、まともな政治とは到底言えない。

 だが、もっと恐ろしいことがある。人権を蹂躙する増税案を打ち出そうという安倍政権の「少子化対策」が、戦時中の「産めよ殖やせよ」「産児報国」とよく似ていることだ。

 戦時体制下の1941年、政府が閣議決定した「人口政策確立要綱」では、人口増を目指すべく、上昇中だった平均婚姻年齢を3年早め、21歳ごろには結婚し、夫婦あたり平均5人を産むという目標を立てた。そこで実施されたのは、公営機関による結婚の斡旋(現在の婚活サービス)や学校での母性教育、子どもが多い家庭への優遇策、そして個人主義を不健全な思想として排除することだった(参考:荻野美穂『「家族計画」への道─近代日本の生殖をめぐる政治』岩波書店)。

 この「人口政策確立要綱」が閣議決定されたあとの朝日新聞(1941年1月23日付)には、こんな文言が躍っている。

〈従来の西欧文明に蝕まれた個人主義、自由主義の都会的性格がいけないのだ。自己本位の生活を中心にし子宝の多いことを避ける都会人の多いことは全く遺憾至極である〉

 個人主義を自己本位だと叩くあたりは、安倍政権を熱烈に支持し伝統的家族の復権を謳う日本会議系の極右論壇人とまったく同じだが、こうした「産めよ殖やせよ」の思想は安倍政権が継承しているものだ。

子どもを4人以上生んだ女性を表彰し、子どものいない世帯は増税し処罰

 たとえば、2015年9月に『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)に菅義偉官房長官が出演した際には、福山雅治と吹石一恵の結婚について、こう語っている。

「ハハハ、ほんとうよかったですよね。結婚を機に、やはりママさんたちが、一緒に子どもを産みたいとか、そういうかたちで国家に貢献してくれればいいなと思っています。たくさん産んでください」

 このとき、福山と吹石は結婚しただけで、妊娠はしていない。結婚と聞いてすぐに出産を当然のように前提とすること自体が批判されるべきだが、それ以上に、子どもを産むことを「国に貢献」することだと明言してしまう神経を疑わざるを得ない。つまり、女は「産む機械」であり、子を産まない女は「国家に貢献」しない“役立たず”だと考えていることがよくわかるエピソードだ。

 また、安倍政権は、2013年から国の予算を使って都道府県による婚活支援、いわゆる「官製婚活」を進めている。一方、国会では“家族はこうあるべき”と押し付ける制度「家庭教育支援法案」を提出する予定だ。こうした動きは、国家による個人生活や家庭への介入であり、先に述べた戦時下の体制とそっくりである。

 挙げ句、昨日開かれた自民党役員連絡会では、山東昭子・自民党元参院副議長が「子供を4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言したというのだ(朝日新聞デジタルより)。

 子どもを多く産んだ人は政府が表彰し、子どもをもたない世帯へは増税する──。「少子化対策」という名のもとに実行しようとしているのは、「子をもうけない」ことが何かに違反しているかのように増税で処罰するというかたちをとることで、子をなさないことを非難対象にすることなのだろう。

 下劣極まりないこの増税案には今後も強く反対していきたいが、それにしても、この国はついに、こんなところまで来てしまったのだ。まさに「どん底」政治と呼ぶべきだが、ここから這い上がることははたしてできるのだろうか。

最終更新:2017.11.23 08:57

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