言論の自由を制限する「共謀罪」に、アジカン後藤、山本直樹、浅田次郎ら作家・アーティストも反対の声

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法務省ホームページより


●山本直樹「共謀罪は表現の萎縮につながっていく」

「共謀罪」の趣旨を入れ込んだ組織犯罪処罰法の改正案が14日、衆院法務委員会で審議入りした。野党からは、捜査当局による権限の乱用などを危惧し反対の声が相次いでいるが、与党側は今国会内での成立を目指しており、安倍政権がいつものように強引な議論をゴリ押しするのは必至な情勢だ。

 この法案について政府側は、対象となるのは「組織的犯罪集団」であり「一般の人」ではないとしているが、その「組織的犯罪集団」と「一般の人」を判断するのは取り締まる捜査当局であり、権力による恣意的な解釈が横行する可能性を十二分にはらんでいる。今回の「共謀罪」が「平成の治安維持法」と呼ばれる所以である。

 思想や言論の自由を著しく侵害する可能性のあるこの法案には、作家、漫画家、映画監督、ミュージシャンなどからも批判的な声が相次いでいる。たとえば、今月13日付東京新聞の朝刊に掲載されたインタビューで漫画家の山本直樹はこのように語っている。

「今が戦中と同じとは思わないが、誰かが『共謀罪で取り調べを受けた』と風評を立てられただけでも、世間は敏感に反応し、何が取り締まり対象になるか疑心暗鬼になるだろう。その度合いは漫画家より、世間体を気にするサラリーマンならなおさら。出版社などは組織を守らざるを得ず、結果的に表現の萎縮につながっていく」

 たとえ自分自身が取り調べを受けずとも、業界のなかの誰かが権力から睨まれただけで、メディアはいっせいに萎縮してしまう。それは安倍政権下のテレビ報道のあり方を見ても十二分に想像できることだが、山本がこう言うのには理由がある。彼は権力からの恣意的な取り締まりが一回入ったことで、その後、周囲から自主規制を強められた経験をもっているからだ。

 それは1991年に光文社から出版された短編漫画集『BLUE』をめぐる騒動である。表題作である「BLUE」は、ドラッグを服用しながら性行為に耽る高校生を描いた作品だが、出版翌年の1992年3月、東京都青少年育成条例で不健全図書に指定され、版元回収になった(その後、成人向けコミックとして、弓立社、双葉社、太田出版から単行本化されている)。

●浅田次郎、森達也、香山リカ、後藤正文らも共謀罪に反対の声

 このとき、山本は都に対し、どこが問題だったのか質問する機会があったが、「校内で性行為に及ぶのはよくない」といった具体性に欠ける答えしか返ってこなかった。しかし、この『BLUE』騒動は思わぬ余波を周囲に巻き起こす。編集者たちが彼の作品に対して過剰な自主規制を施すようになったのだ。山本は東京新聞のインタビューでこのように答えている。

「僕よりも、むしろ出版社が当局のどう喝にビビってしまった感じにみえた。以後、担当編集者の自主規制は強くなった」

 先に引いた通り、山本が「その度合いは漫画家より、世間体を気にするサラリーマンならなおさら。出版社などは組織を守らざるを得ず、結果的に表現の萎縮につながっていく」と、「共謀罪」成立後に巻き起こるであろう「忖度」を危惧するのは、この『BLUE』での経験があるからだ。

 もしも、どこかの出版社で「共謀罪」を理由にした取り締まりが起これば、それを契機に出版界全体で、編集者が作家の政治・社会的なトピックに関する表現にストップをかける「自主規制」が始まるのは確実だ。しかも特に、「なにが問題とされるのか」という大事な部分が捜査当局の恣意的な判断に依拠される以上、その線引きはどこまでも自由を制限する方向に向かうのは間違いない。

「共謀罪」に対し危惧の声をあげているのは山本直樹だけではない。今月7日には、日本ペンクラブが主催した「共謀罪」反対の集会が開かれ、多くの文化人がこの法案に対して危惧の声を投げかけた。日本ペンクラブ会長の浅田次郎はこのように語っている。

「全く看過できない大問題。世の中の人が考えている以上に大変なことが起きようとしている」
「私たちはいずれ死ぬが、作った法律は死なない。法律を作った人がそのとき『きちんとやっていく』と言ったところで、その後、子や孫の時代にどのように使われるのか全く分からない。だから今がとても大切」

 一度法律がつくられてしまえば、その後は権力によっていかようにも悪用されてしまう。それは、特高警察が拷問を含んだ苛烈な取り調べまで用いて、人々の思想や言論の自由を奪い去った治安維持法の事例を思い返してみればわかる。

 また、精神科医で作家の香山リカは、精神科医の立場から「共謀罪」が人々の心におよぼす影響について、このような危惧を語っている。

「(警察権力の監視によって)まるで思考が盗み見られているかのような状況に陥る。そうすると、精神が崩壊するか、あるいは自ら考えることをやめてロボットのように権力者に従う人を生み出し始める恐れがある」

●アジカン後藤正文は「人権制限しないと開催できないイベントなら辞退を」

「共謀罪」はそもそも、犯してもいない犯罪について罰せられるというもので、刑法の基本原則にまずもって反しているという指摘も多くなされているが、映画監督の森達也はその点についてこのように指摘した。

「人は弱く、誘惑にも駆られる。一方で、人は反省もできる。だが、この共謀罪は思い立った後に犯罪を実行しなかったとしても、許さない。とんでもない法案に対してみんなで反対の意思を示していかなければいけない」

 この「共謀罪」は、2003年、04年、05年と、これまで三度も廃案となっている法案だが、今回「共謀罪」が審議入りされるまでの議論はまさしくはメチャクチャなものだった。

 政府は国際組織犯罪防止条例を批准するためにこの「共謀罪」が必要だと説明。これがなければ2020年東京オリンピックにおけるテロ対策が十分に行えないとした。条約批准にあたっては現行法で十分であり、新たな法整備が必要という主張が完全な嘘っぱちなのはご存知の通りだが、たとえその政府の主張が正しかったとしても、そもそもそんなリスクの高いスポーツイベントを開催する必要性が本当にあるのか? それでなくとも、五輪招致の演説に際して福島第一原発のことを「アンダーコントロール」だのと、世界に嘘をばらまいて呼び寄せたオリンピックである。

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文はかつてツイッターにこのような文章を投稿していた。

「五輪というイベントが、本当に共謀罪を創設したり、基本的人権を制限しないと開催できないような空恐ろしいイベントであるのだとしたら、そんな剣呑なイベントの開催は、いまからでもぜひ辞退するのが賢明だということだ」

「共謀罪」の真の目的は明らかにオリンピックでもなければテロ対策でもない。「週刊女性」(主婦と生活社)2017年4月25日号で、九州大学法学部の内田博文名誉教授は「共謀罪」を「戦争反対を含めた運動つぶし」と看破。このように説明している。

「テロリストに対しては役に立たないんだけど、おかしいんじゃないかと声を上げる人たちを押さえつけるには、非常に有効な法律になっているからです」

 治安維持法の悪夢を再び現実のものにせぬためにも反対の声をあげ続けていく必要がある。一度法律が通ってしまってからではもう遅いのだ。

最終更新:2017.11.24 06:31

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