放送大学の問題文削除だけじゃない、安保法制批判の大学教員に次々クレームが…日本の大学に蔓延するイヤ〜な空気

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
housoudaigaku_151025.jpg
通信制大学・大学院の放送大学公式サイトより


 MARUZEN&ジュンク堂のブックフェア撤去事件に象徴されるように、「表現の自由」「言論の自由」が侵害される事態があちこちで起きているが、またトホホなできごとが起こった。今度は大学だ。

 今年7月、放送大学の客員教授である佐藤康宏・東京大学教授が今年7月26日に行われた日本美術史の単位認定試験で出題した問題が、学内サイトに問題文を掲載する際に削除されたという一件だが、単なる大学内のイザコザに留まらない深い問題がそこには横たわっているのだ。

 まず、削除された問題文をみてみよう。

「現在の政権は、日本が再び戦争をするための体制を整えつつある。平和と自国民を守るのが目的というが、ほとんどの戦争はそういう口実で起きる。1931年の満州事変に始まる戦争もそうだった。それ以前から政府が言論や報道に対する統制を強めていた事実も想起して、昨今の風潮には警戒しなければならない。表現の自由を抑圧し情報をコントロールすることは、国民から批判する力を奪う有効な手段だった」

 これに続いて戦前、戦中に弾圧された画家について書かれ、内容と一致しない画家の名前を回答するという問題であった。

 画家に対する政治的弾圧を現在の政治状況に引き寄せたものだが、放送大学は試験を受けた670名のうちの1名から「このような事をするのは問題」という抗議のメールが試験当日のうちに届き、これにより大学側が問題文の削除に動いた。

 大学側は学内サイトに問題文を掲載するにあたって、佐藤教授に該当する部分を削除するように求めたが、佐藤教授が拒んだため、副学長より削除の通告が届き、8月7日に該当部分を削除する形で公開が行われたというのが事の顛末ある。

 放送大学は放送法に則ってこれらの対応を行ったというが、なるほど放送法第4条では「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」と「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が求められている。

 しかし、放送大学の単位認定試験がはたして放送法の対象になるのか。しかも、日本国憲法23条では「学問の自由」が保障されている。「学問の自由」を、放送法を盾にして侵してしまうのは、大学としては自殺行為。それこそ問題文にある「言論や報道に対する統制を強め」「表現の自由を抑圧し情報をコントロールする」を地で行く対応ではないか。

 だが、こうした「学問の自由の侵害」が行われているのは放送大学だけではない。実は、今、日本の大学は全体的に、教員の政治的発言に対する圧力が高まっているのだという。

「直接、大学当局が安保法制に反対する教員を抑えこむために『教員の政治的活動、政治的発言を禁じる』というようなハードな弾圧を行う、というのは現状ではありません。しかし、ソフトな政治的弾圧は蔓延しています」

 こう話すのは都内のある私立大学の教員だ。

「現在の大学は、ネトウヨ的なクレーマーに非常に弱い。ネトウヨ的な学生は、実際には全体の数パーセントです。しかしこれらのクレームが、大学の右派教員に反体制的な教員を弾圧する根拠を与えるのです。教員の授業での発言が偏向している、という抗議が授業後に大学に来るということもあります。これは教員本人に直接言うのではなく、大学当局にクレームをつけるのです」

「学問の自由」の精神に照らせば、疑問は教員に直接ぶつけるべきであろうが、当局にクレームがいってしまうことで、教員の萎縮効果はより大きなものとなる。

 また、大学によっては、右派教員による政治的ストーキングなどもあるという。

「クレームをテコとして、右派教員が教員全体を政治的に抑え付けようとする構図があります。(安保法案に反対するような)教員に対して、あら探しのためにストーカー的に嫌がらせをします。その教員が授業をしているところに聞き耳を立て、授業が早く終わると『なぜ授業が早く終わったか』などと文句をつけるのです。理由は単に授業を早く始めたから早く終わるだけなんですがね」

 嫌がらせが、大学の意向かどうかは分からない。だが以下のような事情があるのでは、と、この大学教員は言う。

「学問と政治の関係を、例えば教授会などで本気で討議することは難しい。ですから、陰にこもった嫌がらせをするのです」

 しかし、なぜクレーマーに萎縮し、ストーカー的な振る舞いがまかりとおっているか。別の都内大学教員は語る。

「支配的な体制に順応してしまうことを良しとする、また政治的に突出することを許さない『空気』が大学に蔓延していることがその原因です。積極的に支配的な『空気』になじもうとする人はそう多くありませんが、最近の大学の教員は良くも悪くも優等生が多いので、この『空気』に抗する勇気のある人は少ない」

「空気」の問題で言えば、さらに寒々しい話がある。

「安保法制は、まだ大学で話しづらいということはありません。大変なのは慰安婦問題です。この問題は本当に大学当局も嫌がるし、教員もかかわり合いを嫌がります」

 実際、本日行われる「安全保障関連法に反対する学者の会」と学生団体SEALDsが共催するシンポジウムは、当初、立教大学に会場使用を申請したものの、立教大はこれを「純粋な学術内容ではない」などとし許可しなかった。シンポジウムのテーマは立憲主義や民主主義について大学人としての責任を問い直すというもので、数々の学者たちが出席するが、これでも「学術的ではない」と言うわけだ。このシンポジウムは、結局、法政大学で行われることとなった。

 当然、これが直接的な歴史問題となると、より厳しくなる。たとえば、慰安婦問題でシンポジウムを開こうとしても、過去に抗議行動を起こされたためか、「反日的」とレッテル貼りをされることを恐れてか、会場を貸さないという都内有名大学もある。

 また、学費や奨学金の問題も大学の「空気」を重くする原因だ、と指摘する。

「大学を巡る学費、奨学金の問題など、大学が抑圧的になっていることの根源には『経済』の問題があります。大学と経済的徴兵制の問題もありますし」(同前)

 今回の放送大学の一件で明らかになったのは、クレームにびくびくし、「空気」に振り回され、結果安倍政権におもねってしまうような「大学の溶解」状況である。

 日本の大学は今、緩やかな自殺の最中にあるのかもしれない。
(高幡南平)

最終更新:2015.10.25 11:26

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

学校から言論の自由がなくなる―ある都立高校長の「反乱」 (岩波ブックレット)

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

放送大学の問題文削除だけじゃない、安保法制批判の大学教員に次々クレームが…日本の大学に蔓延するイヤ〜な空気のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。ネトウヨ大学高幡南平の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 田崎史郎のいない素晴らしい世界
2 徴用工問題で日本の元外務官僚が「韓国に100%の理、日本に100%の非」
3 「桜を見る会」名簿問題で菅官房長官の会見が支離滅裂!
4 安倍昭恵が「桜を見る会」にビジュアル系やトンデモスピ仲間を招待
5 田崎史郎と三浦瑠麗が『朝生』で無理やりすぎる安倍政権擁護連発!
6 ジャパンライフの広告塔に田崎とNHK島田も
7 安倍官邸が74億円の官房機密費使用!安倍応援団の手にも?
8 菅原経産相辞任で田崎史郎不在の『ひるおび!』が政権批判
9 田崎史郎が御用批判に失笑の言い訳
10 安倍政権御用ジャーナリスト大賞(前編)
11 「桜を見る会」ジャパンライフ招待問題にマスコミが消極的な理由
12 葵つかさが「松潤とは終わった」と
13 安倍首相が「桜を見る会」国会答弁で下劣言い訳を連発
14 安倍晋太郎が山口会長に「金儲けの秘訣を教えて」と懇願した夜
15 安倍の成蹊時代の恩師が涙ながらに批判
16 安倍政権御用ジャーナリスト大賞(後編)
17 維新応援団・野村弁護士が懲戒、橋下徹にも請求が
18 警視庁捜査、ジャパンライフと安倍政権
19 安倍首相の「嵐」政治利用にファン批判、天皇即位祭典も政権の意向か
20 池上彰が朝日叩きとネトウヨを大批判
1 久米宏が「テレビが反韓国キャンペーンをやってる」と真っ向批判
2 安倍政権・厚労政務官が外国人在留申請で口利き「100人で200万円」
3 玉川徹がGSOMIA破棄で加熱するテレビの嫌韓煽動を批判
4 明石家さんまが吉本上層部と安倍首相の癒着に痛烈皮肉!
5 『ゴゴスマ』で今度は東国原英夫がヘイト丸出し、金慶珠を攻撃!
6 『報ステ』の“安倍忖度”チーフPがアナやスタッフへの“セクハラ”で更迭
7 『ゴゴスマ』で「日本男子も韓国女性が来たら暴行しなけりゃいかん」
8 文在寅側近の不正に大はしゃぎの一方、安倍政権が厚労政務官の口利きに無視
9 埼玉知事選で警察が柴山文科相への抗議を排除!柴山も表現の自由否定
10 安倍首相がトランプからトウモロコシ爆買い
11 菅官房長官「トウモロコシ大量購入は害虫被害対策」は嘘
12 GSOMIA破棄は安倍のせい 慰安婦合意から始まった韓国ヘイト政策
13 安倍が後に先送り財政検証の酷い中身
14 GSOMIA破棄で日本マスコミの「困るのは韓国だけ」の嘘
15 松本人志や吉本上層部批判の友近、近藤春菜にバッシング、報復か
16 『週刊ポスト』の下劣ヘイト記事は「小学館幹部の方針」の内部情報
17 GSOMIA破棄!八代・有本ら安倍応援団は「嫌なら来るな」
18 『モーニングショー』で「暑さに耐えるのが教育」元高校野球監督は右派論客
19 古市憲寿の芥川賞候補作「参考文献問題」に選考委員が猛批判
20 『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』のデマとトリックを暴く

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄