義兄に頼んで自力で人工授精…レズビアンカップルの“妊活”奮闘記が描く社会の壁と家族の意味

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
yurinin_150910_top.jpg
江川広実・藤間紫苑『ゆりにん レズビアンカップル妊活奮闘記』(ぶんか社)


 今年は、東京・渋谷区で、同性カップルを結婚相当とするパートナーシップ証明書を発行するなどの条例「同性パートナー条例」が成立(施行は来年4月1日)。LGBTの権利獲得への大きな一歩となったが、まだまだ問題は山積みだ。

 また、仮に結婚が社会的に認められるようになっても、同性婚カップルの前には大きくたちはだかる問題がある。それは出産だ。

 同性婚カップルが子どもが欲しくて、産みたいと思ったとき、どうすればいいのか。そこにどんな障害が待ちうけているのか……そんな同性婚カップルの妊活を描いたのが『ゆりにん レズビアンカップル妊活奮闘記』(ぶんか社)だ。

 原作監修はこの物語に“嫁”として登場する藤間紫苑氏で、かねてからカノジョの牡丹氏が子どもを欲しがっていたことで、妊活をスタートさせる。が、藤間氏には、異性・同性カップルに限らぬ懸念事項があった。当時42歳という年齢と、関節リウマチという持病を持っていること。

 まず医師から持病について「妊娠OK」の診断をもらうと、さっそく基礎体温を計り記録することから始める。

 その後友人から、〈タイやアメリカは精子売買や不妊治療が盛ん〉であることを聞き調べると、タイに日本語対応の病院があることを知り、藤間氏はさっそく電話で問い合わせをしてみたところ、人工授精が以下のような流れで行われることがわかった。

1.IVF(体外受精)の専門医を受診します。
2.精神科の専門医を受診します。
3.感染症の血液検査をします。
4.婦人科部長、IVF部長・当院医療部長の許可を得たら法医学専門医の受診を受けます。

 ただし、問題は精子だ。レズビアンカップルの場合は精子をどこかで調達しなければならない。海外では精子を購入することが可能だということがわかったのだが、どれほどの費用がかかるのかといえば……。

〈病院からの取り寄せで3千バーツかかります。アメリカとデンマークからの取り寄せは時間がかかります〉

 そのうえで、人工授精は以下のような相場だという。 

〈人工授精自体は2万5千バーツ〜3万バーツかかります。これは当日の費用でその前後の検査・診察費は含まれておりません〉(2015年8月現在のレート、1バーツ約3.5円)

 ふたりはタイでの出産を決意するのだが、ちょうどタイは大洪水に見舞われたため、渡航を断念。そんなときに藤間氏の姉から、〈ウチの旦那の精子を使ってみたら〉という申し出を受け、2人は自分たちの手で人工授精を行うことを決意する。義兄に射精をしてもらって、すぐにそれを藤間氏の膣に注射器で“射精”するのだ。

 ここで重要なのが、排卵日に義兄から確実に精子をもらうことができるか、そのスケジュール調整であった。異性カップルならば、〈排卵予定日の1週間前ごろから、何度かセックスをすれば妊娠する確率は高い〉が、藤間氏の場合は月1回の排卵日をピンポイントで狙わねばならない。

〈その日に合わせて精子を用意していただくのは、想像以上に大変でした〉〈仕事のスケジュールを調節してまで精子を提供してくれた義兄や、協力してくれた姉には本当に感謝の気持ちでいっぱい〉と、のちに振り返っている。

 いざ排卵日、ふたりはシャーレ片手に姉宅へおもむくと、姉夫婦は風呂場で精液を採取してくれたという。
そして受け取るやいなや、寝室を貸してもらい、いざ“射精”! となるわけだが、“射精”の詳細を藤間氏はこのように解説する。

1.注射器に精液をセット
2.指・注射器・性器周辺にアダルトショップで購入したローションを塗って
3.安全に気を使いながら指と注射器を膣に挿入
4.なるべく奥のほうに注入!

 あとは生理予定日の2週間後に妊娠検査薬を使い、反応を待つだけなのだが、〈毎日毎日検査しても、妊娠を示すラインが出てくることはなく〉、1回目の授精の結果は失意を生むにいたった。

 さらに2回目、3回目の人工授精も受胎せず、病院での人工授精も視野に入れる。同書によると日本でも〈婦人科で人工授精を受けているレズビアンカップルもいる〉というが、やはり気になるのは価格。

 卵管が通っているか調べる費用で4千円、排卵日検査で3千円、人工授精で2万5千円程度と、1回の値段としてみればそこまで高価ではないものの、何度もチャレンジするのを見越すと、二の足を踏んでしまう額だ。

 結局、引き続き姉夫婦に頼ることになるふたりだが……。その続きは同書でぜひ確認してもらいたい。

 異性婚の不妊治療ですら様々な苦しみ、重圧、風当たりがあるのにもかかわらず、さらにセクシャルマイノリティである彼女たちの妊活は、想像を絶する苦難の連続だったに違いない。
 
 こうした背景には、同性カップルが「家族になること」「子どもを作ること」を、異性婚よりさらに意識して考えなければならないという事情がある。

 藤間氏も、〈同性愛カップルの「恋人同士」な関係が「ファミリー」になっていく、より深い関係へと移行していくのは、ふたりの人生設計を考えるのにも大切です。でも一方で、子作りしたレズビアンカップルでも、離縁してしまうことがあります〉など、妊活を機にはじめて人生設計を考えるようになったという。

 さらに妊活とはズレるが、ふたりの妊活中に親しいレズビアンカップルのひとりが亡くなったことも、藤間氏と牡丹氏に強い影響を与えた。

 病院で亡くなる直前、一刻を争うときに終始付き添っていた恋人は手術同意書にサイン出来ず、亡くなった直後に立ち会える〈ご家族の方〉にも該当しないという厳しい現実に、ふたりは愕然とするしかなかった。

 “家族”が増えることにも、そして“家族”が去るときにも、同性愛カップルは立ち止まり、異性婚のカップルにはない壁を超えなければならないのだ。

 今回藤間氏が赤裸々に体験を語ったことで、今後よりいっそう、同性愛が市民権を得るきっかけになることを願いたい。
(羽屋川ふみ)

最終更新:2015.09.10 02:16

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ゆりにん レズビアンカップル妊活奮闘記

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

義兄に頼んで自力で人工授精…レズビアンカップルの“妊活”奮闘記が描く社会の壁と家族の意味 のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。不妊羽屋川ふみの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 菅義偉官房長官が国会で望月衣塑子記者をフェイク攻撃
2 『スキャンダル専門弁護士』が伊藤詩織さんやはあちゅうを揶揄
3 安倍首相「自衛隊募集に6割以上の自治体が協力拒否」は嘘だった
4 ネトウヨ局アナがテレ朝のお昼の顔に
5 不適切動画バイトを血祭りにあげるマスコミとネットの異常
6 桜田五輪担当相「がっかり」発言は安倍政権の五輪至上主義のせい
7 小川彩佳アナが『NEWS23』キャスター就任か!
8 首相官邸の望月記者排除に新聞労連が抗議声明
9 太田光が右翼の抗議で転向していた?
10 小川彩佳アナ退社の要因はテレビ朝日の安倍政権忖度か
11 勤労統計不正で厚労省委員が官邸と菅長官の圧力を証言
12 嫌韓批判で炎上も…石田純一はブレない
13 SKY-HIが日本の鎖国状態に危機感
14 データ不正、元厚労次官の村木厚子が「何かの圧力」発言
15 蓮池透氏が著書で安倍の冷血を批判!
16 玉川徹が中国人のマナーをあげつらう自番組を批判!
17 安倍首相にマッチョ批判
18 拍手・起立を井筒監督と松尾貴史が批判
19 北海道知事選でも安倍官邸が暗躍!野党は統一候補で対抗
20 岡田斗司夫“ゲス”の秘密が著書に!
1 嫌韓批判で炎上も…石田純一はブレない
2 玉川徹が中国人のマナーをあげつらう自番組を批判!
3 勤労統計不正で厚労省委員が官邸と菅長官の圧力を証言
4 岡留安則「噂の真相」編集長が死去
5 小川彩佳アナが『NEWS23』キャスター就任か!
6 青山繁晴議員が「僕と握手したらガンが治った」と吹聴
7 安倍首相「自衛隊募集に6割以上の自治体が協力拒否」は嘘だった
8 「子ども産まないのが問題」麻生が「金がないなら結婚するな」
9 統計不正は安倍政権ぐるみの偽装だった証拠が!安倍に合わせ…
10 安倍「私は森羅万象を担当」発言の背景
11 北方領土の日、「日本固有の領土」の主張が消えた! 
12 首相官邸の望月記者排除に新聞労連が抗議声明
13 国家公務員と利害関係者の「ゴルフ解禁」の背後に安倍
14 小川彩佳アナ退社の要因はテレビ朝日の安倍政権忖度か
16 安倍「自衛隊募集に非協力的な自治体」と圧力発言
17 安倍首相「サンゴは移した」の嘘に琉球新報編集局長が痛烈批判
18 辻元清美の外国人献金に大騒ぎする夕刊フジの愚劣
19 イージス・アショアに2350億円!懸念される健康被害
20 不適切動画バイトを血祭りにあげるマスコミとネットの異常

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄