工藤會壊滅作戦で暴力団員が「難民化」! 暴排条例が一般市民を巻き込む犯罪を増やす

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
yakuzatoterrorist_01_150706.jpg
『ヤクザとテロリスト 工藤會試論 難民化する「暴力団」、暴力装置化する国家』(イースト・プレス)

 2012年4月に北九州市で福岡県警の元警部が銃撃された事件で、県警は近く特定危険指定暴力団・五代目工藤會トップの野村悟総裁のほか、ナンバー2の田上不美夫会長、ナンバー3の菊地敬吾理事長らを組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)容疑で逮捕する方針を固めた。野村総裁の逮捕は14年9月以降、5回目。野村総裁、田上会長、菊地理事長らはすでに別事件で起訴されており、福岡県警は着々と「工藤會壊滅作戦」を遂行しているといった状況だ。

 五代目工藤會は北九州市に拠点を置く九州最大規模の暴力団で、“反警察”の姿勢を貫いている。12年10月に施行された改定暴対法にもとづき、全国で唯一「特定危険指定暴力団」に指定されている。

「特定危険指定暴力団」に指定されるとどうなるのだろうか。宮崎学氏の著書『ヤクザとテロリスト 工藤會試論』(イースト・プレス)では、このように説明されている。

「指定を受けると『警戒区域』で組員がみかじめ料(ヤクザが店を守るという『用心棒代』)の支払いや工事への参入などを要求した場合、県警は暴対法上の中止命令の手続きを経ずに組員を逮捕できる。いわゆる直罰規定である」(以下「」内同書より)

 さらに、事務所の使用にも厳しい制限が設けられる。

「この指定にもとづき、二〇一四年十一月には北九州市小倉北区の本部など計四カ所の事務所の使用制限命令が出された。対立抗争中の組織以外に事務所の使用制限命令が出るのは全国初とされ、維持管理目的以外での事務所への組員の立ち入りを禁止している」

 14年9月に野村総裁らを逮捕してから現在に至るまで、福岡県警が逮捕した工藤會系組員は、全体の約1割にも達している。特定危険指定によって、ただでさえ活動が難しいというのに、そのうえ1割の構成員が欠けているのだから、まさに壊滅的な状態といえるだろう。

 工藤會だけではない。10年くらいから日本全国で制定の動きが広がった「暴力団排除条例」(暴排条例)によって、暴力団員の生活基盤が崩壊しているのだ。ご存知の通り、暴排条例は、暴力団員と交際したり、暴力団員に利益を与えたりする一般市民を取り締まるものだ。

「これによってヤクザたちは金融機関の口座や生保、損保などを解約させられ、クレジットカードを持つこともできなくなった。また、ホテルやゴルフ場などの公共の施設が利用できず、事務所に宅配便やラーメンの出前も届かなくなった。あるいは子どもたちが学校や保育園に通えなくなる事態も頻発している」

 一般市民であればごく問題なく利用できるサービスも利用できなくなっている現在の暴力団員。それは葬儀においても同様だ。

「現代のヤクザたちは葬式すらまともに出すことができなくなってきているのだ。公共の葬儀場や寺では組織としての葬儀を行えない。施設側が受け入れたとしても警察が黙っていないのだという」
「また、組員だけではなく、その妻子の法要も営めなくなっている例も出てきている。寺には墓もあるのに、妻が亡くなっても葬儀ができなかったというのだ」

 そして、社会から排除されていく暴力団員のなかには、自ら死を選択する者も少なくない。

「ヤクザと話しているときに、『困りごと』として親分や兄弟分の自殺を挙げる者も多い。
 原因はたいていはカネである。シノギが細くなってにっちもさっちもいかなくなり、思い余って……というパターンである」
「ヤクザの場合、組のために懲役に行き、刑務所から出所したときに帰るべき組がなくなっている場合もある。服役中に知らされてはいるが、寂しい思いを募らせた挙げ句に自殺を選ぶ者は少なくない」

 このように暴排条例によって“難民化”している暴力団員とその家族たち。いくら非合法的な行為に手を染めるアウトローたちとはいえ、あまりにも人権が蔑ろにされている状況ではなかろうか。

 そして問題は、暴力団員とその家族の人権だけではない。暴力団を排除することが、必ずしも犯罪の抑止につながるというわけではないという事実もある。『ヤクザとテロリスト』では、警察によって壊滅状態にされた工藤會のとある組員が、こう話している。

「たしかに厳しい状況ですが、残った者たちでなんとかやっています。(中略)たとえいまより法律や条例が厳しくなっても、ヤクザ組織はなくなりません。ただ潜在化するだけです」

 これまでは、堂々と“看板”を出して活動していた暴力団が、“見えない犯罪組織”に成り代わるだけだというのだ。

 暴力団は、潜在化することでいわば市民の視線を受けなくなるわけであり、逆に犯罪が増加する可能性すら考えられる。そして、その犯罪被害は一般市民へと向けられるのだ。かつて「一般市民を巻き込まないのがヤクザ」などと言われていたこともあったが、その状況が変わりつつあるようだ。

「最近は暴排のせいで正業に就けないことから、危険ドラッグを扱ったり、オレオレ詐欺や強盗、さらにはキセル乗車など『ヤクザらしからぬ』罪で逮捕されたりするヤクザが目立つが、それは食っていくためにしたかなくやっている。
 以前はほとんどのヤクザが建設関連業やサービス業などの正業を持っていた。それを取り上げられれば違法なこともせざるをえないのは当然だろう」

 暴排条例で一般市民と暴力団との接点がなくなるはずだったのに、潜在化した暴力団員が一般市民を騙すようになるという矛盾が生じているこの現実。こんなことになるくらいなら、暴力団員に何らかの正業を与えておいたほうが、健全な社会を築けるのではないか、とさえ考えてしまう。

 これまで、ある種の“必要悪”として、日本の社会が内包していた暴力団の存在。犯罪組織を取り締まるのはもちろん重要なことだが、人権すら無視するような行き過ぎた暴排条例は果たして許容すべきものなのだろうか。百歩譲って、暴排条例で犯罪が顕著に減少したというのならまだしも、実際には潜在化した暴力団による一般市民を相手にした犯罪行為が行われているわけであり、もはや暴排条例は害悪しかないのでは……とも思えてくる。一体何のための暴排条例なのか。いま一度しっかり検証する必要があるだろう。
(田中ヒロナ)

最終更新:2015.07.06 11:59

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ヤクザとテロリスト工藤會試論 難民化する「暴力団」、暴力装置化する国家

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

工藤會壊滅作戦で暴力団員が「難民化」! 暴排条例が一般市民を巻き込む犯罪を増やすのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。暴力団田中ヒロナの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 投票呼びかけに松本人志が「軽い感じで行かれても」と投票抑圧発言
2 菅田将暉らの「投票呼びかけ動画」参加のローラに差別丸出しのバッシング
3 安倍、甘利、麻生、山口が立憲と共産党へのデマ攻撃!
4 Dappi運営会社社長が、“安倍の懐刀”元宿自民党事務総長の親族の土地に家を
5 甘利幹事長に「闇パーティ」広告塔疑惑
6 維新の野党共闘ディスが悪質!吉村知事も“暴言王”足立康史と一緒に
7 葵つかさが「松潤とは終わった」と
8 田崎史郎ら御用が垂れ流す「安倍さんは人事に不満」説の嘘,
9 Dappi運営企業と取引報道の自民党ダミー会社は岸田、甘利が代表の過去
10 山口敬之の逮捕をツブした中村格の警察庁長官就任に広がる抗議!
11 美輪明宏がNHKで「『芸能人が政治に口を挟むな』なんて時代遅れ」
12 岸田首相に「話が長くて中身がない」「何を言いたいのかわからない」と悪評
13 安倍晋三が杉田水脈の名簿順位を上げ、あの初村元秘書の公認ゴリ押し
14 『ひるおび!』出演者のバービーが番組の野党の扱いに疑問!
15 甘利明が「スマホは日本の発明」「消費税の使途は社会保障に限定」の嘘
16 原発事故前に安倍が地震対策拒否
17 JOC経理部長の飛び込み自殺で囁かれる「五輪招致買収」との関係,
18 ネトウヨDappiと自民党の関係が国会で追及されるも岸田首相はゴマカシ
19 グッディ高橋克実が北朝鮮危機で本音
20 佳子内親王の「姉の一個人の希望を」に批判殺到はおかしい
1 Dappi運営企業と取引報道の自民党ダミー会社は岸田、甘利が代表の過去
2 甘利明が「スマホは日本の発明」「消費税の使途は社会保障に限定」の嘘
3 安倍、甘利、麻生、山口が立憲と共産党へのデマ攻撃!
4 ネトウヨDappiと自民党の関係が国会で追及されるも岸田首相はゴマカシ
5 Dappi運営会社社長が、“安倍の懐刀”元宿自民党事務総長の親族の土地に家を
6 菅田将暉らの「投票呼びかけ動画」参加のローラに差別丸出しのバッシング
7 維新の野党共闘ディスが悪質!吉村知事も“暴言王”足立康史と一緒に
8 岸田首相の解散直前『報ステ』単独出演に「放送の中立性欠く」と批判殺到!
9 投票呼びかけに松本人志が「軽い感じで行かれても」と投票抑圧発言
10 辻元清美が自らの不正への対応を語って甘利明に説明要求!
11 岸田首相に「話が長くて中身がない」「何を言いたいのかわからない」と悪評
12 安倍晋三が杉田水脈の名簿順位を上げ、あの初村元秘書の公認ゴリ押し

カテゴリ別ランキング

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄