「まるで魔法!」注目の認知症ケア技法「ユマニチュード」の秘密

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
humanitude_01_140916.jpg
『ユマニチュード入門』(医学書院)

「ユマニチュード」をご存知だろうか。なんとなく哲学的な響きをもつ言葉だが、これはフランスで生まれた認知症ケアの技法。最近、看護や介護などの現場で劇的な効果をあげ、「魔法のようだ」と注目を集めている。

 たとえば、保清・清拭は、ケア業務の半分を占めると言われるものだが、ある介護施設では、ユマニチュードによるケアの導入で、ベットで行う清拭が60%から0%になったという。

 また、どんなにベテランで有能な看護師が対処しても手に負えない、いわゆる「困った患者」が、ユマニチュードを学んだ看護師のケアでは、まったく別人のように穏やかにケアを受け、笑顔で「ありがとう」とお礼まで言ってくれた。さらに、ユマニチュードを導入した別の施設では、認知症患者の攻撃的で破壊的な行動を83%減らせたとの報告もある。

 そして、今年の2月には、NHKの番組「クローズアップ現代」でユマニチュードの創始者のひとり、イヴ・ジネストらのケアによって、歩行が困難とされていた患者が短期間で立てるようになる様子が紹介され、大きな反響を呼んだ。

 本当ならば、まさに「魔法」だが、いったい、具体的にはどんな技術を使っているのだろう。来たる大介護時代に役立てようと、そのジネストの著作『ユマニチュード入門』(共著者・本田美和子、ロゼット・マレスコッティ/医学書院)を読んでみた。

 まず、そこに書かれていたのは「見る」「話す」「触れる」「立つ」という、ごくありふれた、誰でも日常に行っている動作。この4つの援助がユマニチュードの基本の柱だという。

 え? それって魔法なの? シンプル極まりない内容に、一瞬、肩すかしをくらった感じがしたのだが、しかし、同書を読み進めていくと、いかにこの4つの行為が重要な意味を持っているかがわかってくる。しかも、自分が日常のコミュニケーションでこの簡単な行為をいかにこなせていないかも。

 技術の説明は具体的だ。例えば、「見る技術」。同じ目の高さから、顔を近づけて(0.4秒以上)見つめる。ただ見るのではなく、こちらから視線をつかみにいく。ベッドで壁の方に横向きになったままの患者さんなら、ベッドを動かし、壁との間に入ってでも、視線を合わせにいく。ちょっとやり過ぎなのでは?と思うけれど、視線をとらえられないまま話しかけてもなかなか通じないのだという。そして、視線があったら2秒以内に話かける。その事でこちらに攻撃的な意図はない事を伝えられる。

 また「話す技術」では、反応のない患者さんに言葉をかけ続けるための、「オートフィードバック」という方法を教授してくれる。「これから腕を洗いますね」と予告し、そして腕を上げながら「腕を上げます。左腕です。とてもよく伸びていますね」と実況中継することで、相手に反応がなくてもコミュニケーションを持続させるエネルギーを作り出すのだという。

「触れる技術」も丁寧でわかりやすい。触れる時は飛行機が着陸するイメージで、離す時は飛行機が離陸するイメージで行う。そして、「立たせる技術」では、「40秒間立つことができたら寝たきりは防げる」と、立つことの重要性を説いたうえで、まず握手することから始まる介助のテクニックを事細かに説明してくれる。

 ユマニチュードは、全部で150をこえるこういった実践技術に基づいて成り立っており、だからこそ誰にでも実行でき、魔法のような効果をあげているのだ。

 そして何度か読み返すうちに、この技術の魔法を解く鍵は、常に「人間とは何か?」という問いかけにあることに気づかされていく。ユマニチュードは、このとてつもなく漠然とした、根源的な問いかけの中から生み出された技術だからこそ、普遍的で強度があるのだ、と。

《ユマニチュードの理念は絆です。人間は相手がいなければ存在できません。あなたがわたしに対して人として尊重した態度をとり、人として尊重して話しかけてくれることによって、わたしは人間となるのです。わたしがここにいるのは、あなたがここにいてくれるからです、逆にあなたがここにいるのも、わたしがここにいるからです。わたしが誰かをケアするとき、その中心にあるのは「その人」ではありません。ましてや、その人の「病気」ではありません。中心にあるのは、わたしとその人との「絆」です。》(同書)

 そう、まさに、ユマニチュードは哲学なのだ。しかし、誤解してはならないのは、これはあくまでも、哲学に基づく〈技術〉であって精神論とは異なるということ。だから、適性や優しさの問題にすり替えてはいけない。極端にいえば、愛情を持てない相手にでも、この技術を使って人間としてきちんと向き合えば、相手を怖がらせる事もなく、威圧する事もなく、絆を築けるのだ。優しくなくても優しくなれる。ケアする側も育てられる技術ともいえる。

 この技術をうまく習得すれば、認知症ケアだけでなく、あらゆる局面のコミュニケーションに応用することができるかもしれない。

 しかし、何度も言うようだが、〈正面から目をみてやさしく話しかけるだけで〉〈力を入れずにそっと支えるだけで〉、認識能力が落ち、心閉ざした人がみるみる変わっていくなんて驚きではないか。同書はいう。

「この本には常識しか書かれていません。しかし、常識を徹底させると革命になります。」

 そう。私たちはしょっちゅう「常識」という言葉を口にしながら、実はその常識を本気で実践しようとしてこなかったのかもしれない。介護技術の入門書ながら、いつのまにかそんなことまで考えさせられていた。「ユマニチュード」はやっぱり哲学だ。
(森 野立)

最終更新:2015.01.19 05:43

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

関連キーワード

「まるで魔法!」注目の認知症ケア技法「ユマニチュード」の秘密のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。介護森 野立認知症の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 松井府知事と橋下徹の台風対応が酷い!
2 投票呼びかけに松本人志が「軽い感じで行かれても」と投票抑圧発言
3 菅田将暉らの「投票呼びかけ動画」参加のローラに差別丸出しのバッシング
4 小室圭さんをとにかく糾弾したいワイドショーの事実歪曲とグロテスクな差別性
5 玉川徹が『バイキング』の小室圭さんバッシングの嘘を批判!
6 安倍、甘利、麻生、山口が立憲と共産党へのデマ攻撃!
7 眞子内親王をPTSDにした小室圭さんバッシングの裏にある差別的本質!
8 佳子内親王の「姉の一個人の希望を」に批判殺到はおかしい
9 甘利幹事長に「闇パーティ」広告塔疑惑
10 葵つかさが「松潤とは終わった」と
11 Dappi運営会社社長が、“安倍の懐刀”元宿自民党事務総長の親族の土地に家を
12 Dappi運営企業と取引報道の自民党ダミー会社は岸田、甘利が代表の過去
13 維新の野党共闘ディスが悪質!吉村知事も“暴言王”足立康史と一緒に
14 大阪医療崩壊でも吉村知事が緊急事態宣言の要請を遅らせた理由
15 山口敬之の逮捕をツブした中村格の警察庁長官就任に広がる抗議!
16 田崎史郎ら御用が垂れ流す「安倍さんは人事に不満」説の嘘,
17 千原せいじの不倫をなぜか賛美するワイドショーの男尊女卑
18 佳子さまはなぜ学習院をやめたか
19 甘利明が「スマホは日本の発明」「消費税の使途は社会保障に限定」の嘘
20 安倍晋三が杉田水脈の名簿順位を上げ、あの初村元秘書の公認ゴリ押し
1 Dappi運営企業と取引報道の自民党ダミー会社は岸田、甘利が代表の過去
2 甘利明が「スマホは日本の発明」「消費税の使途は社会保障に限定」の嘘
3 安倍、甘利、麻生、山口が立憲と共産党へのデマ攻撃!
4 ネトウヨDappiと自民党の関係が国会で追及されるも岸田首相はゴマカシ
5 Dappi運営会社社長が、“安倍の懐刀”元宿自民党事務総長の親族の土地に家を
6 菅田将暉らの「投票呼びかけ動画」参加のローラに差別丸出しのバッシング
7 維新の野党共闘ディスが悪質!吉村知事も“暴言王”足立康史と一緒に
8 投票呼びかけに松本人志が「軽い感じで行かれても」と投票抑圧発言
9 岸田首相の解散直前『報ステ』単独出演に「放送の中立性欠く」と批判殺到!
10 辻元清美が自らの不正への対応を語って甘利明に説明要求!
11 岸田首相に「話が長くて中身がない」「何を言いたいのかわからない」と悪評
12 安倍晋三が杉田水脈の名簿順位を上げ、あの初村元秘書の公認ゴリ押し

カテゴリ別ランキング

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄