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ぼうごなつこ『100日で崩壊する政権』を読めば、安倍首相が病気で辞任ししたのでなく国民が声をあげ追い詰めたことがよくわかる
『100日で崩壊する政権』(扶桑社)
本サイトで「スシローと不愉快な仲間たち」を好評連載中、ツイッターでも人気のマンガ家・ぼうごなつこ氏による、安倍政権をからかいまくったマンガ『100日で崩壊する政権』(扶桑社)が出版された。
ちょうど先日、安倍首相が辞任したばかりだが、といっても、これ、安倍政権が終わって書かれたマンガではない。
『100日で崩壊する政権』というタイトルからもわかるように、安倍政権が崩壊する数カ月前、あの『100日後に死ぬワニ』をパロディする形で始まったものだ。
『100日後に死ぬワニ』といえば、マンガ家のきくちゆうき氏がツイッター上で1日1話ずつ毎日投稿した4コママンガ。主人公のワニのほのぼのした日常を描きつつ、毎回4コマの最後で「死ぬまであと●日」とカウントダウンされていくことに注目が集まり、フォロワーが200万人を超えるなど大きな話題になった。
ところが、3月20日、第100回を迎えて、タイトル通りワニくんが死んでマンガが完結すると、直後に、書籍化や大物ミュージシャンとのコラボやポップアップストアのオープンなどが次々発表。メディアミックス展開に電通関係者が関わっていたことも判明したことから、ネット民の反発を買い、「電通案件」などと大炎上した。
そんな『100日後に死ぬワニ』最終回から約1週間後、大炎上も冷めやらぬ3月28日、ぼうご氏は〈#100日で崩壊する政権〉というハッシュタグとともに、〈1日目〉と題された4コママンガをツイッターに投稿した。
当時、自民党が新型コロナウイルス感染拡大を受けた経済対策として「和牛券」を検討していたことを皮肉ったマンガで、麻生太郎財務相を思わせるキャラクターが、一段高いステージのような場所から群衆を見下ろし「見ろよ、この肉」「こんな機会でもなきゃお前ら食えないだろ?」と言い放つ。そして、脱力感を誘うオチの後、最後の4コマ目の下には、〈崩壊まであと99日〉とあった。
翌3月29日も、ぼうご氏は同じハッシュタグで、今度は〈2日目〉というタイトルのマンガを投稿する。東京都の感染者数が3日連続で40人を超え、首都圏で不要不急の外出自粛要請が出されるなか、3回目の会見を開きプロンプターを読み上げ、出来の悪いポエムを並び立てる安倍首相の会見を皮肉った作品だった。そして、4コマ目の下には〈崩壊まであと98日〉の文字。
そう、ぼうご氏はたんに『100日後に死ぬワニ』のタイトルだけをパロったということではなく、毎日1話ずつ投稿していくというスタイルそのものをパロディにして、安倍政権が次々とインチキを露呈し崩壊に向かっていく姿を描こうとしたのだ。
検察庁法改正案を描いた回は1.1万リツイート、反対のうねりに貢献
しかし、毎日時事マンガを投稿し続けることは段違いにハードルが高い。ぼうご氏は、それまでも週に1、2本のマンガをツイッターに投稿していたが、フィクションと違ってリアルタイムに起きていることを即時的に描くスタイルのぼうご氏のツイッター時事マンガは、時間のあるときに描きためておくのも難しい。
だが、ぼうご氏は、この後も毎日、安倍政権を風刺したマンガを投稿し続ける。全世帯に2枚ずつアベノマスク配布、対象を絞りに絞ってほとんど誰ももらえない30万円給付案、病床不足が叫ばれるなかの病床削減、給付金の性風俗事業者除外、マスクや防護具が不足し逼迫する医療機関、発熱後4日待機ルールによる重症化続出など、検査・医療体制の整備や国民の生活支援へのおざなりな姿勢と愚策の数々……。
さらには、安倍首相が星野源の「うちで踊ろう」動画に便乗コラボ、昭恵夫人がマスクなし大分旅行、外出自粛要請が出されるなか菅義偉官房長官(当時)が選挙対策のためにマスクもつけず沖縄へ、緊急事態宣言下に稲田朋美・元防衛相らが靖国参拝、佐々木紀・国交政務官が「感染拡大を国のせいにするな」ツイート……と、安倍政権幹部たちのやる気も責任感も感じられないふざけた言動。
『100日後に死ぬワニ』では予告されている死をまったく感じさせない日常が描かれていたが、ぼうご氏の『100日で崩壊する政権』では、これで崩壊しないほうがおかしい安倍政権のボロボロなコロナ対応が描かれ続けた。
そして、連載が始まって中盤にさしかかった〈43日目〉5月9日夕方17時すぎに投稿されたマンガは、1.1万リツイートとひときわ多く拡散されることになる。
それは、安倍首相に似たキャラクターが黒川弘務・東京高検検事長に似たキャラクターの肩に手をやり「検事長が黒川ちゃんなら安心だよねー」と声をかけている「検察庁法改正案」を批判したマンガだった。
周知のように、この検察庁法改正案への批判、反対の動きは小泉今日子やきゃりーぱみゅぱみゅ、浅野忠信、井浦新、大久保佳代子といった多くの芸能人たちも参加する大きなうねりとなったが、そのなかで、ぼうご氏の4コママンガも注目を集めたのだ。
連載100日目に安倍政権は崩壊していなかったが、ぼうごは「私たちには力がある」と
しかし、『100日で崩壊する政権』には課題があった。実際に100日目になったらどうするのかという問題だ。『100日後に死ぬワニ』はフィクションなので、作者の意思でワニは確実に100日後に死なせることができる。しかし、『100日で崩壊する政権』はノンフィクションなので、ぼうご氏が自分の意思で、100日で政権を崩壊させられるわけではない。たとえ電通が付いていたとしてもさすがにそんな仕込みは無理だ(そもそも電通と政府の癒着も批判しているこのマンガに、電通が付いているはずもないが)。
安倍政権が崩壊しないまま迎えた100日目、いったいどうするのか? そう思っていたら、ぼうご氏のマンガは読者にこう語りかけた。
「私たちは日本の政治も社会もこの政権も 覆せない宿命のように思い込んでいませんか?」
「今まで無力だと思い込んできたけれど私たちには力がある」
「微力かもしれないけれど確実に力がある」
たしかに〈100日目〉が書かれた7月5日には、現実の安倍政権は終わっていなかった。しかし、ぼうご氏が「私たちには力がある」と訴えたとおり、3月下旬から始まった100日間連載のあいだ、人々が声を上げることが現実の政治を動かしていくということをいくつも証明した。
「有事なんだから批判するな」「一致団結しろ」という批判封じの声もあったが、検査体制も治療体制も後手後手で、生活支援策もほとんどやろうとしていなかった安倍政権に、多くの国民が声を上げた結果、少しずつではあるが、政府を動かし、支援策を引き出してきた。対象を絞りに絞った30万円給付案が土壇場でひっくり返り、一律10万円給付が決まった。強行採決目前だった検察庁法改正案は廃案となった。電通に決まっていたとされる「GoToキャンペーン」の事務委託先の公募も一旦見直しとなった。
しかも、この連載完結から約50日後の8月28日、安倍首相は辞任を表明、政権は本当に崩壊してしまう。約50日遅れとはいえ、これはワニもびっくりの展開だろう。
ぼうごなつこがあとがきで語った連載の理由〈何が起こったのかを忘却させないため〉
安倍首相が辞任したのは「病気」のためであり、ぼうご氏のマンガが描いていたような国民の批判なんて関係ない。そんなふうに嘯く人がいるかもしれないが、そういう人こそ、この『100日で崩壊する政権』を読んでみるといい。
ぼうご氏はこの連載マンガを描き始めた理由について、本書のあとがきで〈コロナ禍にある政権が場当たり的で自分勝手な政策を行っていく様を記録するため〉〈この時、この瞬間、いったい何が起こったのかを忘却させないため〉としており、まさしく安倍政権の酷すぎるコロナ対応の記録だ。そして、同時に『100日で崩壊する政権』は、安倍政権が追い詰められていった記録でもある。
象徴的なのが、検察庁法改正案に対する反対の声だろう。特定秘密保護法、安保法制、共謀罪、働き方改革、入管法改正……数々の悪法を安倍政権はそれまで、どれだけ反対の声が上がっても、どれだけ大きな問題点が発覚しても、数の力で強行成立させてきた。しかし、安倍政権は検察庁法を改正することができなかった。
検察庁法改正に多くの人が反対の声を上げたこと、さらにその前から安倍政権のコロナ対応に多くの人が批判の声を上げていたこと。それが、安倍政権を追い詰めていったのだ。
この連載が進んでいくのと並行して、安倍政権の支持率はどんどん下降し、国会が閉会してもいつものように戻ることはなかった。
安倍首相は辞任の理由を「病気」と語っているが、これは政権投げ出しを批判されないための表向きの言い訳にすぎない。実際に辞任を表明したのは、連載完結から約50日後の8月28日だが、検察庁法への批判が高まった5月下旬には「辞めたい」と漏らすようになり、6月10日には麻生財務相とポスト安倍の人選について話し合っていたといわれる。連載完結した7月10日頃には、すでに安倍首相辞任、菅首相誕生に向けて、シナリオは動き出していたことになる。
安倍首相の病気が本当だろうが嘘だろうが、安倍政権が終わった理由が、病気などではなく、政治的に追い詰められた結果であることは明白だ。『100日で崩壊する政権』を読めば、いかに安倍政権が追い詰められていったかがハッキリわかるだろう。
『100日で崩壊する政権』は、2つの意味でいま多くの人に読んでもらいたいマンガだ。ひとつは、安倍政権の失政と横暴の数々を忘れないために。もうひとつは、政治を監視し声を上げることの大切さとその力を忘れないためにだ。
安倍政権は倒れたものの、安倍政権を継承すると言ってはばからない菅政権が誕生し、高い支持率を誇っていることに無力感を感じている人もいるかもしれない。でも、あれだけの一強体制を謳歌していた安倍政権も、多くの人が監視し批判の声を上げれば倒れたのだ。
菅政権に対しても、監視を続け声を上げ続けること。『100日で崩壊する政権』はその重要性を再認識させてくれるし、行動する勇気を与えてくれる。
(酒井まど)
最終更新:2020.09.29 10:25
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