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「イージス・アショア停止」の裏で何があったのか? 配備中止を主張する河野防衛相と拒否する安倍首相・官邸の暗闘!
防衛省公式ウェブサイトより
河野太郎防衛相が15日の会見で、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画の「停止」を発表した。
河野防衛相によると、理由は、SM-3(=迎撃ミサイル)発車の際、空中で切り離されるブースター(推進補助装置)を演習場内に確実に落下させるためには、「ソフトに加えて、ハードの改修が必要になってくることが明確になった」ためだという。そして、「イージス・アショアで使うミサイルの開発に、日本側が1100億円、アメリカ側も同額以上を負担し、12年の歳月がかかった。新しいミサイルを開発するとなると、同じような期間、コストがかかる」として、「コストと時期に鑑みて、イージス・アショアの配備のプロセスを停止する」と宣言した。
もってまわった言い方をしているが、これは、現状のままイージス・アショアを設置したらブースターが住宅地に落下して被害を起こす可能性を認めたということだ。そして、それを回避するためには、改修に膨大な金と時間がかかるため、導入を事実上、中止するという話である。
いまさら何を言っているのか、という話だろう。周知のように、イージス・アショアは安倍首相がトランプ米大統領のご機嫌取りのために購入を決めたシロモノだが、当初から電磁波による健康被害に加えて、ブースター落下の危険性も指摘されてきた。候補地となった秋田県秋田市と山口県萩市でも、このブースター落下の問題は大きな議論になっている。
ところが、安倍政権と防衛省はこれまでそうした声を無視し、「演習場内に落下させることができる」と強弁。配備計画を強引に推し進めてきたのだ。それがここにきて急に配備停止というのは、決断が遅すぎる。アメリカとはすでに契約を済ませており、計画を停止しても多額の支払いが必要になるともいわれている。その責任をどうとるのか。
しかも、河野防衛相は、1カ月前、イージス・アショア配備断念という報道を「フェイクニュース」呼ばわりしていたのではなかったか。読売新聞が5月6日付朝刊で「政府がイージス・アショアの陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)への配備を断念する方向で検討に入った」と報道、NHKや共同通信も同じ趣旨で後追いしたのだが、河野防衛相はブログやTwitterでこれを全面否定し、「フェイクニュース」と攻撃したのだ。
「イージス・アショア配備停止は、国会の閉会直前まで秘密にされていた。とくに、15日の参院決算委員会には安倍首相が出席することになっていたため、その前に発表すると、首相が集中砲火を浴びる。それで、決算委員会が終わるのを待って、15日夕方、発表したわけです」(全国紙政治部記者)
まったく姑息というしかないが、ただし、その責任は河野防衛相だけにあるわけではない。むしろ、河野防衛相はこの間、イージス・アショアの配備計画を中止するために積極的に動いていた側で、それを阻もうとする安倍首相や官邸、防衛省の間で激しい駆け引きを繰り広げていたのだという。
イージス・アショア配備停止は河野防衛相が強行、安倍首相と官邸の反対を押し切り
防衛省担当記者が停止をめぐる舞台裏を解説する。
「今回のイージス計画停止は、ほぼ河野大臣の独断といっていい。河野大臣は問題発言も多いし、とくに内閣に入ってからは安倍首相に合わせたタカ派的言動も目立つが、一方で、無駄遣いには厳しく、原発問題で見せたように安全性の問題も敏感。だから、イージス・アショアにもかなり懐疑的で、防衛大臣になってしばらくしてから、官僚に命じて、ブースターの住宅地落下の危険性や改修にかかる期間と費用などを徹底調査させた。その結果、やはり落下の危険性があり、改修にはものすごいコストがかかるとわかったため、その調査結果をもって、安倍首相に直談判したんだ。しかし、イージス・アショア導入を決めた安倍首相と官邸は当然ながら、首を縦に振らず、防衛省内でも『いまさら後戻りできない』という意見が大勢を占め、河野大臣は完全に孤立していた」
当初は、配備中止に向けて動く河野大臣に対して揺さぶりをかけるような情報戦も仕掛けられていた。それが、前述した読売新聞5月6日付朝刊の「政府がイージス・アショアの秋田配備を断念する方向で検討に入った」という報道だ。
「あの時点で、安倍首相はまだ、イージス・アショア停止に同意していなかった。読売の記事はおそらく、官邸か防衛省が情報をリークし、河野大臣の動きを止めようとしたんだろう。河野大臣もそれがわかっていたから『フェイクニュースだ』などと過剰反応したんじゃないか」(前出・防衛省担当記者)
それはともかく、河野防衛相はその後もイージス・アショア中止を譲らず、安倍首相・官邸と交渉を続けたらしい。今度は官邸担当記者が語る。
「河野大臣はパフォーマンス好きだし、一度言い出したらテコでも動かないところがあるからね。計画中止を拒否する官邸サイドにかなり強硬に迫ったようだ。『停止はしなくても、改修に莫大なコストと時間がかかるという調査結果は発表する』と脅したとの説もある。それで、安倍首相も折れざるを得なかったんだろう。検察庁法改正問題をみてもわかるように、安倍首相はこのところ明らかにやる気を失っていて、面倒になるとすぐ『じゃあ任せる』と丸投げするようになっているからね。それと、今回は菅義偉官房長官が河野大臣に加勢したらしい。安倍首相との関係が冷え切っている菅官房長官は、とにかく安倍首相が後継指名しようとしている岸田文雄政調会長だけは避けたい。それで石破さんなどほかのポスト安倍候補に急接近しているんだが、河野大臣にも同じような理由で今回、貸しをつくったということじゃないか」
自民党から飛び出すイージス・アショア停止と河野防衛相へのバッシング
いずれにしても、今回は河野防衛相の“目立ちたがりの一言居士”的性格が功を奏し、イージス・アショア計画は停止になったということらしい。冒頭で指摘したように、遅きに失したのは事実だし、発表のタイミングも姑息きわまりないが、そのまま配備計画が続行していれば、それこそ住民が犠牲になる事態や、いま以上に膨大な予算が注ぎ込まれることになったはずだ。そう考えると、河野防衛相の決断は、評価すべきだろう。そして、イージス・アショアと同様、埋立地の地盤沈下による安全性の問題が浮上し、工事に莫大なコストがかかる辺野古の新基地建設についても中止すべきだ。
ところが、驚くことに自民党内からは、今回の「イージス・アショア計画停止」を大々的に批判する声が飛び出している。
産経新聞が「地上イージス計画停止『承服できない』 自民から怒り噴出」と題して伝えているが、16日に自民党が開いた国防部会などの合同会議では「しっかり説明がなければ到底承服できない」(小野寺五典・元防衛相)、「こんな重大な問題で事前説明がないのはなぜか」(稲田朋美・元防衛相)など〈激しい異論や怒り〉〈不快感の表明〉が続出したという。第二次安倍内閣で防衛大臣政務官を務めた佐藤正久参院議員も、合同会議後の記者団の囲みで「隊員の負担などを考えれば、今のイージス艦の体制では到底無理なので、イージス・アショアは必要だ」(NHKニュースより)と計画堅持の姿勢を語っている。自民党の北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部長でもある二階俊博幹事長は「今回は(党に)なんの相談もなく一方的に発表された」と怒りをあらわにした。
まったく、どうかしているとしか思えない。こいつらは表向き、河野防衛相の説明プロセスを問題視するようなことを言っているが、ようするに、イージス・アショア配備のためなら国民の生命を脅かしても大した問題ではないと考えているらしい。いったい「何を何から守ろうというのか」という話だろう。
しかも、こうした“河野バッシング”の動きに、政権御用メディアも追随の動きをみせている。たとえば産経新聞は17日の「主張」(社説)で、〈事実上の計画断念である〉〈導入に当たった防衛省と国家安全保障局(NSS)の大失態〉とした上で、〈河野氏は「当面はイージス艦でミサイル防衛体制を維持する」と語ったが、その場しのぎであり、ミサイル防衛充実にはつながらない。中国海軍にも備えるべき海上自衛隊の運用強化を阻むことにもなる〉と河野防衛相に批判の矛先を向けた。
責任はトランプに命じられるまま欠陥品をつかまされた安倍首相にある
しかし、こうした河野バッシングはまやかしだ。このイージス・アショア配備停止問題でもっとも責任を問われるべきべきは、停止を決断した河野防衛相ではなく、導入を決断した安倍首相だろう。
本サイトでも何度も追及してきたように、もともとイージス・アショアはトランプのセールスに対し、安倍首相がホイホイと応じた“貢物”。購入決定の同時期、すでに日本政府は同性能のイージス艦8隻体制を進めており、イージス・アショアの配備は不要なのではないかと指摘され続け、米国のシンクタンクが“日本配備の目的は米国の防衛コスト節約”であると暴露し(詳細は横田一氏連載を参照https://lite-ra.com/2019/07/post-4831.html)、昨年には候補地の検討結果に実態よりも過大なデータが盛り込まれていることなど選定の杜撰すぎる実態が明らかになって、参院選では配備反対を訴える候補者が当選し民意があらためて示されても、なお、安倍政権は方針を変えようとしなかった。
しかも、安倍首相はいまになって「これまで地元の皆様に説明してきた前提が違った以上、これ以上進めるわけにいかないと、われわれはそう判断した」(16日)などと殊勝ぶってみせているが、実際は、ぎりぎりまで停止を拒否していた張本人なのだ。
「15日夕方まで発表を遅らせたのも、配備中止ではなく『停止』という中途半端なものにしたのも、官邸の意向です。自民党が強硬な姿勢を見せれば、安倍首相がまたそちらに流れて、計画を復活させる可能性だってゼロではない」(前出・官邸担当記者)
この国の国民を守るためには、とにかく一刻も早くこの男を総理の椅子から引きずりおろすしかない。
(野尻民夫)
最終更新:2020.06.18 11:44
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