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炎上! 欅坂46「月曜日の朝、スカートを切られた」はどこが問題なのか? 秋元康の歌詞にある女性蔑視思想
欅坂46公式HPより
何回この手の話題が出れば気が済むのだろうか──。思わずそう感じてしまわずにはいられない炎上がまたもや起きた。秋元康氏の女性蔑視的な歌詞表現に関する騒動である。
先月発売された欅坂46のアルバム『真っ白なものは汚したくなる』に収録されている楽曲「月曜日の朝、スカートを切られた」の歌詞に関して、実際に電車のなかでスカートを切られる被害に遭ったことのある女性が声をあげ炎上したのだ。
その「月曜日の朝、スカートを切られた」は、〈どうして学校へ行かなきゃいけないんだ/真実を教えないならネットで知るからいい〉と、社会の仕組みや大人に対して反発や疑問をもっている少女が、タイトル通り月曜日の朝の通学電車でスカートを切られ、さらなる絶望の淵に立たされるという内容。
この作品は、〈君は君らしくやりたいことをやるだけさ/One of themに成り下がるな〉と大人への反発を歌った欅坂46のデビューシングル「サイレントマジョリティー」の前日譚となっており、ミュージックビデオも「サイレントマジョリティー」のミュージックビデオで登場したロケ地や衣装を再度登場させるなどして関連性を強く意識させたつくりとなっている。
「月曜日の朝、スカートを切られた」の歌詞のなかには〈反抗したいほど熱いものもなく/受け入れてしまうほど従順でもなく/あと何年だろうここから出るには…/大人になるため嘘に慣れろ!〉という記述があり、おそらく作詞を担当した秋元氏は、このスカート切り事件をきっかけに主人公の少女が自我に目覚め、「サイレントマジョリティー」で自分の思いを外に出すようになるというストーリーを描いているのだと思われるが、それも含めて大きな問題があると言わざるを得ない。
問題となるサビの歌詞はこのようなものだった。
〈月曜日の朝、スカートを切られた
通学電車の誰かにやられたんだろう
どこかの暗闇でストレス溜め込んで
憂さ晴らしか
私は悲鳴なんか上げない〉
これに対し、実際に満員電車でスカートを切られた被害の経験のある女性がネット署名サイト「change.org」に文章を投稿した。
〈この曲をテレビで紹介しているときに嫌な思い出が蘇り電車に乗るのがまた怖くなりました。いまは落ち着いてますがとても怖いです。
たくさん傷ついている人がいる中でこんな曲を出すのは不謹慎だと思いますしこの曲のせいでこのような犯罪が増えてはとても困ります。電車に乗れない人だってもっとたくさん出てきたっておかしくない状況になることも考えられます。〉
「悲鳴なんか上げない」という歌詞にある男性目線と想像力欠如
このような反応が出ることを予測しない無神経さも問題だが、さらに議論の俎上に載せられるべきは〈私は悲鳴なんか上げない〉という部分だろう。痴漢や傷害に対して助けを求めたり、抵抗するための「悲鳴」を上げないことこそが、襲撃者に対して勝つことであり、積極的にとるべき態度として書かれているからだ。
前述した被害女性に賛同し、秋元康事務所に対し今回の件などに関する回答を求める署名運動を「change.org」で立ち上げた人物もこのように綴っている。
〈「私は悲鳴なんか上げない」という歌詞がもたらす規範的な印象について。音楽に限らずおよそ言葉を使う作品は多様な解釈を前提に作られているはずだが、「なんか」という語に含まれているのは、諦めや絶望だけだろうか、という問いも立てられて然るべきだ。私はこの歌詞から、反撃への意志喪失のほかに、否定的な価値判断としての宣言を読み取ることもまた一定以上の確実性を持つはずと主張したい。具体的には、悲鳴を上げること(それが襲撃者の存在を拒絶する強さなのか、襲撃者や周りの傍観者に弱みを見せることなのかはともかくとして)を潔しとせず、黙することを、諦めや絶望からくる消極的選択でなしに、積極的に引き受ける態度であり、抑圧の容認を是とする宣言である。こうした、社会の(性犯罪者にとって都合のいい)「秩序」を維持する判断を歌詞が押し出していないと否定するに足りる根拠はないだろう〉
おそらく秋元氏は、女性は痴漢や怖い目に遭えば反射的にキャーっと悲鳴を上げるくらいのステレオタイプでしか痴漢や傷害をとらえていないのかもしれないが、実際は痴漢でもセクハラでも怖くて助けを求めることはおろか息を詰まらせ声も出ないという女性も多い。そうした性犯罪や傷害の被害に遭った女性の恐怖や心の傷への想像力が、この秋元氏の歌詞にはまったくないのだ。
また、尾崎豊の「15の夜」を引き合いに出し「犯罪だからって過剰反応」だなどと反論しているファンもいるが、犯罪を描いているから批判されているわけではない。犯罪を描く歌詞や作品はあっていいし、それがすばらしい作品になることもある。しかし、上述したように、この秋元氏の歌詞は、スカートを切られるという行為を、男性目線のステレオタイプでしかとらえておらず、お得意のセンセーショナリズムで単なるネタとして描いているにすぎない。そのことが問題なのだ。
「サイレントマジョリティー」の前日譚だからセットで考えるべき、というファンの反論についても、同じだ。ファンは「月曜日の朝、スカートを切られた」で悲鳴も上げられなかった少女がそれをきっかけに自我に目覚め、「サイレントマジョリティー」で同調圧力にも抵抗できるようになるというストーリーだと擁護している。しかし、それではまるで痴漢や傷害の被害に遭ったのは、少女側の弱さか何かに原因があるみたいではないか。痴漢や傷害の被害に遭うことは、同調圧力に屈することや自分の意志を主張できないこととはまったく別次元だ。痴漢や傷害は、自我に目覚めるための通過儀礼などではない。受けた心の傷を成長の糧に変える、というレベルの話ではない。
おそらくは、こうして物議をかもすことも秋元は織り込み済みだろうが、そのことで被害経験者が傷ついたとしても描きたい何かがあるわけではなく、秋元にとっては被害経験者の心の痛みなど取るに足らないことなのだろう。
要するに、秋元氏が「スカートを切られる」という犯罪行為を、男性目線のステレオタイプでしかとらえておらず、お得意の安易なセンセーショナリズムのネタとしか考えていないことが、透けて見えているのだ。
それは秋元氏がこれまでも女性蔑視的な歌詞を大量に書いており、根本的に女性差別的な思想の持ち主であるということに原因がある。
乃木坂46『ワンダーウーマン』イメージソングも女性蔑視で炎上
秋元氏の女性蔑視的な歌詞に対しては、つい最近も異論が出たばかりだ。
アメリカで記録的な大ヒットとなっている映画『ワンダーウーマン』の日本版イメージソングを乃木坂46が担当することになったのだが、そのタイトルが「女は一人じゃ眠れない」というものであり、『ワンダーウーマン』という作品の意義を知っているアメコミファンや映画ファンから大反発を招いたのだ。
そもそも、ワンダーウーマンというキャラクターは1941年に連載が始まって以来、女性解放運動と縁の深いキャラクターであり、「強い女性」や「自立した女性」の象徴として度々用いられてきた。昨年10月にはキャラクターが国連名誉大使にも任命され、その記念式典の壇上では、1970年代にテレビドラマ版の『ワンダーウーマン』シリーズで主演を務めたリンダ・カーターがこのようなスピーチをしている。
「ワンダーウーマンはみなさんの内なる力を引き出してくれます。世の中の女性のみなさん、女の子たち。あなた方は何にだってなれるのです。夢見ることを忘れないでください。あなたの中のワンダーウーマンは、必ず期待に応えてくれるから」(ウェブサイト「ORICON NEWS」)
こういった作品に対し「女は一人じゃ眠れない」というタイトルの楽曲があてられることの理不尽さは言うまでもないだろう。しかもその歌詞は〈女はいつだって一人じゃ眠れない/恋が邪魔をしているよ/どうする? 感情が動いて眠れない/胸のどこかが叫んでる寂しくなんかないないない誰かといたい〉という、自立して戦う女性のアイコンであるワンダーウーマンとは真逆の女性像が歌われたものだった。
これに対し、『ワンダーウーマン』を高く評価してきた映画評論家の町山智浩氏は激怒。ツイッターにこのような文章を投稿している。
〈『ワンダーウーマン』の日本でのイメージソングって「女は一人じゃ眠れない」っていうの? それって正反対のメッセージじゃないの?〉
〈『ワンダーウーマン』さえも「女は男がいないとダメ」という方向にもってっちゃうのか。〉
〈『ワンダーウーマン』のイメージソングとして「強がり言っても女はしょせん男がいなきゃダメなのよ」という歌を男が作り、女に歌わせる悪夢。〉
秋元氏の女性蔑視的な歌詞をめぐった炎上といえば、「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の騒動は記憶に新しい。この曲は昨年4月にリリースされたHKT48のシングル「74億分の1の君へ」のカップリング曲で、その内容があまりに女性蔑視的であったことから、発売されるやいなや炎上した。
〈難しいことは何も考えない 頭からっぽでいい 二足歩行が楽だし ふわり軽く風船みたいに生きたいんだ〉
〈女の子は可愛くなきゃね 学生時代はおバカでいい〉
〈テストの点以上瞳の大きさが気になる どんなに勉強できても愛されなきゃ意味がない スカートをひらひらとさせてグリーのように〉
〈世の中のジョーシキ 何も知らなくてもメイク上手ならいい ニュースなんか興味ないし たいていのこと誰かに助けてもらえばいい〉
〈女の子は恋が仕事よ ママになるまで子供でいい それよりも大事なことは そう スベスベのお肌を保つことでしょう?〉
〈人は見た目が肝心 だってだって 内面は見えない 可愛いは正義よ〉
本サイトの批評記事に対し恫喝ともとれるメールが送りつけられてきた
ちなみに、ディアナ・アグロンはドラマ『glee/グリー』で、チアリーダーのクイン・ファブレー役を演じた女優。確かにクインは、「どうせこの田舎町を出られない」というあきらめから、容姿にこだわり、恋愛とスクールカーストの勝者になることだけを目指してきた女性として描かれ、好きでもない男の子どもを妊娠したりもする。しかし、シーズンが進み、グリークラブでの活動を通して人間的に成長したクインは、出産に向き合い、その体験をエッセイに書き、そして、最後はそのエッセイが高い評価を得て、名門のイェール大学に進学するキャラクターとして描かれる。
また、そのクインを演じたディアナ・アグロン自身も〈頭からっぽでいい〉とは真逆の女優であり、2014年の国際ユース・デー(世界の子供及び若者の人権保護と社会参画を呼び掛ける日)にグローバル・シチズンシップ大使としてこんなスピーチを行っているという。
「28歳にして思うのが、私はとてもラッキーだったということです。私は初等、中等教育にアクセスできる国で育ちました。私はスポーツを楽しみ、希望の進路を追い求めることができました。私はリプロダクティヴ・ヘルスケアにアクセスして、自分が決断した時に子供をもち家族生活をスタートする時期を選ぶことができます。そしてゲイとレズビアンの友人たちは同性婚の権利を全米で獲得しました」
「しかし世界における18億人もの若者たちはそれほど恵まれてはいません。
世界には大人への移行期に、ジェンダー間の平等、教育機会の獲得、公共医療に関する乗り越えがたい困難に直面する多くの若者が存在します」
というわけで、前述の歌詞はそもそもの引用自体が的を射ていないわけだが、それはともかくとして、〈人は見た目が肝心〉や〈女の子は恋が仕事よ〉という歌詞は、男性社会がつくり上げてきた紋切り型の女性像、「女は男に選ばれる性」という価値観のなかの女性像でしかない。それを自明であるかのように押し付けるグロテスクさが女性差別だと非難されたのだ。
先に述べたように、内容が内容だけに「アインシュタインよりディアナ・アグロン」には批判が殺到。本サイトも含め多くのメディアが記事に取り上げた。だが、ここから驚くべき事態が起こる。
なんと、彼の女性蔑視的な視線を批評した本サイトの記事に対して、AKB48の運営会社であるAKSの法務部が「名誉毀損及び侮辱罪が成立する」「即刻、記事を削除せよ」というメールを送ってきたのだ。本サイトの記事はあくまで作品に対する批評であり侮辱でもなんでもなく、本サイトがその旨を記事で表明すると、その後、運営側は沈黙したが、批評さえ恫喝で黙らせようとする態度を見る限り、秋元氏およびそのスタッフに批判を真摯に受け止める姿勢は感じられない。
秋元康の女性蔑視的な曲は挙げていけば枚挙に暇がない
この「アインシュタインよりディアナ・アグロン」以外にも、〈おばんになっちゃうその前に おいしいハートを食べて〉というフレーズが登場する彼の代表曲のひとつ「セーラー服を脱がさないで」(おニャン子クラブ)をはじめ、〈定期的に恋をしないとね 劣化して行くよ(蜘蛛の巣ほら張ってるよ) 食欲が性欲に勝ってるなんて なんか悲しいね このまま行ったら 歳取って行くだけ〉という歌詞が登場する「恋を急げ」(NMB48)など、秋元氏のペンによるもので女性蔑視的な表現が登場する楽曲は枚挙に暇がない。
ただ単に「見つかっていない」だけで、こういった類の楽曲は日々生産されており、最近では、昨年11月にリリースされたAKB48のシングル「ハイテンション」のカップリングに収録されている「思春期のアドレナリン」がその代表格。この曲は、〈近頃私全然眠れない〉と悩む少女が〈恋でもしてればハートが燃えていいかもね/ところがまわりには/ときめくこともないし/月に向かって吠えるだけ〉と語る楽曲で、そのなかには〈急げ切れるぞ賞味期限〉や〈今だ進め未成年!〉という表現まで登場する。ファンの間でも「これはさすがに……」と苦笑いが起きたが、。発表当時に外まで知られれば一発で炎上しただろう。
今回の署名を受けて秋元氏が何らかの事情説明を行うとは思えないし、この件を今後の作家活動にフィードバックさせるとも思えず、そう遠くない未来にまたこういった炎上が起きるのだろうが、我々はあと何回こういう景色を見ればいいのだろうかと思うと暗澹たる気持ちになってしまうのである。
(編集部)
最終更新:2017.12.06 04:56
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