“逃げ恥”原作者・海野つなみと本谷有希子が『あさイチ』で安倍政権の「1億総活躍」を批判!「お国の役に立てみたいな感じ」

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NHK『あさイチ』番組ページより


 2016年は「女性の社会進出」「女性の活躍」がクローズアップされた年だった。この3年間で、働く女性が100万人も増加したことがしきりに喧伝され、初の女性東京都知事である小池百合子や民進党の蓮舫代表といった女性の政治リーダーの誕生も話題になった。

 しかし、現実はどうなのか。本当に女性の社会進出をサポートするような制度はまったく整備されず、むしろ、女性への負担は増大し、女性の貧困状況はむしろ悪化しているように思える。

 そういった現実が垣間見えたのが、先週19日放送の『あさイチ』(NHK)だった。この日の「女性リアル 年末SP 『オンナ×働く』モヤモヤ大特集」と題して、働く女性たちの本音を紹介したのだが、視聴者からも育児や家事と仕事の両立がいかに困難であるかという意見が多数寄せられ、ネットニュースでも大きく取り上げられた。

 しかも、これらニュースではあまり触れられていなかったが、この日の『あさイチ』では、安倍政権への批判も巻き起こった。政府が掲げる「一億総活躍社会」という言葉が俎上に上げられ、“活躍”という言葉や実質がまったくともなっていない政策への疑問が多数寄せられたのだ。

 番組では、まず、NHKネットクラブのアンケートで実に7割以上の女性が「活躍していない」もしくは「どちらともいえない」と答えたことが報告され、続いて、視聴者からのこんな痛烈な意見が紹介された。

「総活躍という響きに疑問を感じる。総活躍がみんなで活躍するではなくて、仕事、育児介護など1人ですべてこなすことに思えてならない」
「人生は活躍することと勝手に決められている気がして納得がいかない」
「総活躍とテレビで言われるのを見るたびに自分は輝いていないな。存在価値ないんだなとへこみます」
「子どもを安心して預けられる場所が少ない今、一億総活躍、よく言ったものだと思います」
「どこの家庭も一緒なんだな。安倍首相(ワンオペ育児)やってみな!」

 女性をとりまく様々な問題が解決していないのに、軽々しく “活躍”などと言ってもらいたくない。それが働く女性たちの “本音”ということだろう。

 さらに、この「一億総活躍社会」の本質に切り込んだのが、この日、ゲスト出演していたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の原作者であるマンガ家・海野つなみだった。顔出しNGで、摺りガラス越しの出演ながら、「恋ダンス」を踊ったり、鋭い分析を連発していた海野だが、この「1億総活躍社会」という言葉についてこうコメントしたのだ。

「お国の役に立て、みたいな感じがします」

“活躍”は国から強制されるものではない。しかし、現在の安倍政権はこの言葉によって、「お国のため」に働けと強制しているように思える。まさに正鵠を射る発言と言っていいだろう。

 実際、同番組のレギュラーであるNHK解説委員の柳澤秀夫も同様の指摘をしていた。

「1億総火の玉っていう言葉が出てきたでしょ、戦時中。なんかね、個人的な印象だけど、そういうのもちょっと想起したり。それにさ、しかもいま全員参加というけど、みんな一生懸命それぞれがんばってんじゃない」

 また、この日は芥川賞作家の本谷有希子もゲスト出演していたのだが、本谷もやはり「1億総活躍社会」を厳しく批判していた。本谷は番組で様々な意見を聞いた結果として「私は今、心から本当に活躍したくないと思いました」「社会の制度が頼りないのはわかっている」として、作家として“活躍”という言葉じたいに疑問を投げかけた。

「活躍ってでも本来は、やった後から“活躍している”ということであって、最初からつけるものではないから、それがやっぱりおかしいんでしょうね」

“モヤモヤ”どころか、不満が大爆発。真っ向から安倍首相の言う「1億総活躍社会」に大きな批判を浴びせたのだ。

 だが、多くの女性たちの意見は当然だろう。そもそも安倍政権のいう“総活躍”や“すべての女性が輝く社会づくり”は、国民を欺くインチキだらけの代物だからだ。

 そのひとつが今年流行語にノミネートされた「保育園落ちた」に象徴される待機児童の問題だ。いくら政府が働けといっても、子供を保育園に入れられなければ、多くの母親は働くことなどできるはずがない。政府は「保育園落ちた」ブログをきっかけに、保育士不足の解消を目指し1100億円の予算案を閣議決定した。しかし全業種平均と比べ月10 万円も低い保育士の待遇がほんの2%ほどあがっただけ。7年以上の経験があると4万円アップされるが、しかしそれでも他業種に比べるとあまりに低い数字だ。しかもそのサービス残業など労働環境は待機児童解消の名目でさらに悪化しているとも言われる。実際『あさイチ』でも保育園で主任を務める女性のこんな声が紹介されている。

“待機児童問題に対応するため保育園でも定員を拡大。子どもを預かる時間も長時間化している。基準ぎりぎりの人数で対応しているため、現場は余裕を失っている”

 また一昨年末の衆院選で安倍首相は「幼児教育の無償化」を公約に掲げたが、しかしそれも実現などしていない。ひとり親世帯、多子世帯、所得制限などさまざまな条件付の“小手先“の決定でお茶を濁しただけ。これで根本的解決などするわけがない。

 また育休2年にしても同様だ。現在働く女性のうち6割もが非正規雇用だ。そして育休について非正規雇用の取得要件は正規に比べてもハードルが高い。そのため育休をとって復職できたのは正社員が6割、そして非正規では1割にしかすぎないのだ。しかも育休期間の中でタイミングよく保育園を見つけられなければ雇い止めされる可能性は高い。さらにこの2年育休は女性だけのもので、“育児は女性がするもの”という社会認識や負担を押しつけることになる危険性もある。実際、昨年度の男性の育休取得率はたったの2.65%だ。

 男女の賃金格差の問題もある。厚生労働省が発表した男女間賃金格差は71.3%と他先進国に比較しても、その格差は大きい。さらに女性の非正規雇用は正規より3割低いが、その解決もまた、まったく行われていないのが現状だ。

「介護離職ゼロ」にしても同様だ。安倍政権は15年4月の介護保険法改正で、特別養護老人ホーム(特養)の入所条件を厳しくし、補助認定が厳格化。さらにこれまで上限額まで全員が1割負担だった自己負担が、年金収入が280万円以上なら2割負担と倍増した。さらに膨らみ続ける介護保険財政に対し、在宅介護に重点を置く方針を定めたのだ。これは介護は家族でという方針であり、つまり多くの家庭でその任を担っている女性に押し付けようとするものだ。

 少子化も安倍政権が目標とする「希望出生率1.8」とは逆行する結果となっている。厚生労働省が発表する2016年の人口動態調査累計では、統計開始以来はじめてという出生率100万人の大台を割り込む見込みだ。これは安倍政権の少子化対策が、なんら実を結ぶどころか、少子化がさらに進行しているということが、実際の数字によって証明された形だ。

 また女性や子どもの貧困、とくにシングルマザーの貧困は深刻だ。2015年の厚生労働省の報告によれば母子世帯の母親の就業率は80.6%、しかしその平均年収は181万円にすぎない。さらに6人に1人の子どもが貧困という衝撃の数字が出て久しい。一方、安倍政権が推し進めるのが女性役員の登用だ。2016年、主要な東証1 部上場企業では半数以上が女性役員を登用し、“1億総活躍の政策が後押しした”と話題になったが、これにしても、安倍政権がいかに弱者ではなく“エリート層”を意識しているかがわかるだろう。持てるものや大企業、富裕層を優遇し、格差を固定化、拡大する。多くの女性が“これで女性が輝き活躍なんかできるわけがない”と思うのも当然なのだ。

 これまで安倍首相は“1億総活躍”だけでなく“美しい国”(第一次)“輝く女性”“3本の矢”“戦後以来の大改革”“デフレ脱却”国民に耳触りのいいスローガンを掲げ、高い支持率のもと、強行採決を乱発するなどデタラメな政権運営を続けてきた。しかし、その内実は『あさイチ』で海野が看破したように国民に“国のための労働”を強制し、戦争さえ可能な破滅的政策を国民に押し付けているのだ。

 今年4月から女性活躍促進法が施行されたが、しかしその背景には少子化による急速な労働力不足が指摘されている。つまり、安倍政権が女性に“活躍”などと言うのは、決して女性の自立を後押しするものではなく、ましてや“生き生きと輝いてもらいたい”わけではない。戦時中のように、国家の下支えのために働けということなのだ。

 しかし多くの女性たちは、決して騙されてはいなかった。自分たちの生活に密着した育児や男女格差、貧困などの切実な疑問から、政治は動く。安倍政権は女性を舐めてはいけない。
(伊勢崎馨)

最終更新:2018.10.18 01:55

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