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沖縄米軍属の事件にも冷淡な態度の安倍首相…一方で米大学准教授がレイプ事件は基地があれば必然的に起きると指摘
安倍晋三公式サイトより
「今回の非人間的で凶悪な事件に対し、県民は大きな衝撃を受け、不安と強い憤りを感じています」
「日米安全保障体制と日米地位協定の狭間で生活せざるを得ない沖縄県民に、日本国憲法が国民に保障する自由、平等、人権、そして民主主義は、等しく保障されているのでしょうか」
本日、71年目の「慰霊の日」を迎えた沖縄県で行われた戦没者追悼式。「平和宣言」のなかで沖縄県知事の翁長雄志氏は、今年4月に起こった米軍属で元海兵隊員による女性強姦殺害事件に言及した上で日米地位協定の抜本的見直しと米軍基地の整理縮小を求めると、会場からは大きな拍手が起こった。
だが、この翁長知事の訴えに対し、追悼式に出席していた安倍首相は、「米国に対しては私から直接、大統領に日本国民が強い衝撃を受けていることを伝え」などと、“オバマには言ったから”とアピールするばかり。翁長知事は昨年につづき、あらためて普天間基地の辺野古移設を「唯一の解決策」とする政府の方針を「到底許容できるものではありません」と批判したが、安倍首相は相変わらず「基地負担の軽減」=辺野古移設の一辺倒。日米地位協定にかんしても、「米国とは地位協定上の軍属の扱いの見直しをおこなうことで合意」と語ったものの、それで米兵による凶悪事件がなくなるはずがない。
しかし、安倍首相のように沖縄の現実に冷淡な態度をとり、さらには沖縄を貶めようとさえする政治家は数多い。なかでも信じられない暴言を吐いたのは、橋下徹・前大阪市長だ。2013年にも「慰安婦制度ってものは必要だったと言う事です。普天間に行ったときに司令官の方に、もっと風俗業を活用してほしいっていうふうに言ったんです」と発言し物議を醸したが、今年5月21日にも、Twitterにこんな文章を投稿した。
〈米兵等の猛者に対して、バーベキューやビーチバレーでストレス発散などできるのか。建前ばかりの綺麗ごと。そこで風俗の活用でも検討したらどうだ、と言ってやった。まあこれは言い過ぎたとして発言撤回したけど、やっぱり撤回しない方がよかったかも。きれいごとばかり言わず本気で解決策を考えろ!〉
さらに橋下氏は、〈今回の事件で米軍基地の存在が事件の原因だとして、米軍基地を否定する主張を自称人権派は展開している。これこそまじめに活動している米兵等への人権侵害だよ〉とも主張した。
女性が殺害されるという痛ましい事件の発生から日も浅いうちに、どうしたらこんな鬼畜な話をしたり顔で世間に流布することができるのだろう。風俗が問題の解決になると考えていることや、このような事件を二度と起きてほしくないという思いから基地反対を訴える市民を〈人権侵害〉と言ってしまえることは、沖縄県民への、そして被害者への冒涜以外、何物でもない。
沖縄では、1995年の米兵3名による少女暴行事件をはじめとして、女性たちが米兵によって傷つけられ、その果てに、無惨に殺害されてしまうというケースも数多く発生してきた。だが、このようなレイプ事件が起こるたび、沖縄がいくら怒りの声をあげても、橋下氏のように性風俗の活用などと言い出す者が現れた。
しかし、これでは何も解決することはない。それは、レイプが発生するのは、たんなる性処理の問題ではなく、軍隊が抱える構造的な問題が原因だからだ。
アメリカンユニバーシティの人類学准教授であるデイヴィッド・ヴァイン氏が、6年にわたって世界12の国と属領などの現在と過去の60にのぼる米軍基地を調査したレポート『米軍基地がやってきたこと』(原書房)では、在外基地の周辺で起こっている米兵を相手にした人身売買や売春などの実態を綴っているが、そのなかでも沖縄において兵士によるレイプや性的暴行事件が多発していることに言及。また同時に、女性軍人の3人に1人が在籍期間中にレイプ被害に遭っていたというデータ(2003年調査)などから、なぜ米軍では性的犯罪が常態化してしまうのか、その理由として軍隊内が“不自然な環境”であることを挙げる。
〈基地の男性と基地村の女性ならわかることだが、彼らがいるのはきわめて“不自然な”環境だ。それは人間(その大半が男性の軍士官と政府高官)が長い時間をかけてひとつひとつの決断を積み重ね、つくりあげてきたものだ。そうした決断の連続が男性優位の軍環境をつくりだし、そのなかで目に入る女性は、圧倒的にひとつの役割を求められるだけの存在となっていった。その役割がセックスだ〉
そして、軍事主義のジェンダー分析の第一人者であるシンシア・エンローが指摘する「軍事化された男性性」が、米軍内部でいかに形成されているかを、こう綴る。
〈軍にとって最も難しいのは、人に人を殺せと教え込むことであり、それを教え込むには、他人が自分より「劣る」生き物だという考え方を吹き込んで、周囲の人間は人間ではないと思わせることだという研究結果がある。(中略)軍の訓練と軍の日常生活の文化によって助長される、周囲の人間など人間ではないという観念の中心となるのが女性蔑視──女性は男性より劣るという考え方だ。軍の組織ぐるみの売買春は、女性など人間ではないと思わせる重要な装置であり、その考え方を不滅のものにするのが、軍事化された男性性だ〉
沖縄ではなぜ兵士がレイプや性的暴行事件を繰り返し起こすのか──それは橋下氏の言うような「猛者」だからではない、そのように“教育”されているからなのである。
著者のヴァイン氏は言う。〈男は生まれつきの強姦者ではなく、軍でも大半の男性兵は、どれほど服従を強いられているかにかかわらず、性的暴行に及んだりはしない。だが人間の社会では、ある種の条件でレイプや性的暴行が起きやすくなる。そうした条件がおおむね揃っているのが米軍であり、世界の在外基地だ〉。
しかし、いくらこのように危険ばかりを押し付けられた沖縄の人びとが声をあげ、どれだけ基地反対を訴え、選挙で民意を示しても、安倍首相をはじめとして“日本の安全のためには沖縄に基地が必要だ”と我慢を強いる者は後を絶たない。だが、本書では、その考えには軍事の専門家たちからも疑義が呈されていると述べる。
〈米軍の沖縄駐留に疑問をもちはじめた軍事アナリストはしだいに増えてきている。政治や社会的な理由ではなく、あくまでも軍事的な理由に基づくものだ。中国と北朝鮮のミサイルの射程距離や精度があがっているために、彼らの多くは、アジア大陸に近すぎる基地は攻撃を受けやすく、ほとんど価値がないとの結論に至っている〉
〈たとえ(中国と北朝鮮の)封じ込めと抑止の一環であったとしても、米軍の沖縄駐留は最適な編制とは思えない。たとえば、今や専門家の間では、海兵隊が沖縄に──論争の的となっている普天間基地や、議論されている移設先も含めて──駐留しても、抑止効果はほとんどないとの意見が多くを占める〉
そうした意見があるなかで、アメリカは日本を金づるにし、一方の日本は多額の負担を自ら負い〈冷戦時代の属国的な地位のまま〉で文句を言わない。この現状を、著者は〈冷戦時の同盟を維持する根拠はもはやなく、日本はもっと自立を主張できる可能性をもっているし、東アジアにおけるアメリカの政治的、経済的、軍事的支配が中国その他の新興国に脅かされつつある新たな時代にあるというのに〉と日本の態度に疑問を示し、他方のアメリカの思惑を〈沖縄の基地にしがみつくことが、日本という操り人形を手放さないための、そして同時に、アメリカの政治的、経済的優位性を手放さないための手段となるのだ〉と解説する。
自立を主張できる可能性──。もちろん、安倍政権はそんなことを露ほども考えず、思考停止で属国でいることを選んでいくだろう。
だからこそ、参院選で沖縄はもう一度、民意を示す必要がある。そして、沖縄だけではなく国内全体で、米軍基地があることで生まれる悲劇や、アメリカとの不平等な関係に“怒り”をもたなければいけないのだ。翁長知事の「沖縄県民に自由、平等、人権、民主主義は等しく保障されているのか」という言葉の重みを、この悲しみの日に反芻したい。
(水井多賀子)
最終更新:2016.08.05 06:41
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