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明石家さんまが「福島のことを考えろ」と東京五輪開催を批判! 賄賂だけじゃない、五輪招致は間違いだらけ
TBSラジオ『MBSヤングタウン土曜日』公式サイトより
エンブレム問題のほとぼりが冷めたタイミングで噴出した、東京五輪誘致をめぐる買収疑惑。しかも、この世界を揺るがす大問題に対して、大手メディアは裏金に深く関与している電通の名を伏せて報道したことで、ついにはマスコミ不信までもが広がっている。日本オリンピック委員会(JOC)の平岡英介専務理事は調査チームを発足させるというが、世間では「イメージ悪すぎ、黒すぎる」「東京開催は返上すべき」という意見も出ている。
そんななか、意外な人物による“五輪批判”の過去発言が「真っ当すぎる」と注目を集めている。その人物は評論家でもコメンテーターでもない。なんと、あの明石家さんまだ。
五輪の東京開催が決定したのは、2013年9月8日(日本時間)。メディアは無論、社会全体がお祭りムードに包まれており、さんまが長きにわたってレギュラーをつづけているラジオ番組『MBSヤングタウン土曜日』同月14日放送でも、同じくレギュラーの元モーニング娘。道重さゆみが東京五輪について「すごい盛り上がりそうですねー」と話した。だが、さんまは「いや、だからでも、福島のことを考えるとね……」と切り出したのだ。
「こないだも『福島から250キロ離れてますから大丈夫です』とかいうオリンピック招致のコメントはどうかと思って、やっぱり。俺までちょっとショックでしたけど、あの言葉はね」
さんまがショックだったと言っているのは、同年9月4日に東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の竹田恒和理事長がブエノスアイレスでの記者会見で語った言葉だ。まるで福島を切り離すかのようなこの暴言に、さんまは「『チーム日本です!』とか言うて、『福島から250離れてます』とか言うのは、どうも納得しないコメントやよね、あれは」と不信感を隠さない。
さらにさんまは、安倍首相はじめ招致に躍起になる人びとから“お荷物”扱いを受けていた福島に、こう思いを寄せた。
「福島の漁師の人にインタビューしてはったんですけど、『7年後のことは考えてられへん』と、『俺ら明日のことを考えるのに精一杯や』って言わはったコメントが、すごい重かったですよね。だから、あんまり浮かれて喜ぶのもどうかと思いますけどもね」
普段、時事問題を積極的には語らないさんまの、しかし静かな怒りが滲んだ発言。震災と原発事故からたったの2年半で、かつ復興もままならない状態にもかかわらず、そんなことを忘れたように東京五輪開催決定に歓喜する世間の空気を、さんまはよほど腹に据えかねていたのではないだろうか。
当時は前述したように「五輪決定を国をあげて祝福」という全体主義的な空気が流れていたが、毅然とそのムードを批判したさんま。世間に迎合しない態度はさすがとしか言いようがないが、このさんまの発言は、感情論としてだけではなく批判としてじつに的を射たものだ。
そもそも東京への五輪招致活動では、さかんに「五輪を東日本大震災からの復興のシンボルに」「復興五輪」という言葉が掲げられていた。たとえば前出の竹田理事長は「五輪を被災地の復興への活力とできるようにしていきたい」と勇ましく語っていた。だが、当然ながら彼らが進めるのは東京都内での五輪関連施設の大規模工事ばかりで、被災地のことなどまったく念頭にない。
しかも、五輪関連の建設ラッシュなどのせいで労務単価が上がり、東京の工事費が高騰。毎日新聞15年9月23日の報道によれば、〈工事原価の水準を示す「建築費指数」(鉄筋コンクリート構造平均)は、05年平均を100とすると今年7月は116.5。東日本大震災前は100を下回っていたが、五輪決定後の13年秋から一気に上昇〉したという。挙げ句、〈復興工事が集中している被災地では人手不足に加え、建築資材費の高止まりにより採算が合わず、公共工事の入札不調が相次〉いでいるというから、五輪開催がむしろ被災地の復興を妨げているのだ。
だが、工事費や資材費の高騰は、五輪開催地に立候補した11年7月の段階から、復興工事があることを前提とするのだから当然、予想できた話だ。しかし、招致活動中、当時の猪瀬直樹東京都知事は〈2020東京五輪は神宮の国立競技場を改築するがほとんど40年前の五輪施設をそのまま使うので世界一カネのかからない五輪なのです〉と説明。これがとんだ嘘だったことは周知の通りだが、新国立競技場の建設費が当初の1300億円から3000億円に跳ね上がるという問題が露呈すると、政府と日本スポーツ振興センター(JSC)は“ザハ・ハディド氏のデザインが特殊だから”と建築家に責任を押し付けた。これに対してザハ氏は〈東京の建設コストの高騰〉や〈労働力不足〉などが原因だと反論。新国立競技場の問題ひとつとっても、被災地の復興工事とかち合うことを無視した結果が原因となっていたと言えるのではないか。
「復興五輪」とキレイごとを並べて震災をだしに使い、そのじつ原発事故が議論の俎上にのると福島を除け者にした上、いざ開催が決まれば被災地復興を阻害する──。もはやこうしたタイミングで五輪開催を押し進めたことは“外道”と呼ぶべきだが、その裏側では、もっと醜い“五輪戦犯”ともいえる政治家たちのやりとりがあった。
だいたい、東京での五輪開催に血筋をあげていたのは石原慎太郎元東京都知事だ。森喜朗五輪組織委員会会長と田原総一朗氏の対談本『日本政治のウラのウラ 証言・政界50年』(講談社)によると、2回目の投票で惨敗した2016年五輪招致失敗の際、石原氏は帰りの飛行機のなかで泣いていたと森氏は言う。涙の理由を森氏が問うと、石原氏はこう話した。「オレ、選挙に負けたことがないんだよ。こんな悔しいことはない。オリンピックはもう止めた」。
石原氏は負け戦が気にくわなかっただけではない。JOC副会長でミズノ前会長の水野正人氏と反りが合わず、石原氏は「あの野郎、生意気で不愉快だから、辞めさせろ。あいつを辞めさせないと、オリンピック招致をやらないよ」と言い出したのだ。話はさらにふくらんで、石原氏は「竹田も辞めさせろ」と森氏に迫ったというが、これは元西武グループ総帥の堤義明氏が石原氏と竹田氏の仲を取りもち、矛を収めたという。
しかし、今度は石原氏が東京都知事選への出馬を渋ったことから、五輪招致の問題は、森氏いわく「自民党の政治問題」にすり替わる。事実、候補選びに際して東国原英夫氏の名も挙がったが、「東国原は、東京オリンピック反対でダメ」(森氏)と述べている。結局、石原氏が選挙に出なければ息子である伸晃氏の立場が危うくなるからと森氏は石原氏を説得。石原氏は出馬を了承したが、「その代わり、伸晃のことを頼む」と交換条件を出した。森氏は“12年の自民党総裁選挙で同じ派閥の町村信孝氏や安倍晋三氏を応援せず、伸晃氏支持に回ったのはそういう理由”と語り、「すべて東京オリンピック招致のためだったんだ」と胸を張っている。
「日本中が「万歳、万歳」と言って喜んだでしょう。安倍くんは、日本中が一丸となって「万歳」と叫んだのは日露戦争以来だと言っていたけれど、ひとつ間違えれば、この喜びはなかったんだ」(森氏)
五輪招致は石原氏の肥大した功名心から出発したものだが、そこに森氏が絡んだのは一説には五輪利権を一手に握るのが目的だったとも囁かれている。そして、ここぞとばかりに安倍首相が支持率アップと名声欲のために相乗りした。──こうした裏事情を見ていると、彼らは「復興五輪」など露ほども考えていなかったことはあきらかだろう。
今月16日に森氏は『NEWS23』(TBS)に出演し、震災復興のために公共事業費が高騰したことを理由にして「(大会運営は当初予算の)3000億でできるはずないんですよ」「最初から計画に無理があったんです」とお得意の手のひら返しを披露した。繰り返すが、立候補前に震災が起こったことを考えれば、こんなことは最初から予想できたこと、いや、予想していなければおかしいのだ。要するに森氏は、端から、被災地の復興を阻害し、後で費用を増額する腹づもりで招致していたと白状しているも同然ではないか。
さんまが語った“福島のことを考えると五輪は喜べない”という言葉を、いま一度、自分中心で招致を進めた凶悪政治家たちに投げつけてやりたい。震災復興のためにならないばかりか足を引っ張るくらいなら、いまからでも遅くはない、国民は東京五輪の返上を訴えるべきだ。
(水井多賀子)
最終更新:2016.05.22 12:30
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