差別に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
百田尚樹も安倍首相も…今度は“同性愛ヘイト”に走る歴史修正主義者たち
今度は同性愛を標的にする2人(左 映画『永遠の0』公式サイト「完成報告会見」/右 衆議院議員安倍晋三公式サイトより)
いま、波紋を呼んでいる百田尚樹の“同性愛差別”発言。百田はTwitterで3月16日に〈同性とセックスしたいという願望を持つのは自由だと思うが、そういう人たちを変態と思うのも自由だと思う〉と投稿。翌日には発言を撤回し当該ツイートを削除したが、炎上はおさまらず、ついにはクリス松村までもがブログで〈発言を取り消されたようですが、物凄く傷つき、怒りを覚えました〉と批判を行い、さらに百田への非難の声が高まっている。
百田が突然、同性愛について発言した裏側には、渋谷区が同性カップルを結婚に相当する関係として認める「パートナーシップ証明書」を発行する条例案の存在があるだろう。この条例案に対して保守層、とくにネトウヨが猛反対しており、先日3月10日、渋谷駅のハチ公前と渋谷区役所にて反対派がデモを繰り広げている。そして、反対デモの現場でも、百田と同様に同性愛者を貶める悪質な言葉が飛び交ったという。
「普通の愛情は男女から発生する」「少数派を多数派と同じ扱いをすることが平等ですか」「LGBTが社会を乱している」
街中で公然とこのような差別的な発言をがなり立てる風景には、「あまりに醜い」「同性愛者に対するヘイトスピーチだ」として反発が高まっているが、この反対派デモの主催者は「頑張れ日本!全国行動委員会」(以下、「頑張れ日本」)。
この「頑張れ日本」結成当初は田母神俊雄が代表を、チャンネル桜の水島聡社長が幹事長を務めていたが、先日、本サイトでも報じたように、両者は田母神が都知事選に出馬した際に集めた寄付金をめぐって対立。寄付金の残りを「頑張れ日本」の活動資金にしようとした水島社長が、田母神事務所の使い込みを告発する騒ぎとなっている。
この問題だけでも体質がわかるが、もっと問題なのはその主張だ。先の戦争を肯定する極右・歴史修正主義はもちろん、韓流ドラマの中止を求めるフジテレビへの抗議デモなど、「頑張れ日本」は在日特権を許さない市民の会(在特会)に匹敵するような、レイシズム的発言、ヘイトスピーチも連発してきた。今回はそのヘイトの刃を同性愛者に向け、大々的な行動を展開したというわけだ。
ところが、このヘイト団体が結成された際、なんと安倍晋三首相が結成大会に登壇して基調講演を行っていたというのだ。
しかも、この結成集会に参加していたのは安倍首相だけではない。下村博文文科相に高市早苗総務相、山谷えり子国家公安委員長といった安倍政権で要職につく議員がズラリ。ほかにも衛藤晟一・内閣総理大臣補佐官や、西田昌司・自民党副幹事長、稲田朋美・自民党政調会長などといった議員たちも参加している。
結成大会が開催されたのは2010年2月の話。安倍氏はこのときの演説で、当時の鳩山首相が国民の命を守りたいと言っていたのをあげつらい、「総理大臣なんですから(命でなく)国を守るんですよ」と、まさに国家主義者丸出しの発言をしていたが、同性愛者に対する考え方はどうなのか。
近年、同性婚や、異性間の結婚と同等の権利を保障するパートナーシップ法を認める国が増加しているが、安倍首相の思考は国際的な流れとはまったく逆。現に、今年2月18日に開かれた参議院本会議では、「現行憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」と発言している。
え? 戦争できる国づくりのためには憲法を無理矢理ねじ曲げて解釈してみたり、改正にも超がつくほど積極的なのに、同性婚には「現行憲法では認められない」ですと? 常日頃、現行憲法を「押しつけ憲法だ」「もう古い」などとディスっているのに、他方、憲法を錦の御旗にするこの矛盾。……それくらい、同性婚を認めることは安倍首相にとって許しがたい話なのだろう。
安倍首相は以前から、伝統的な家族を守ることを政治課題として語ってきた。たとえば、著書『新しい国へ 美しい国へ 完全版』(文春新書)では、高校の家庭科教科書の記述について、こんなふうに疑問を呈している。
〈同棲、離婚家庭、再婚家庭、シングルマザー、同性愛のカップル、そして犬と暮らす人……どれも家族だ、と教科書は教える。そこでは、父と母がいて子どもがいる、ごくふつうの家族は、いろいろあるパターンのなかのひとつにすぎないのだ〉
いろんな家族のかたちを紹介し、それを家族と呼んで何が悪いのか?と思うが、安倍首相にとっては「父親・母親・子ども」という形態しか「家族」だと認めたくないらしい。安倍自身だって子をもうけていないし、父・晋太郎も両親が離婚して大伯母に育てられている。それでも、安倍首相はなお〈「お父さんとお母さんと子どもがいて、おじいちゃんもおばあちゃんも含めてみんな家族だ」という家族観と、「そういう家族が仲良く暮らすのがいちばんの幸せだ」という価値観は、守り続けていくべきだと思う〉と宣言するのである。
安倍首相の後援基盤であり、安倍内閣の大半が所属する右派組織「日本会議」が家父長制を支持していることや、過去に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の座長を務めた経歴からもわかるように、安倍首相にとっては前近代的な性別役割分担に則った家族こそが守るべきものとしてあるのだろう。事実、前述した「頑張れ日本」結成大会の壇上で安倍首相は、こんなことを語っている。
「いま私たちは国の基本を解体させかねない権勢に直面している。夫婦別姓の問題も、これは家族という基本にかかわる問題であります。子ども手当を出して、配偶者控除をなくす。これは家族解体への第一歩であります」
このとき、「家族解体の第一歩」と語った配偶者控除の見直しを、現在、安倍首相自らが検討している。自ら掲げた「女性の活用」のため致し方なく配偶者控除の見直しを決断したのだろうが、本音では女性の社会進出はパートタイム労働程度に押しとどめ、家を守る存在として縛りつけなければいけないと考えていることがよくわかるスピーチである。
このように安倍首相が古い家の概念にこだわる理由には、家父長制が先の戦争を支えた側面があるはずだ。戦争しやすい国をつくる上で、封健的な家族観こそが国民の統制に欠かせない。だからこそ、同性愛者をはじめとする性的マイノリティ(LGBT)という多様性は許容できない。──こうした安倍首相の思想は政権にも共有されており、自民党の柴山昌彦議員は『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)に出演した際、安倍首相同様に“お父さんがいてお母さんがいて、その両親のもとで子どもが育っていくという伝統的な家族こそが自然の摂理”と説明し、「同性婚を制度化したときに少子化に拍車がかかる」という妄言を吐いた。少子化の原因であり、政治が対策すべき子育て家族への支援もできていないくせに、まったく言いがかりにも程がある。
国際的にみても日本は同性愛者に対する差別がまだまだ根強く、LGBTへの理解も深まっていない。そうしたなかで、「パートナーシップ証明書」の発行は正当な権利獲得に向けた第一歩になりそうだが、安倍首相が政権トップであり続ける限り、同性婚の成立は遠い夢だろう。
ちなみに、安倍首相とは打って変わって、妻である昭恵夫人は昨年、LGBTの祭典「レインボーパレード」に参加。Facebookに〈どんな人も差別されることなく幸せに、豊かに生きていかれる社会を作っていきたい〉と書き綴るなど、性的マイノリティへの支援を表明している。ここは安倍首相も昭恵夫人の行動を見習ってほしいものだが……。
(田岡 尼)
最終更新:2015.08.17 11:57
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