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年末特別企画 リテラの2014年振り返り
ほとんどブラック! カリスマ経営者のトンデモ経営哲学2014ワースト5
左『藤田晋の仕事学』(日経ビジネス人文庫) 中『燃える闘魂』(毎日新聞社) 右『一勝九敗』(新潮社)
出版不況のなかでも依然として好調なのがビジネス書だ。なかでもカリスマ経営者のビジネス書はその経営手法、経営哲学を学ぼうと、中小企業やベンチャー企業の経営者たちがこぞって読みふける。
だが、こうしたビジネス書を実際に読んでみると、社員の権利を一切顧みず、ひたすら働け、会社のために尽くせ、それでいで、会社には頼るな、といったブラック企業顔負けの経営哲学が堂々と書かれているケースが多い。
そして、こうしたカリスマ経営者のブラック哲学に影響を受けて若手経営者たちがブラック経営を当然のようにはじめ、ブラック企業がどんどん広がっていくという、ブラックの連鎖のようなものが起きているのだ。
そこで、この1年のビジネス書やビジネス雑誌の中から、ブラック企業を生み出す元凶となっているカリスマ経営者たちのブラックな名言ワースト5を選んでみた。
★第5位 富士フイルムホールディングス会長兼CEO 古森重隆
「伸びることができる人の条件として、もう一つ私が確信していることがある。それは、会社を思う気持ちが強い人、オーナーシップを持って会社のために仕事ができる人だ。」
(『魂の経営』/東洋経済新報社)
10年前、富士フイルムが圧倒的なシェアを誇り利益の過半を稼いできた写真フィルムが、デジタル化の大波が押し寄せた存続の危機を迎えた。そこで、古森重隆会長兼CEOは危機意識を社内で共有し、過去のしがらみを断ち切り、「破壊と創造」を進め、液晶ディスプレイ材料や医療機器などの成長分野に注力し、業績をV字回復させた。その経営改革の全貌とリーダー哲学を語っているはずなのだが、精神論に終始。第五章「会社を思う気持ちが強い人は伸びる」という章タイトルや冒頭の発言に表れているように、一介の会社員にオーナー報酬を支払うわけでもないのに“オーナーシップ”を要求するなど、会社にとってだけ都合のよい自説を展開する。
これは「一人一人の社員が人間性の向上のため、夢を持ち、夢を追い、夢を叶える努力をする」「ワタミを辞めた者は、夢を諦めた者」と洗脳していくワタミ創業者の渡邉美樹のやり口とほとんど変わらないものといっていいだろう。
★第4位 セゾンファクトリー代表取締役社長 齋藤峰彰
「私は経営者として様々な会社、組織を見てきたが、あらゆる組織の中で、学校の体育会、運動部こそが理想的ではないかと考えている。(略)それを理解してもらうために、『超』を加えた、超体育会主義と表現している」
(『セゾンファクトリー 社員と熱狂する経営』/日経BP社)
「旬の工場」という意味の社名を持つセゾンファクトリー。89年に山形県高畠町で創業した高級加工食品メーカーで現在の売上高は約30億円、社員は約280人だ。季節ごとに最高の素材を使い、最高の方法によって加工するジュースやジャムの中には1点で4000円を超える商品もあり、東京・新宿の伊勢丹をはじめいわゆる“デパ地下”に約30店を出店している。地元産品を日本中に高付加価値で売るビジネスモデルの成功の秘訣を創業者である齋藤社長は「決めたことを全員で全力で取り組む」「超体育会主義」にあるとしている。
「まず何よりもお伝えしたいのは声の大きさだ(略)社員に対して『10メートル離れた顧客からも聞こえる大きな声で話す』ことを徹底している」
そもそもは「もっと人を大切にする会社にしたい」と独立。当初は地元のやんちゃな若者たちを雇用してきただけに、その頃の教育方法が「超体育会主義」として現在まで続いているのだ。社員と全力で取り組むためには、超体育会主義的なイベントも目白押しだ。
5月は社内イベント「大桜祭り」で新入社員は1カ月かけて準備した余興を披露し、全社員が出身高校別に分かれた「校歌対抗」合戦を行う。夏は本社の駐車場内の仮設の大型プールに続々放り込まれる「ビアパーティ」。ここでも数カ月かけて準備してきた余興を行う。秋には芋煮会、12月にはクリスマス、2月には「スピリットミーティング」(経営計画発表会)。この他に多い「年で10回ほど」開く「体育の日」(スポーツ大会)がある。
「イベントで育まれることのうち、特に大切なのは団結力だ。私は苦境を突破する上で、団結に勝るものはないと思っている」
「バカになる姿勢」が大事でそのためには社員は余興が欠かせないという。それにしても、余興の準備の時間はいったいどれだけかかるのだろうか。
この齋藤社長は超体育会主義的なイベントに疑問を持っていないようで、あるとき、退職するある社員にその理由を聞いたところ、「『社内イベントがあまりない普通の会社に就職したい』と言われた。(略)とても驚いた」というほどだ。
齋藤社長の大きな夢は「世界のどこにいっても通用する『食のスーパーブランド』を構築すること」だそうだが、その夢をかなえたいのならば、社員が疲弊する前に、余興を減らした方がいいと思うのだが……。
★第3位 ファーストリテイリング会長兼社長 柳井正
「僕はハードワーキングは問題ではなく、人材を促成栽培することが問題だと思います。(略)でも、それでもできる人がいるんですよ。例えば1年とか、2年で店長になる人がいる。それはその仕事に対する情熱や執念ですよね」
(「経営は実行なり」『日経ビジネス 総力編集 徹底予測 2015』/日経BP社)
ユニクロを展開しているファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、そのブラックな経営哲学はこれまでも問題視されてきた。新卒者の2人に1人が3年以内に辞め、しかも店舗正社員の休業者のうち42.9%がうつ病など精神疾患にかかっていた(12年8月期)。ユニクロは新卒社員を半年くらいで早く店長にしようとする。店長を残業代を支払わなくて済む労働基準法上の「管理監督者」、管理職にする、いわゆる“名ばかり管理職”として扱った上に、「月330時間労働」(ユニクロの月の上限労働時間は240時間)を強いた。
2013年4月の朝日新聞のインタビューでは「世界同一賃金」を導入すると明言。「グローバル化で、将来は、年収100万円か1億円かにわかれていく。これは世界の傾向です。『あなたは付加価値を与えられる仕事ではないといけないのですよ』と。そういう人を育成して、海外に行って店の経営をやってもらわないといけないのです」(『追及!ブラック企業』/しんぶん赤旗日曜版編集部/新日本出版社)
タイトルの発言は日本電産永守重信会長兼社長との対談で従業員にハードワークを求めることが話題になった際に語ったものだ。店長を促成栽培したことの問題点については認めているが、仕事の出来不出来を「経験や能力の違い」ではなく、「情熱や執念の違い」に求めているのだ。仕事ができないのは情熱や執念が足りないからという精神論は、ブラック企業の論理そのものだ。
柳井は12月、学生向けの就職セミナーで「(過酷な労働環境を強いる)ブラック企業ではない。サービス残業もなくなった。セクハラやパワハラは即座に処分する」と強調し、職場環境の改善をアピール。「若い社員が本当に輝ける企業に変わりたいと努力している」と訴えたというが、職場環境の改善こそ「情熱や執念」でやっていただきたい。
★第2位 サイバーエージェント代表取締役社長 藤田晋
「成長意欲のある部下ほど、『叱ってもらいたい』傾向が強いのですが、これはもちろん激怒されたいわけではなく、自分の悪い点や課題点を論理的に教えてほしいだけなのです」
(『藤田晋の仕事学』/日経ビジネス人文庫)
「先日、とある若い社員が、突然サイバーエージェントを辞めたいと言って有給消化に入ったという話を聞き、私は『激怒』しました。『社長が怒っている』という噂が社内に拡散するよう、意図的に怒りました」というのは、芸能人らが多数所属するAmeba(アメーバ)ブログで知られるサイバーエージェント(CA)の創業者・藤田晋社長だ。10月の日経のコラムで「激怒」した内容を語っているのだが、若手社員に新事業の立ち上げを任せていたのに、放り出す形になったこと、競合他社からの引き抜きを防ぐため、「一罰百戒」が経営上必要だからと説明している。
藤田といえば、今や数少ないITバブル業界の勝ち組。「渋谷で働く社長のアメブロ」で華麗な交遊を披露し、かつては女優の奥菜恵と結婚(その後、離婚)、現在も、「キラキラCA女子」という言葉もあるように、女子社員は美人が多く「顔採用」ではないかと揶揄する声が聞こえるほど。「昭和」的な経営とは一線を画したスマートな経営をしているものかと思いきや、「激怒」も辞さないなどと昭和の体育会系経営をしていることがネットを中心に驚愕された。しかし、藤田の著書を読めば、また、冒頭の発言を見れば明らかなように、その経営哲学は昭和の体育会系経営だ。たとえば「泊りがけの合宿で視点が変わる」という一文では、「気候がよくて、さわやかな春は、企業の研修合宿に適した季節です(略)泊りがけの合宿でしか得られないものもたくさんあります(略)私は、役員合宿、部門合宿、マネージャー合宿など、年10回程度の合宿に参加しています。ほとんどが1泊2日の合宿です。最初は役員合宿しかありませんでしたが、それが思ったより効果があったことから、今ではほとんどの部署が合宿を行うようになりました。会社としても合宿を奨励しており、費用も会社が負担しています」というのだ。
春は合宿、上司は部下を叱るもの……ITなのに体育会系の単純な発想の数々に唖然だが、あ、そうか、「キラキラCA女子」ってもしかしたら、キラキラさせて、ブラック企業ぶりを覆い隠そうとする作戦なのか。
★第1位 京セラ創業者 稲盛和夫
「最初、運動会は自由参加でしたが、私は、参加しない人たちに対して烈火のごとく怒りました。その後は、運動会などは、任意参加ではなく全員参加にしたのです」
(『従業員をやる気にさせる7つのカギ 稲盛和夫の経営問答』/日本経済新聞出版社)
稲盛和夫といえば、京セラ・KDDIの創業者。2010年、78歳にして日本航空の再建を引き受け、会社更生法の適用から2年で営業利益2000億円というV字回復を成し遂げた。このため「名経営者」として、ビジネス書や人生論にも関心が集まっている。自らが塾長を務める勉強会「盛和塾」では中小企業の若手経営者を中心に9000人超が稲盛式経営を学び、実践しようとしている。『従業員をやる気にさせる7つのカギ 稲盛和夫の経営問答』はその「盛和塾」での塾生たちの悩みに答えた「経営問答」をまとめたものだ。
「社員に経営者意識を持ってもらうには」という塾生からの相談には「社員に権限を委譲する前に責任を持ってもらう」「経営の実態を社員みんなに公開する『ガラス張りの経営』」「大きなルールだけを決めて、『おまえ、ここを守れよ』と任せる」とアメーバ(小集団)経営の極意を説法している。
タイトルの台詞は、「思い通りにいかない考え方の共有」を図るためにはどうしたらいいかという塾生からの相談に対する答えだ。「全員参加経営」を実現させることが経営の要諦だという稲盛は次のような経験を語る。
「心を一緒にするために、コンパなどを通じて一生懸命に私の思い、つまり京セラフィロソフィを話しました。人生とは何か、人間とはいかなるものか、どのような生き方をしていくべきかなど、思想や哲学を皆に共有してもらおうと思ったのです」
「中小零細企業ですから、皆が一生懸命働いており、就業時間内に集まる時間もありません。ですから、どうしても休日か、または夜に集まることになるわけです」
当然ながら参加しない社員も出てくる。
「家族もありますから、日曜日まで会社の連中と行くのはおもしろくないわけです。安い弁当と焼酎をちょっと飲まされる程度の花見なら家族と一緒に行ったほうがいい」
「しかし、なるべくなら経営者の側に寄ってきたくないという社員こそが、経営者の考え方を教えなければならない人なのです。経営をしていると、誰が喜んで来るのか来ないのかがおそらくわかると思います」
では、たとえば、運動会にこない社員をやる気にさせるためにはどうすべきか。どんなテクニックを使っているのかと思いきや、冒頭の一文のように「参加しない人たちに対して烈火のごとく怒りました。その後は、運動会などは、任意参加ではなく全員参加にした」のだというのだ。
これってパワハラというか、完全に労働基準法違反だろう。 勉強会「盛和塾」では9000人超の若手経営者がこんな経営哲学を学んでいるというのだから、考えただけで空恐ろしくなる。
いかがだっただろうか。「カリスマ経営者のトンデモ経営哲学2014ワースト5」。いずれにしても、こんなビジネス書が大手をふって流通しているわけだから、きたる2015年もブラック企業がますますはびこることは間違いないだろう。
一層の監視が必要になりそうだ。
(小石川シンイチ)
最終更新:2018.10.18 03:23
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