きょう降板表明? 『あさイチ』で有働由美子とイノッチが語ったこと…夫婦別姓、戦争反対、沖縄基地、言論弾圧

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『あさイチ』HPより


 有働由美子アナの降板がつたえられていたNHK『あさイチ』。今月3日、有働アナと名コンビでMCを務めてきたイノッチこと井ノ原快彦も3月末をもって有働アナと同時に降板すると報じられた。本日の放送では降板問題について触れることはなかったが、本日6日にも正式発表されるとの情報もある。長く好視聴率を維持するNHK看板番組の人気MCがふたりそろって降板という事態は異例のこと。いったい背景に何があったのか。

 しかも気になるのは、番組開始以来8年間MCを務めてきた有働アナ、イノッチがそろって降板することで、『あさイチ』という番組そのものが変質してしまうのではないか、『あさイチ』の良心が失われてしまうのではないか、ということだ。

 民放のワイドショーや情報バラエティでは、空気を読む芸人コメンテーターたちが幅を利かせ、『バイキング』に代表されるように、右傾化し、男尊女卑、父権主義を背景にした道徳ファシズム的意見が垂れ流されているなか、『あさイチ』はそうした風潮に疑問を投げかける特集をたびたび企画してきた。そうしたチャレンジングな企画が説得力をもったのは、多くの芸能人コメンテーターや局アナたちがお茶を濁しがちな政治的なテーマにも、有働アナと井ノ原が逃げることなく、自らの言葉で真摯に語ってきたことにある。

 たとえば、有名なところでは、現在のMeToo運動などセクハラ告発ムーブメントが起きるずっと前、2014年10月に「女性リアル 知られざる “セクハラ”」と題し、40代から60代の女性に対するセクハラを特集。その特集内で、井ノ原は「返しがうまくて面白くしてくれるからって、縁結びとかそういうネタのときに、有働さんに全部振るのも俺はどうかと思う。この番組でも、けっこう思うこと多いよ」 「この人が強いから言っていいとかじゃなくて、相手がどう思うかを常に考えないと。そのつもりがなくても、加害者になっちゃう」と、同番組での“有働アナいじり”にも苦言を呈した。

 また、2015年11月に放送された「どう思う?夫婦別姓」という特集。選択的夫婦別姓について世論では賛成が上回っているのに対し、自民党など右派勢力は「夫婦別姓では家族の一体感が失われる」として強固に反対している。こうした反対派の主張に対し、井ノ原は「まあ、(氏名が)同じでも、一体感がないときもあるからねえ」「他人同士でも一体感は生まれるから」と切り返してみせたこともある。

 2016年5月放送の「どう思う?“子どもがいない”生き方」という特集では、有働アナが、「とんでもない間違いをしたのではないか。産む可能性、機能があるのに、無駄にしたんじゃないかと。気が狂ったように泣いたりして病院通いした」「仕事がもしなくなったら、みんなには子どもが残るけど、私には結局何もないやんって。そう思いたくないから、これで満足だって思おう思おうっていうような。恥ずかしいほど揺れる」「去年ようやく出産の可能性を諦めて、やっとひとりで生きる自信が出てきた」と発言。悩んできた気持ちを正直に吐露した。

柳澤とイノッチが「沖縄の問題は日本全体の問題だ」

 前述のように、民放のワイドショーがマッチョな父権主義的意見に支配されるなか、本当の意味で女性の視点に立とうとする『あさイチ』のこうしたスタンスは非常に貴重なものだった。

 さらに『あさイチ』は、“政治的”とも捉えられるテーマにも果敢に取り組んできた。
 
 沖縄の本土復帰45年目だった昨年の5月15日には、沖縄の基地問題を特集。沖縄で暮らす人々のリアルな声を伝えた。いかに米軍基地に脅かされながら生きているかという生々しい声が紹介される一方、「わたしたち沖縄の若者は基地があるのが当たり前になっていて、基地について何も思わない人も多いと思う」という若い世代の意見も紹介された。

 しかも特筆すべきは、この特集がたんに基地問題の“両論併記”をするだけでは終わらせず、「沖縄の問題は日本全体の問題だ」と提起したことだろう。たとえば、柳澤秀夫NHK解説委員は沖縄に対する「本土」の傲慢をこう指摘した。

「僕自身も正直、こうやって沖縄の基地のことを取り上げるときに、原稿上は『沖縄の基地問題』って書くじゃない。これにものすごく違和感を感じているんですよ、最近。『沖縄の問題』『沖縄の基地問題』、これ違うんじゃないかと。『日本の問題じゃないか』って。沖縄と本土というよりも日本全体の問題だってことを意識しないと、これは現実をきっちり捉えることできないんじゃないかって、つくづく思う」

 そして井ノ原は、「(本土から切り離されていた過去は)全部それって、しょうがないことじゃなくて、いろいろ軍のことだったりとかいろんなことが関わっているわけだから、それをずっとひきずりながらいまも暮らしていて、いまも生活を脅かされているというところで想像していかないと」と視聴者に投げかけた。

 これだけメジャーな番組で沖縄の問題は日本全体の問題だ」と提起し、「歴史と現状を踏まえた上で沖縄のことを想像しよう」と呼びかける。これは大きな意義のある特集だった。

イノッチ、有働が「叩かれても黙らない」とタブーに抵抗を宣言

 ときに政治的なテーマに踏み込むことも厭わなかった『あさイチ』だが、なかでも繰り返し特集してきたのが、「戦争」だ。

 毎年のように8月には戦争に関する特集を放送してきたが、たとえば2016年の8月には、画面右上に大きく「戦争はイヤだ」というテロップを出し、憲法9条の改正が議論にあがるなかで現代の戦争を考えよう、という特集を放送した。戦渦から日本に逃れてきた外国人に話を聴くという趣旨だったが、それは日本の現状に警鐘を鳴らす内容でもあった。

 井ノ原は、「きょうは何を話すべきかってことなんですよね、ぼくらが」と力強く語り、現在の日本のなかで感じる危機感をこのように口にした。

「いつ(戦争は)起きてもおかしくないっていうのを、もうちょっとリアルに想像できるかなって」
「たとえば日本でひとつの流行が起こったときに、誰が止められるかっていえば、誰も止められないじゃないですか」
「(大きい流れに)なっちゃったら誰にも止められない、治まるのを待つしかない」

 先の戦争がそうだったように、戦争への熱狂が扇動されれば、終わるまでは誰にも止められなくなってしまう。しかも、いまの日本では「積極的平和主義」という言葉のもとに武力攻撃を正当化している。そんななかで井ノ原は、戦争はすぐ身近なところにあり、大きな流れに乗ってしまうことの恐ろしさを訴えたのだ。

 さらに、この日の『あさイチ』では、「銃を持って戦うことだけが戦争ではない。言いたいことを言えないことも戦争」と語るミャンマー人の女性のVTRを受けて、出演者たちが自分の眼の前でいま、起きている「メディアの萎縮」についても語り始めた。

 口火を開いたのは柳澤秀夫氏だった。

「メディアで伝える立場にあるぼくらの仕事っていうのは一体何なのかなって、やっぱり考えなきゃいけない」
「右から左にきたものをそのまんま『こうですよ』って垂れ流すのは、ぼくらの仕事を果たしていないと思う」

 続いて、井ノ原が「(政治の話題が)若干タブーな感じ」と切り込み、ゲストのマキタスポーツも、「そうこうしているうちに、タブーがどんどんどんどん拡張していって広まっていくうちに、大事なことが進んでいっちゃってるような気もしますよね」と指摘した。

 また、有働アナも、“空気を読んで自分の言いたいことを封印することで、大きな空気に加担してしまうのが怖い”と感想を述べたのだが、ここで井ノ原は有働に「有働さんみたいな人、ぼくもそうだけど、バーって喋る人は、喋ったらいいと思うんですよね」と語りかけた。すると有働は「叩かれてもね」と返答し、井ノ原も「叩かれてもいい」と胸を張ったのだった。

籾井勝人・前NHK会長体制のもとで政治的テーマにふみこんだ意義

 叩かれたとしても、大きな流れに与することなく言いたいことは言う──こうした番組出演陣とスタッフの覚悟があるからこそ、『あさイチ』は弱腰のNHKにあって、弱者切り捨ての貧困や、他の情報番組では少しもクローズアップされない沖縄、戦争などの問題にも踏み込んでこられたのだろう。とくに、そうした覚悟が感じられたのは、井ノ原のこんな言葉だ。
 
「まわりから『そんなこと言わないほうがいいんじゃない?』と言われるような、そういう人がいなくなるのがいちばん怖い」

 柳澤は、「戦争ってよくはじまるときに『正義のための戦争』って言うけど、ぼくは戦争っていうのは形容詞つかないと思うんですよ。戦争は戦争。戦争が一度はじまってしまったら、人が人を殺す現実しかないってつくづく思う」と戦争の本質を語れば、井ノ原は「毎日、朝ドラ観たいじゃないですか。で、観ながらああだこうだ言いたいし」と“ただ暮らしを守りたい”という生活者としての戦争に反対する素直な感想を口にした。

「たったこれくらいのこと」と思われる向きもあるかもしれないが、忘れてはいけないのが、こうした特集の多くが、あの籾井勝人・前NHK会長体制のもとでおこなわれていたということだ。

 籾井勝人・前会長といえば、安倍首相の“お友だち”として知られ、2014年の就任以来、就任会見での「(従軍慰安婦は)戦争をしているどこの国にもあった」発言に始まり、公共放送、そして言論機関のトップとは到底思えぬ政権へのすり寄りを進めた。

 就任会見で「政府が右と言うものをNHKが左と言うわけにはいかない」と豪語していたが、実際、熊本震災時には「原発報道に関しては日本政府の公式発表をベースにするように」との指示を出していたことが明らかになっている。

 籾井体制のもと、NHKは安倍政権のPRを垂れ流す一方、政権に都合の悪い情報には一切触れない“安倍さまのNHK”とも揶揄されるように、安倍政権の広報機関と成り果てていった。籾井氏は昨年1月に退任したが、その影響は現在も色濃く残っている。

有働アナ降板は上層部からの目に見えぬプレッシャーが原因か

 そんな籾井体制という厳しい状況のもと、『あさイチ』は政治的問題に踏み込み、反戦や政権批判やNHK批判ともとれるような意見も表明してきたのだ。こうしたテーマを取り上げる際、きまって有働アナはいつもより張り詰めた表情を見せ、その緊張感は画面越しにも伝わってきた。一説には政治問題に踏み込んだあとの上層部からの眼に見えぬプレッシャーが降板に関係しているとの見方もある。

 いずれにせよ『あさイチ』は、NHKに残された数少ない良心のひとつだった。いや、NHKだけに限った話ではない。前述したように民放のワイドショー、情報番組の右傾化・男権主義化が著しいなか、『あさイチ』の弱者の視点を忘れずないリベラルなスタンスは本当に貴重な存在だ。

 そして『あさイチ』のこうした企画が視聴者に届き、反響を呼び、支持されてきたのは、これまで述べてきたように何より有働アナと井ノ原の存在が大きかった。

 その有働アナもイノッチもそろって『あさイチ』から姿を消すことになると、『あさイチ』という番組そのものが変質してしまう可能性が高い。改憲議論も迫るいま、日本の言論状況にとっては大きな損失といえよう。

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