「火垂るの墓では戦争は止められない」高畑勲監督が「日本の戦争加害責任」に向き合うため進めていた幻の映画企画

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

「朝鮮人が強制連行される現場を見てしまったことがある」

 以上が『国境』のあらすじである。予科生の昭夫が漠然と考えていた朝鮮・中国、満州・モンゴルの「国境」とは、侵略者である日本が引いて強要しているものだった。

 昭夫がそのことを悟るのは、日本人による暴力や差別を目の当たりにしたことだけがきっかけではない。むしろ、支配を受けている当事者たちとの腹を割った交流から、「祖国」とは「民族」とは何かを見つめ直すことで独立運動に関わっていくのである。たとえば、作中で機関士に扮してモンゴル国境へ向かう最中、昭夫は協力者のモンゴル人や朝鮮人とこのような会話を交わしている。引用しよう。

〈昭夫は改めて運転室の中を見渡した。石炭で真っ黒になった信彦の顔を想像しておかしくなった。ドルジは続けた。
「日本人として育てられ、それから自分の国を選び直したんだからな。国を選び直すというのは大変なことだろうよ。おれなんかは、満州なんか国じゃない、おれの国はモンゴルだ、それ以外に考えたことはなかったけどさ。彼はそうじゃないもんな」
「選べる国があるやつはいいよ」
 突然声がした。李さんだった。
「俺たちには国がないんだからな」
 ちょっと遠慮がちに昭夫の顔を見てから続けた。
「日本人に国を追い出されて、満州をあちらこちらとうろつきまわったけど、どこへ行ってもよそ者だった。よその国の大地、その国の空をさ迷う人生というのがわかるかい。こうやって働いたり考えたり喋ったりしたことは、みんなよその国の空と土の中に消えちまうのだ。誰がその歴史をついでくれるというあてもなくな。──淋しくってな。本当に淋しいよ」〉

 また、同作の特徴のひとつとして、関東大震災時の朝鮮人虐殺、慰安婦や徴用工の強制連行、人体実験をしていた731部隊、植民地解放を謳った傀儡政権の樹立、朝鮮人の創氏改名など、日本による加害事実のエピソードが随所に挿入されることが挙げられる。そのすべてが作者の実体験ではないにせよ、少なくとも日本軍による強制連行については、当時目撃した光景が如実に反映されているようだ。しかた氏はある講演のなかでこう証言している。

〈いっぺん、どこかの小さい駅で朝鮮人が強制連行される現場を見てしまったことがあるんです。これもすごかったですね。ぼくは人間が泣くというのはこういうことかと初めて知ったわけです。オモニが泣き叫ぶ、泣き叫ぶオモニをけ倒し、ぶんなぐり、ひっぺがしながら、息子や夫たちが貨車に積みこまれていく光景を見てしまった。その泣き声は強烈に残っているんです。ぼくはそのとき、自分が朝鮮人をわかっていると言ってたくせに、指一本動かすことができない日本人の限界を、どっかで感じていたんですね。〉(『児童文学と朝鮮』神戸学生青年センター出版部、1989年)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

新着芸能・エンタメスキャンダルマンガ・アニメビジネス社会カルチャーくらし教養

「火垂るの墓では戦争は止められない」高畑勲監督が「日本の戦争加害責任」に向き合うため進めていた幻の映画企画のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。スタジオジブリ安倍晋三小杉みすず火垂るの墓高畑勲の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 「トランプに皮肉」村上春樹の本格的トランプ・安倍批判
2 民放連が改憲CMを無制限垂れ流しの方針
3 本田圭佑の朝鮮学校訪問と発言の勇気
4 菅に日歯連から3000万円迂回献金
5 茅ヶ崎市での慰安婦映画上映に慰安婦像を蹴った極右団体が
6 貴乃花出馬を阻む森喜朗との不仲
7 安倍首相がカジノ法で虚偽答弁!トランプ圧力やっぱりあった
8 乃木坂46橋本奈々未が背負った貧困
9 『ワイド!スクランブル』コメンテーター就任の柳澤秀夫に期待
10 美智子皇后が誕生日談話で安倍にカウンター
11 櫻井よしこは嘘つきだ!小林節が告発
12 『ZERO』降板の村尾、安倍首相ブチギレ事件
13 オウム菊地無罪!井上証言の裏に
14 靖国神社宮司が天皇批判!右派勢力が陥る倒錯
15 フジ、テレ東、NHKの入管PR番組と安倍政権の排外政策
16 『報ステ』小川彩佳降板は政権批判が原因か
17 グッディ!土田マジギレ真の原因
18 『橋下×羽鳥』が森友疑惑の論点ずらし
19 旭日旗問題で國村隼の発言は正論だ! 
20 テイラー・スウィフトのトランプ批判に拍手
1加計理事長会見で新聞・テレビ記者が徹底糾弾!
2サザン桑田が“政治風刺辞めない”宣言!紅白での炎上にもめげず
3 柴山文科相「教育勅語」発言は政権の総意
4安倍改造内閣は杉田水脈レベルの“ほぼ全員ネトウヨ内閣”
5安倍改造内閣に田崎スシローも「これまでで一番出来が悪い」
6加計理事長のデタラメ会見に加計学園の職員が
7ノーベル平和賞ムクウェゲ医師が批判した慰安婦問題
8旭日旗問題で國村隼の発言は正論だ! 
9翁長前知事県民葬で菅官房長官に「嘘つき」の怒号
10百田、上念、有本、WiLL…安倍応援団の小川榮太郎切りが醜悪!
11本田圭佑の朝鮮学校訪問と発言の勇気
12安倍首相がカジノ法で虚偽答弁!トランプ圧力やっぱりあった
13靖国神社宮司が天皇批判!右派勢力が陥る倒錯
14 『zero』有働由美子がニュース感覚“ゼロ”を露呈
15 ネトウヨ落語家・桂春蝶が不倫相手にDV
16茅ヶ崎市での慰安婦映画上映に慰安婦像を蹴った極右団体が
17テイラー・スウィフトのトランプ批判に拍手
18フジ、テレ東、NHKの入管PR番組と安倍政権の排外政策
19『ワイド!スクランブル』コメンテーター就任の柳澤秀夫に期待
20 スクープ! 神社本庁・田中総長が辞意を撤回

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄