「ヘイト」を追及し続けるジャーナリスト・安田浩一インタビュー(前)

両論併記に逃げるメディアの傍観者たちは「ヘイト」の意味も危険性もわかっていない!

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──安田さんとはこれまで何度もヘイトデモの現場でお会いしてきました。人によっては、一冊本を出したらそこで取材を終わるという人も多いのではないかと思います。『ネットと愛国』を出して以降も取材を続けていらっしゃるのはなぜなんでしょう。

安田 僕自身「書いて終わり」という仕事はこれまでさんざんしてきました。そういうその場を通り過ぎるだけの取材が嫌になって、フリーランスになったわけです。
 ヘイトスピーチの問題に関して取材を続けている理由は、カッコつけたいわけじゃありませんが、僕のなかで「まだ何も終わっていない」という思いがあるからです。現状何の解決もしておらず、出口が見えていない状況だということです。
 もう1つ、僕は記者としてこの問題に取り組むと同時に、自分を明確に「カウンター」(対抗者)のひとりだと思っています。もちろん記者なので時に冷静な視点も求められるし、あるいは僕に罵声を投げつける側にあえて飛び込んで話を聞いたりもします。取材者としての自分を失わないようにはしている。ただ、いずれにせよ僕は差別集団に反対する側であるということを十分に自覚してものを書きたいと思っています。前線で彼らと対峙している人からすれば「いつも後ろのほうにいる」と思うかもしれない。でも、僕自身は自分のことを記者であると同時に、ヘイトスピーチやこうした差別集団に「反対する側のひとり」でありたい。なので僕にとっては本を出すことも、カウンターのひとつです。

──そのような意識が出てきたのはいつ頃ですか。

安田 『ネットと愛国』を出版して以降です。取材を続けながら「これからは反対者として覚悟決めてやらなきゃいけない」という思いがだんだん明確に自分のなかで固まってきた。
 もう1つ、『ネットと愛国』以降に自分のなかでもはっきり意識するようになったのは「在特会だけが問題じゃない」ということです。朝日だろうが毎日だろうが、あるいは産経だろうが週刊新潮だろうがメディアの人間は「在特会ってどうですか?」と言われたら「最低です」くらいのことはみんな言いますよ。つまり、在特というのはその醜悪さゆえにわかりやすいし、目立つ。彼らを批判するのは誰にでもできるんです。
 でもそれだけでなく、彼らのような存在を後押しする人々に対してもきちんと批判を加えなければいけないと思うようになりました。今回の新書では在特会に限らず、イスラム教徒や水俣病患者への嫌がらせや誹謗中傷についても取り上げています。今社会の一部ではとにかく「敵」を発見して、その相手を叩く・吊るすという回路が出来上がっている。そこで「吊るされる」側というのはたいてい社会的弱者で、何らかの形で権利獲得や権利回復につとめている人だったりするんですね。その安易な構図が僕は気に入らない。彼らを許容しているのはそうしたこの社会のシステムなんです。
 これからも彼ら・彼女らはどんどん新しい敵を発見しては、安全圏から叩き続けると思うんですよね。その空気感みたいなものについては、さらに取材をしたいなと思っています。「あなたがたは間違っている」ときちんと主張し続けなければ、僕らが住んでいる社会そのものがおかしくなってしまう。主張するのは僕自身のためでもあります。

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