安倍大学改革で簿記学校化!? でも経済学部の中身はすでにグダグダ

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 大学側にとっても経済学部は大教室の一斉講義が可能で“優良学部”だったことから経済学部が乱立した。

「大学当局の側から見ると、経営がかなり低コストで済む“優良学部”と言えるかもしれません。多数の学生を集めて少数の先生で教えるということは低コストで効率的な運営ができているということです。(もちろん、学生の皆さんから見れば、非効率な授業ということになります)」(同書より)

 このため魅力のないマンモス教育になりがちだ。しかも、教授たちは研究よりもメディア出演に忙しい。

「マスコミに出ると、『学者としてあきらめたのか』という批判が常につきまといます。学者としてこれは厳しい批判です。東大経済学者の中で、テレビで活躍し始めた先駆けは伊藤元重でしょう。彼は愛嬌がありますし、学生からも人気があるので、テレビ向きなのかもしれません。いまでも『ワールドビジネスサテライト』などのコメンテーターとして人気ですが、彼が若い頃、早くからメディアに出始めたことで小宮隆太郎から叱られたという話を聞いたことがあります。(略)もっと若くしてメディアに登場している経済学者も少なくありませんし、東大以外の人の中には露出し過ぎの感のある研究者もいます」(同書より)

 小宮隆太郎は市場原理主義者で、先ごろ亡くなった宇沢弘文と同時代の東大経済学部教授だ。しかし、当然ながら経済学は市場原理だけではない。

「経済学はかつて、社会科学の女王といわれ、その名にふさわしい魅力を備えていた。と同時に、経済学は社会科学のなかでもっとも実用性の高い、プラグマティックなものとして、社会的にも、政治的にも深い信頼に支えられていた」
「経済学がかつてもっていた理想主義的な理念は、経済学の発展の方向をまた規定していった。日本についてみても、第二次世界大戦前あるいは戦後の期間に人格形成期をもった人々が経済学に志したのはなによりも、一個の学問としての経済学に対して、学問的情熱を超えて、深い人間的な憧憬ともいうべきものをもったからであった。それは、たんに知的欲求をみたすというだけでなく、経済学の学習を通じて、時代の思想的苦悩、経済的混乱を超えて、理想主義的な視点に立って、革新的な、理性的な体制改革を実現しようという、すぐれて実践的な問題意識に支えられたものであった」

 これは、反市場原理主義の立場をとった宇沢弘文『近代経済学の転換』(岩波書店)の一節だ。宇沢は現代文明の批判者として、市民が健康で豊かな生活を送るために、基本的権利に関わるサービスを供給する「社会的共通資本」の理論を提案し、幸福な社会を実現するため社会的共通資本をいかに向上させていくかを研究し続けた。晩年は反TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の活動で全国行脚しつつ、11年3月の東日本大震災の直後に過労が原因と見られる脳梗塞で倒れ、その後、闘病生活の末、9月18日に亡くなった。

 経済学に、大学側は低コストを求め、学生側は良い就職先を求める──、しかし、その結果として、かつて“社会科学の女王”といわれた経済学部に市場原理だけが支配してしまう。さらなる実利を求める市場の要請で、「弥生会計ソフトの使い方」を教えるだけの「簿記・会計」学部に成り下がるというのは皮肉な話ではないか。
(小石川シンイチ)

最終更新:2015.01.19 04:39

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