娘のばななに「おまえまで共産党か!」吉本隆明の晩年のボケぶりが明らかに

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  そういう人の良さゆえ、金をせびられたこともある。吉本は1996年に海水浴中に溺れ、一時意識不明の重体になったが、その際に救助した中の一人が数年後、金に困って家を訪ねてきた。もちろん吉本の妻は、既に謝礼を送っていた。その時の玄関先でのやり取りを聞いていたばななは、こう語っている。

〈「今、うちにはほんとうにお金もないし、とにかくこれだけなら差し上げられます」と言って、父はポケットの中からくしゃくしゃになったお金を全部出してその人に即座にあげていました。多分数万円と数千円だったと思います。その人はあきれたのとその行動にうたれたのと半分くらいの感じで、ぶつぶつ言いながら帰っていきました。こういうことってあるもんなんだねえ、という父の声がまだ耳に残っています〉

 生涯大衆や世間に寄り添い、その代弁者となりながら、当の彼らに利用される無類のお人好しだったというわけである。

 また、吉本については、晩年、内容に疑問符がつくようなインタビュー本が多く出版され、ボケているのではないかという話が囁かれていたが、ばななは今回、このボケについてもはっきり語っている。

 足が悪くなってからはかなりボケが進み、世に波紋を投げかけてきた自らの仕事すら、きれいさっぱり忘れ去ったような発言もしばしばだったという。とくに「オウム真理教ってなんだっけ?」と言い出したときには、みんなずっこけたらしい。それはそうだろう。地下鉄サリン事件の後も宗教者としての麻原彰晃を評価する旨の発言を行い、「オウムの擁護者」として轟々の非難を浴びたのだから。

 もっとも、新左翼のイデオローグだった吉本が60年安保の時代から激しく対峙してきた日本共産党への敵愾心だけはずっと持ち続けていたようで、ばななに対して「おまえまで共産党だとは!」と言い出したこともあったという。この時は、「自慢じゃないけど、私は共産党ってだれが作ったかも知らないぞ!」と、言い返したらしい。

 吉本は、東日本大震災後の2012年1月、「週刊新潮」で「反原発で猿になる!」と題する原発肯定論を展開し、多くの反発を浴びた。だが、この発言も、「お人好し」で「おっちょこちょい」で、「ボケて」いたがゆえに乗せられてしゃべらされてしまったと考えれば、納得がいく。

 他にも、島尾敏雄の代表作『死の棘』のモデルになった妻の島尾ミホに好意を抱いていたことを匂わせたり、演歌歌手の藤あや子のヌード写真集に見入っているのを家族にからかわれると、自分の好みを親友のせいにしたりと、ばななの話すのボケぶりはなんとも微笑ましいものばかりだ。

 ばななが〈気がよくて損ばかりしておっちょこちょいで、いつも即座に人を思いやれる〉と評した吉本は、普通に老い、普通にボケて、最後まで妻や娘たちを思いやりながら、その生涯を閉じた。そういう意味では、吉本がこだわり続けた〈大衆の原像〉を体現した晩年だったといえるかもしれない。

 ばななは、講演の中で、父親との最後の会話をこんなふうに明かしている。
〈最後にはっきりした会話をしたとき、父は、「年寄りっていうのは情けないもんですよ、同じことばっかり言って。みんながそう思ってるのはわかってるんだけどねえ」と言ったので、「いや、生きていてくれるだけでいいんです」と言ったら、「そう思えたらいいんですけどねえ」と言いました〉
(酒井まど)

最終更新:2014.08.13 12:23

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吉本隆明全集〈7〉 1962-1964

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