告発に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
野党をフェイク攻撃してきた有名ネトウヨ「Dappi」の正体は自民党が主要取引先のウェブ制作会社だった!
公式Twitterより
内閣情報調査室の一室、男たちがパソコンに向かい、政権を告発した人物への攻撃を一斉に投稿している一──。望月衣塑子原作の映画『新聞記者』にこんなシーンが出てきて話題になったが、これはけっして妄想などではない。官邸や自民党によるネット、SNSを使った政治謀略は、日常的に行われている。
最近もそのことを物語るような問題が浮上した。ツイッターで野党やマスコミ叩きをしている有名ネトウヨ匿名アカウント「Dappi」が、自民党に金で雇われた業者の運営だった疑惑が出てきているのだ。
Dappiに攻撃を仕掛けられた立憲民主党・小西洋之参院議員らが発信者開示請求訴訟を起こしたところ、発信元がウェブや広告の制作会社であることが判明。しかも、その会社の取引先には「自民党」の名前があったのだという。
2015年に開設されて以降、匿名アカウントながら10万人以上のフォロワー数を擁するなど、ネトウヨから強い支持を受けてきたDappi。2019年6月に一度凍結され現在のアカウントになり、いまは16万人というフォロワー数を誇っているが、その背後に自民党がいたとしたら、とても看過できるものではない。というのも、Dappiはたんに野党やマスコミを攻撃しているだけでなく、悪質なフェイクを駆使しているからだ。
その象徴的な事例が2020年5月11日、立憲・福山哲郎幹事長が国会質問で、政府分科会会長の尾身茂氏を罵倒していると印象付ける動画を制作し、〈恫喝もするし、話も理解出来ない立憲〉といったコメントとともに拡散した件だ。
このDappiの動画とツイートは2万件以上リツイートされ、〈#福山哲郎議員に抗議します〉というハッシュタグが大量に投稿される事態にもなった。
しかし、この動画は切り取り歪曲されたフェイク動画だった。Dappiの動画では、冒頭で福山幹事長が答弁に立つ尾身会長を指差し「何、指導してんですか?」と声を荒げているように見えるが、実際、福山氏が詰め寄っているのは尾身氏ではなく、閣僚席から不規則発言で尾身氏を誘導しようとする安倍晋三首相(当時)に対してだった。実際、このときの国会では安倍首相の不規則発言により審議が止まり、委員長も安倍首相に注意を与えている。ところがDappiは安倍首相が不規則発言する姿をカット。あたかも、福山氏が尾身氏に対して声を荒げているように動画を編集していた。
しかも、Dappiはこのツイートに福山幹事長と尾身氏のやりとりをテキストで添えていたのだが、そこでも、福山氏のセリフを、ことごとく乱暴な口調に改ざん。「話を短くしろ!」などという、福山氏が言ってもないセリフを加えていた。
菅首相と枝野代表の党首討論の動画も歪曲編集、朝日の社説についても書いてないことをでっちあげ
最近も、2021年6月9日におこなわれた立憲民主党の枝野幸男代表と菅義偉首相(当時)による党首討論で、切り取りによるフェイクを拡散している。
このときの党首討論では、コロナ対策が大きなテーマだったが、Dappiはこうツイートしていた。
〈菅総理「立憲民主党の“ゼロコロナ戦略”は無症状も含めた徹底検査だが、私権制限強化に慎重だった立憲はどう国民に強制検査させるつもりなのか?また強い私権制限可能な台湾・NZ・オーストラリアと日本を比較する如何なものかと」
枝野幸男「党首討論に相応しくない話!」
哀れすぎる枝野〉
同時に、同じやりとりになっている動画をアップし、菅首相からゼロコロナ政策を批判されて、枝野代表が「党首討論には相応しくない」と言って議論から逃げたような印象を与えていた。
しかし、実際は菅首相が立憲民主党のコロナ政策について触れた後、延々と1964年の東京五輪の思い出を語っており、枝野代表の「党首討論には相応しくない」という発言はその思い出話を指してのものだった。
ところが、Dappiは動画でもテキストでも、菅首相が五輪の思い出話を延々語っている部分を大幅にカットし、コロナ政策について枝野代表が「党首討論には相応しくない」と言ったように捏造編集したのだ。
Dappiのフェイク攻撃は、もちろんマスコミにも向けられていた。たとえば、2020年9月18日に朝日新聞が「慰安婦合意 意義を再評価し前進を」という社説を掲載したところ、Dappiは以下のようなコメントをツイートしていた。
〈今日の朝日の社説は酷い。
起訴中の尹美香が『李容洙は被害者でない』と韓国側の主張の根本を覆す発言をしたのに『疑惑の真偽はどうあれ救済しろ』と真実は関係ない・日韓合意の『最終的かつ不可逆的に解決』はなかったことにしろと主張。
慰安婦問題を捏造した朝日らしい社説〉
しかし、タイトルを見ただけでもわかるように、朝日の社説の主張は真逆。朝日は慰安婦日韓合意を「なかったことにしろ」などまったく書いておらず、一つの合意で解決済みとする日本政府の対応に疑問を呈するものの、合意そのものについてはむしろ日韓両国に対し〈慰安婦合意の趣旨を双方が再確認すること〉を求めている。
ほかにも、立憲民主党の有田芳生参院議員について、有田議員の長男が北朝鮮に頻繁に出入りしたなどのデマ発言をはじめ(有田議員が裁判を提起する姿勢を見せたためか、現在は削除されている)、ネトウヨ論客たちが出演する『真相深入り!虎ノ門ニュース』(DHCテレビ)などでのデマ発言もやたら動画で拡散。
立民・小西議員らの発信者情報開示でウェブ制作会社の名前が 同社の主要な販売先の筆頭に「自民党」
そんな露骨なフェイクを連発していたDappiだが、ネット上では以前から「個人ではなく、ある程度の規模の組織がやっているはず」「背後に政権・自民党がいるのではないか」という見方が囁かれていた。
疑惑がでてきた理由は、Dappiのツイートのペースだった。投稿されるのは基本的に、月〜金曜日の平日のビジネスタイムのみで、土曜・日曜はネトウヨの標的である『サンデーモーニング』(TBS)をディスる以外は休み、と会社の業務のようなペースで更新される。
投稿のすばやさ、量も個人でやれるようなものとは思えなかった。国会中継などの切り取り動画は中継の直後すぐや中継も終わらないうちにアップされ、特定のトピックに関する各局の報道時間の集計などの煩雑なデータがグラフ化し投稿される。入手の面倒な過去の新聞記事の紙面画像などを即座に投稿することもあった。
こうした個人とは思えない投稿ペースに加え、内容が、ネトウヨアカウントの中でも、ストレートな自民党擁護と野党叩きが多いことから、自民党や政権に近い組織か、自民党に依頼された業者が運営しているのではないか、という声が大きくなっていた。
そんなところに、行われたのが、今回の発信者情報の開示だった。前述したように、発端はDappiに質疑内容を歪められて攻撃されてきた小西洋之参院議員ら立憲民主党の議員2人が、Dappiを名誉毀損で訴えようとしたことだった。
訴訟提起するためには匿名のDappiの実際の発信者を特定する必要があり、小西議員らはツイッター社に対して発信者情報開示を申し立て。仮処分決定が出て、Dappiがログインした際のIPアドレスなどの発信者情報の開示を受けたが、わかったのはNTTコミュニケーションズを経由してツイッターにログインしていたことまでだった。
そこで、今度は、NTTコミュニケーションズを相手取って、発信者情報開示請求訴訟を東京地裁に起こし、この判決によって、IPアドレスを使用した契約者に関する発信者情報が開示されることになった。
その結果、わかったのが冒頭にも出てきたウェブ・広告制作会社だった。しかも、その後の報道で、この会社は、自民党と取引があることもわかった。
「フライデーDIGITAL」は、Dappiのアカウントの持ち主について、こんなコメントを掲載している。
「このアカウントの『法人』というのは、都内のIT関連企業です。小規模な会社ですが、会社情報の『主な販売先』に『自由民主党』と謳っていました。この規模でこの業務内容、ふつうに考えて…おや? とひっかかります」(IT関係者)
また、「弁護士ドットコムニュース」もこの問題を取り上げ、この企業が「会社情報検索サイトに、主要な販売先の筆頭に「自民党」を挙げている」と指摘していた。
電通とタッグでSNS対策、ネトウヨサイト「政治知新」、野党攻撃の「terrace PRESS」にも自民党の影
こうした経緯や証言を総合すると、野党やマスコミにフェイク攻撃を仕掛けてきたこの有名ネトウヨアカウントの正体が、情報開示で名前が出てきた広告・ウェブ制作会社にであることはほぼ間違いなく、自民党が金を払って、“仕事”としてやらせていた可能性も十分ある。
実際、自民党はこれまでも、ネットやSNSを使って組織的な情報操作を行ってきた事実が判明している。
有名なのが、電通からの提案で始まったとされる、自民党のネット対策の特別チーム「Truth Team」(T2)プロジェクトだ。2013年の参院選挙時、自民党は「T2」を立ち上げ、専門の業者に委託するかたちでツイッターやブログの書き込みなどを24時間監視。自民党に不利な情報があれば管理人に削除要請したり、スキャンダルなどネガティブな情報が検索エンジンに引っかかりにくくさせるための「逆SEO」までおこなった。
しかも本サイトの取材で、その後も「T2」はいまも毎年、自民党から電通に発注されつづけていたことが判明。選挙や対立する政治課題が持ち上がったときは、特別な指示を出して、SNS監視や対策を電通にやらせていたという。
「2018年の沖縄県知事選挙でも、電通が請け負って子会社の電通デジタルなどがSNS対策をやっていた。あのときは、玉城デニー知事をめぐってさまざまなデマ情報が拡散したが、これらのなかにも電通が仕掛けたものがいくつもある」(自民党関係者)
さらに自民党関係者がネトウヨ向けサイトを運営していた疑惑もある。有名なのが、「政治知新」なるネトウヨ向けサイト。共産党の吉良よし子参院議員の不倫デマや沖縄県知事のさなかに玉城デニー知事のたい麻吸引というデマ(いずれも完全なデマ)を流したのをはじめ、フェイクやデマを交えてしょっちゅう野党や政権批判者を攻撃してきたことで知られる。
2019年、このサイト「政治知新」のドメイン情報から、登録されている運営者が菅義偉官房長官(当時)の息のかかった自民党神奈川県議の弟であることが発覚。さらに、その運営者とされる本人はなんと、2019年4月に開催された安倍首相主催の「桜を見る会」に招待されていたことを、自らFacebookで報告していた。
また、2019年7月の参院選前には、正体不明の発行元による“野党&メディア攻撃”まとめ本を、自民党本部が所属国会議員にバラまいていたことが判明。『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』なるタイトルの冊子は150ページもあり、たとえば「トンデモ野党のご乱心」なる第一章では、「立憲民主・枝野代表の無責任を嗤う」と題して〈辺野古移設への反対活動には過激派も入り込んでいます。枝野氏は、革マル派活動家が浸透しているとされるJR総連などから献金を受けており、革マル派に近いといわれています〉などとネトウヨ界隈で定番となっている“枝野幸男=革マル”のデマ攻撃が掲載されるなど、典型的な“野党攻撃”があふれていた。
冊子の奥付には「terrace PRESS」なる聞きなじみのないウェブサイトの名称が記されており、そのサイトからピックアップされた記事を〈見出しを含め、加筆、修正したものを掲載〉しているとのことだった。
しかし、この「terracePRESS」は検索エンジンにかけても、まったくヒットぜず、収入源となるはずのウェブ広告の類も一切なかった。そんなところから、同サイトの本を所属議員に配布した自民党の関係者がこのサイトの運営に関与し、身内だけで、密かに“野党叩きの作戦指南サイト”として利用している可能性が指摘された。
小西議員らが起こした裁判で「Dappi」と自民党の関係が明らかに?
いずれにしても、安倍政権下の自民党では、こうしたネットやSNSを使った謀略が日常化していた。だとすれば、Dappiもまた、同じパターンで自民党が仕掛けていた可能性はあるだろう。
Dappiについては、とりわけ、安倍元首相、麻生太郎・前財務相を擁護し、その政敵を叩く傾向が強かったことから、自民党でも、安倍・麻生に近い勢力が動かしていたのではないかという見方もある。
また、名前の上がっている広告制作会社は下請けで、実際は自民党と関係の深い大手広告代理店が元請けになっているのではないかという疑いの声も上がっている。
ほかにも、疑惑はつきない。もし、自民党が動かしていたとしたら、どういう立場の人間が依頼し、内容にどうコミットしていたのか。
Dappiは、小西議員らの発信者情報開示請求が認められた少しあと、10月1日を最後に、ツイートをストップさせているが、小西議員らが起こした裁判でそうした疑惑が解明されるかもしれない。裁判の行方を注視したい。
(編集部)
最終更新:2021.10.11 01:21
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