菅首相が「明るい話聞いた」相手は「コロナはインフル並み」「日本で死者増えない」が持論の医師 安倍首相も集団免疫論にハマって…

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首相官邸HPより


 昨日18日、ようやく開会した通常国会で施政方針演説に挑んだ菅義偉首相。しかし、その演説はやっぱり覇気もなく原稿をただ読み上げるだけ、しかも読み間違いを連発する緊張感のないシロモノだった上、見通しも立てられないほどの世界中で感染拡大の最中だというのに、東京五輪の開催や「新型コロナを克服した上で世界の観光大国を再び目指します」などとインバウンド強化を打ち出す始末。

 医療崩壊ならぬ「医療壊滅」一歩手前と叫ばれているのに、菅首相は現実がまったく見えていないのか。

 いや、見えていないのである。それどころか、菅首相は不都合な現実からわざと目をそらし、“ファンタジー”にすがろうとしている節すらある。

 そのことが垣間見えたのが16日。この日、菅首相は15時40分から16時26分まで“ある人物”と面会したのだが、その際、「久しぶりに明るい話を聞いた」と感想を口にしたと報じられたのだ。

 この切迫した状況でどんな「明るい話」があるのかと言いたくなるが、菅首相をご機嫌にさせた面会相手は、大木隆生・東京慈恵会医科大学教授。大木教授は面会後、記者団に首相に提言した内容をこう語った。

「医療崩壊ということばが盛んに言われているが、97%、96%のベッドがコロナに使われず、一般の医療に使われており、余力が日本にはある。民間病院が、商売として『コロナをやりたい』と思うぐらいのインセンティブをつければ、日本の医療体制は瞬く間に強化される」(NHKニュース16日付)

 つまり、この話を受け、「菅総理大臣は『久しぶりに明るい話を聞いた』と言っていた」(大木教授)らしいのだ。

 おいおい。国民も野党もこの間、医療提供体制を強化するために医療機関への減収補填を含めた補償・支援策を強く訴えていたはずだ。それを無視・放置しておいて、いまごろになってこんな程度の話で「明るい話を聞いた」と喜ぶってどうかしているんじゃないか。しかも、専門医や看護師の不足という問題、受け入れ設備や規模の問題があるのに、病院に「商売としてコロナをやりたい」という経済的なインセンティブを与えるだけで問題がすべて解決するかのようなノーテンキぶり……。これが国民の命を預かる総理大臣の認識なのか。

 しかし、もっと問題なのは、菅首相がこんな状況でわざわざ45分間も面会して、その話にご機嫌になった相手である大木教授が、新型コロナウイルスという感染症をめぐって繰り返してきた主張だ。

 大木教授は感染症の専門家ではなく血管外科・心臓血管外科の医師なのだが、専門外であるにもかかわらず、「コロナはインフルエンザと変わらない」「普通の病気と同じように扱え」などと語ってきた人物なのだ。

菅首相が会談した大木教授は5月に「通常社会活動を再開しても日本で死者数が増えない」

 たとえば、大木教授は昨年5月7日に「新型コロナクライシスに対する大木提言」を公表。そこでは、このような主張を繰り広げていた。

〈「ほぼ通常社会活動再開」を実行しても日本で死者数が増えない〉
〈(日本の新型コロナ)死亡率は季節性インフルエンザと同等レベル〉
〈出口・ゴールは一つしかありません。それは、日本と世界の人口の約6割が新型コロナに対して免疫を獲得し、いわゆる集団免疫を獲得することです〉
〈もし数年以内にワクチンが開発できなかった場合は医療体制を強化しつつ緩やかな感染対策をとった結果、日本は世界で最初に集団免疫を獲得し、最初に制約のない社会経済活動を営める国となる可能性すらも秘めています〉
〈一刻も早く第二類感染症指定を解除し第五類感染症とし、普通の病気扱い出来るようにすべき〉

 まさに“トンデモ”と言うべき主張ばかりで、苦笑いするしかない。そもそも〈「ほぼ通常社会活動再開」を実行しても日本で死者数が増えない〉って、社会活動を再開した結果、国内の死亡者は現在約4500人にまで膨れ上がっているじゃないか。

「新型コロナの死亡率は季節性インフルエンザと同等レベル」も、同様だ。季節性インフルエンザの死亡者数は毎年3000人前後とされているのに、すでに新型コロナの死亡者数は前述のように4500人を超えている。

 しかも、問題は致死率だ。厚労省によると国内の季節性インフルエンザによる感染者数は例年約1000万人いると推定されており、死亡者数は前述したように毎年3000人前後とされているから、単純計算で致死率は0.03%となる。一方、国内の新型コロナの累計感染者数は約33万人、死亡者数は前述したように約4500人であり、単純計算で致死率は約1.4%だ。新型コロナのほうが季節性インフルエンザよりも約50倍、致死率が高いということになるのだ。これでどうして「新型コロナの死亡率は季節性インフルエンザと同等レベル」「普通の病気」などと言えるのか。

「集団免疫を獲得するのがゴール」「日本が世界で最初に集団免疫を獲得できる」という主張も、とっくに覆されているトンデモだ。

 たとえば、イギリスは当初、「集団免疫獲得」を掲げたが、科学者やメディアから大きな批判を浴び、わずか1週間で方針転換を余儀なくされた。また、ロックダウンなどを一切やらず集団免疫獲得作戦だといわれたスウェーデンでも、第1波で北欧のなかで圧倒的に多くの死者を出したうえ、第2波でも感染はおさまるどころか、昨年11月から感染者も死者もさらに急増。国王が政府のコロナ対策を批判する事態となった。

 さらに、住民の6割以上が感染して抗体を持ち「集団免疫」に達したといわれたブラジルのマナウスでは、感染者や死者が再び増加。自然感染しても抗体は数カ月で弱体化するという研究も発表されている。WHOのテドロス事務局長も集団によるワクチン接種まで集団免疫は発生しないとし、「科学的にも倫理的にも問題だ」と自然感染による集団免疫の獲得を批判しているほどだ。

「集団免疫」「経済優先」の大木教授を最初に重用したのは安倍首相

 このように、大木教授の主張は進行するコロナの現実によってことごとく破綻し、フェイクであることが証明されてしまったものばかりなのだが、驚くのは、大木教授がそれでもいまだにこうした主張をほとんど撤回も修正もせず、繰り返していることだ。

 今年1月5日に、前掲した提言の「ver3」を発表したのだが、「集団免疫」獲得論はもちろん、こんな主張を展開している。

〈新型コロナは欧米においては恐ろしい感染症であるが、様々な理由から日本人にとっては季節性インフルエンザ程度の病気と位置づけられる〉
〈実害のない「新規陽性者数」「過去最多」に一喜一憂せず、(略)第2類感染症指定の運用を柔軟にすることで医療崩壊を防ぐべきである。そしてこの「日本の特権」を活用し、このまま基本的な感染対策を遵守し、国民の生活と経済優先で進めるべきである〉

もはや言葉を失うが、こうした大木教授の主張には医学会からも批判が殺到し、東京慈恵会医科大学附属病院は昨日18日、病院長名で〈本学外科学講座教授大木隆生氏がメディアなどを通して発信している内容は個人的見解であり本学の総意ではありません〉という釈明文を発表する事態となった。

 しかし、注視しなければならないのは、大木教授のこうした主張が、菅首相がとってきた感染対策への消極姿勢と「GoTo」などの経済優先政策を正当化するものであるという点だ(実際、提言には「経済優先で進めるべき」という文言もはっきり書かれている)。

 ようするに、菅首相は大木教授のトンデモ理論が自分の失策を正当化してくれると考えたからこそ、この緊急時に45分もの時間を割いて大木教授との面会をセッティングしたのだろう。

 そして、面会後、菅首相が「久しぶりに明るい話を聞いた」という感想を漏らしたのも、もしかしたら「病院へのインセンティブ」よりも「日本は集団免疫獲得で世界をリード」「インフルエンザ並みの危険性しかないから経済優先でいい」などという話を聞かされて、我が意を得たりとなったからかもしれない。

 いずれにしても、こんな状況下でもなお、集団免疫論を主張するトンデモ学者と面会したということは、菅首相がこの期に及んでも、「経済優先」の方針を変えるつもりがないということだ。これでは、いつまでたってもまともなコロナ対策を打つことができるはずなどないだろう。

しかし、こうしたトンデモ集団免疫理論にハマっていたのは菅首相だけではない。実は、くだんの大木教授を最初に重用したのは、菅首相の前任である安倍晋三前首相だった。安倍首相は昨年6月18日、大木教授と面会し、その後、7月末に大木教授を「未来投資会議」の民間議員に追加している。

「週刊新潮」(新潮社)1月21日号に掲載されている大木教授の話によると、「日本および東アジア人、すなわちモンゴリアンは新型コロナに強いようだから、ロックダウンや緊急事態宣言に頼らず、医療体制を強化し、経済との両立、新型コロナとの共生を図るべき」という提言を「総理官邸に届け」たところ、安倍前首相が「提言を評価」し「私を未来投資会議民間議員に抜擢してくれた」という。

 コロナの後手対応、無策が安倍政権時代から始まっていたことはいまさら説明するまでもないが、その頃から、すでに最高権力者が大木教授のトンデモ理論にすがって自らを正当化するという構図は始まっていたのだ。

安倍前首相は「日本人はすでに集団免疫獲得」「コロナ年内収束」と主張の上久保教授の理論を「使えないか」と

 いや、安倍前首相はもうひとり、もっとトンデモな主張をする医学研究者のブレーンがいた。それは上久保靖彦・京都大学特定教授だ。

 上久保教授は、「集団免疫獲得をゴール」どころか、昨年夏の時点ですでに日本人は集団免疫を獲得していると主張しており、年内に収束、第2波は来ないと主張していた(しかも、大木教授と同じく、その主張が完全に外れても悪びれることもなく、12月になってからは「『第3波』の大きな波は早ければ来年1月、遅くとも3月には収束する可能性もある。『GoToトラベル』の停止や緊急事態宣言などはまったく不要だ」などと主張している)。

 ところが、安倍首相は大木教授と面会する約1週間前の6月12日、その上久保教授と面会しているのだ。そして面会後、「この理論が何とか使えないか」と指示までおこない、関係者をあきれさせていたという(北海道新聞2020年8月23日付)。

 ネトウヨ脳の安倍首相が「日本人は大丈夫なんだ」などとわめきたてている光景が思い浮かぶが、実際、安倍首相は積極的な感染防止対策を何ひとつ打たず、医療提供体制の強化も図らなかった。

 前述したように、スウェーデンが北欧で唯一、コロナ対策に失敗し、多数の死者を出している背景には、公衆衛生庁を主導する疫学者のアンデシュ・テグネル氏が集団免疫に肯定的だったことが大きく影響しているといわれるが、もしかして日本でも同じように、無為無策の政治家たちのうしろに集団免疫論者の存在があったということだろうか。

 しかし、安倍前首相や菅首相のケースをみていると、その行動はスウェーデン以下と言って言いだろう。なぜなら、日本の後手後手対応はもっと前から始まっており、安倍前首相や菅首相が集団免疫理論に飛びついているのは、自分たち失策を正当化するためでしかないからだ。

 だから、軌道修正を図っているスウェーデンとは対照的に、安倍前首相や菅首相はその後も無為無策を続け、いまも陰謀論や正常性バイアスに耽るネトウヨのように、「コロナはインフルエンザと同じ」「集団免疫を獲得すればコロナは収束できる」というトンデモ理論にはまり続けているのだ。

 この危機的な時代に日本はとんでもない最高権力者を選んでしまったというしかない。

最終更新:2021.01.20 09:49

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