安倍政権が京アニにだけ政府支援の一方で、やまゆり園や貧困者施設の火災は無視! 生産性で価値決める政権の体質

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首相官邸HPより


 発生から今日で2週間を迎えた、京都アニメーション放火殺人事件。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』、『Free!』などといった数々の人気作を世に発表してきたアニメーションスタジオが突如襲われ、35人もの命が奪われるというあまりに残忍なこの事件には、京アニ作品のファンをはじめ国内外の人びとが胸を痛め、寄せられた支援金は11億円を超えた。

 そんななか、7月29日に菅義偉官房長官は定例記者会見で、今回の京アニ放火殺人事件にこう言及した。

「死傷した従業員らへの補償や、経営再建について、よく事情を伺った上でしっかり関係省庁に対処させたい」

 この菅官房長官の発言は、7月26日に超党派の「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」の自民党・古屋圭司会長が菅官房長官に支援を要望しており、それを受けたもの。菅官房長官との面談で古屋会長は寄付金の課税優遇措置を提案し、記者団にも「有能な技術者、アニメーターが多く犠牲になり、一企業の問題を超越して漫画業界全体の危機だ。官邸主導で早急に支援策を詰めてほしい」と説明。今回、菅官房長官も「国内外から寄せられている義援金の受け入れに課題があると聞いており、経済産業省などを通じ、しっかりサポートしたい」と述べており、こうした面で支援策がとられるものとみられる。

 多大な犠牲が出た事件に対し、政府として支援策が講じられることは歓迎すべき動きであることは間違いない。しかし、違和感を持たざるを得ないのは、過去の事例とあまりに違いがあることだ。

 たとえば、2016年7月に起きた神奈川県相模原市の障がい者福祉施設「津久井やまゆり園」での入所者19人が殺害された事件だ。京アニの放火殺人事件で、安倍首相は火災当日の夕方にお見舞いツイートを投稿したが、このやまゆり事件ではそうしたツイートを一切しなかった。

そして、施設への支援についても運営主体である神奈川県に任せきりで、国を挙げた施策も打たず。厚労省は、有識者検討チームが再発防止策を提言する報告書をまとめたが、事件直後に安倍首相が措置入院のあり方の見直しを指示したことから再発防止策は精神科医療にかんするものが中心の不十分なもので、この事件がヘイトクライムであるという観点から求められていた差別を許さない社会づくりを強く推し進めることさえせず、最悪なことに、事件を肯定するかのような障がい者排除の言説さえネット上では広がってしまった。

さらに、言及しておかなくてはいけないのは、2015年に死者11人、負傷者17人を出した神奈川県川崎市の民間の簡易宿泊所で起こった火災だ。

 この簡易宿泊所ではベニヤの扉などといった燃えやすい素材が使用されていたことにくわえ、建築基準法に違反する建築物だったことも問題視されたが、注目を集めたのは、この簡易宿泊所の宿泊者の9割が生活保護を受けており、おもに低所得者の高齢者が利用していたこと。経済的にアパートなどを借りることができない高齢者が、防火対策も万全ではない簡易宿泊所を住まいとし、わずか3畳ほどで生活を余儀なくされていたのだ。しかも、〈受け入れのハードルが低い簡宿の存在は行政にとっても好都合で、生活困窮者の受け皿として積極的に活用〉していたという(神奈川新聞2019年4月17日付)。

 この火災事件によってあきらかになった、低所得者や高齢者の住まい問題。もちろん、この問題は国会でも取り上げられ、「地方自治体に任せるのではなく、国が責任をもって公的な住宅を増やしていく方向に転換をするべきだ」という意見が野党から出たが、しかし、政府が抜本的な対策を打ち出すことはなかった。

高齢者の簡易宿泊所火災では安倍政権が抜本的対策せず、さらなる犠牲者が

 そして、恐れていたことが起こってしまう。2017年5月に福岡県北九州市で事実上、簡易宿泊所の代わりとして運営されていたとみられるアパートが全焼し、日雇い労働者らが6人死亡。同年8月には秋田県横手市のアパートで火災が発生し、生活保護受給者らが5人死亡した。さらに、昨年にも、北海道札幌市にある生活困窮者の自立支援施設で火災があり11人が亡くなった。こちらも、おもに犠牲となったのは生活保護を受けている70〜80歳代の高齢者だったという。

 憲法25条には、《すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する》とある。最近では、山本太郎が党首をつとめる「れいわ新選組」が空き家や団地を活用した「初期費用なし・安い家賃」の公的住宅の拡充を、共産党も公営住宅の増設や家賃補助制度の創設を参院選公約に掲げたが、本来なら、2015年に11人が犠牲となった川崎市の火災を受けて、こうした政策を実行するべきだったし、その後も数々の死亡者を出す火災が相次いでいるというのに、安倍政権には根本的な対策に乗り出そうという素振りさえ見られない。

 いや、それどころか安倍政権は、2018年10月から生活保護受給額のうち食費や光熱費などを3年かけて国費ベースで年160億円もカットするなど、さらに困窮者の生活を追い込む政策を打ち出しているのが現状だ。

 京アニの放火殺人事件も、川崎をはじめ全国で多数の貧困者が犠牲となっている火災事故も、ともに比べることなどできない痛ましいものだ。にもかかわらず、かたや迅速な支援策が打ち出され、かたや対応もとらないまま犠牲者を出しつづけている──。これはいったいなぜなのか。

ひとつは、安倍政権が票になるかならないか、で支援を判断しているという可能性だ。秋葉原での街頭演説会やニコニコ動画との蜜月ぶり、党広告に人気キャラクターデザイナー・天野喜孝氏を起用したことなどからもわかるように、自民党はいま、若者やゲーム・アニメファンなどの取り込みを図っている。京アニへの迅速な支援表明は、安倍政権、自民党の支持拡大につなげようという意図があることは間違いない。

杉田水脈が口にした「生産性で人の価値を判断する」思想は安倍政権全体に

しかし、この背景にはもうひとつ、安倍政権のグロテスクな思想がある。昨年、安倍首相が寵愛する杉田水脈議員が性的マイノリティーを排除する「生産性」発言を口にして非難を浴びたが、これは決して、杉田議員だけの問題ではない。「生産性で価値を決める」という思想は安倍首相と政権全体を貫いているものだ。

 実際、安倍政権は大企業やベンチャービジネスに湯水のように補助金をつぎ込む一方で、障がい者や老人に対しては、冷酷としか言いようのない対応を取りつづけてきた。安倍政権が生産性があると判断したもの(プラス安倍首相のお友だち)を優先して保護し、支援する一方で、政権が生産性がないと判断したものには、保護や支援策は打たれない。

つまり、安倍政権が早々に京アニ支援策に乗り出したのも、この思想がベースにあると考えるべきだろう。アニメはビジネスとして金を生み、「クールジャパン」の代名詞として海外展開まで担う「生産性が高い」分野だから、支援を打ち出した。そして、障がい者が多数殺傷されたやまゆり園事件で、不安に怯える障がい者やその家族、支援者が数多くいるなかで、彼らを気遣ったり障がい者差別を批判するようなツイートも声明も出さなかったり、犠牲者が相次ぐ生活困窮者の住宅問題を放置しているのは、安倍政権がその犠牲者たちのことを「生産性がない」と判断しているからだろう。

 折しも、山本太郎率いるれいわ新選組が難病と重度の障がいを持つ議員を国会に送り込み、「生産性で価値を判断する」安倍政権の政策を変えようと奮闘中だが、この問題は彼らにだけ任せるべきものではない。

被害者の「生産性」によって、政府の対応が変わる──そんなことは絶対にあってはならないのだ。京都アニメーションへの支援を支持した上で、障がい者や生活困窮者などの弱者に対してこそ、国がきちんとサポートする体制づくりを強く求めていく必要があるだろう。

最終更新:2019.08.01 11:04

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