ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第13号

自分の権利のために声を上げることは、他の人の権利を守ることにつながる! とある新聞記者とパワハラ社長の戦い

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 とある業界紙を発行する従業員100名弱の新聞社が今回の舞台。この新聞社では、長年ワンマン社長による暴言や理不尽な業務命令が横行していた。

「君たちはゴミを作っている」「整理部の人間はバカだ。居る資格がない」などという人格否定の暴言は日常茶飯事。時には労働者のみぞおちを殴る暴行も。労働時間管理なし、三六協定(時間外・休日労働に関する労使協定)なし、残業代なしのブラック企業あるある3点セットのもと長時間労働が横行する職場で労働者は疲弊し切っていた。

 しかし、そんな横暴な社長に対し2人の記者が立ち上がった。1人は「言うことを聞かないから手当カット」と月10万円以上の給与減額を通告されたうえ、自宅待機を命じられた記者。もう1人も降格・給与減額のうえに解雇を予告された記者。2人は新聞業界では強い影響力を持つ新聞通信合同ユニオン(1人でも入れる社外の労働組合)の門を叩いた。2人はユニオンに加盟して職場内に支部をつくった。

 組合は未払い残業代の支払い、賃金減額・自宅待機の撤回、パワハラの防止など、団体交渉で労働条件の改善を求めた。組合の粘り強い交渉の結果、会社の顧問弁護士による社長への説得もあり、賃金減額と自宅待機は撤回されることとなった。また、社長のパワハラも一時的に鳴りを潜めた。

 ただ、未払い残業代について会社は「職責手当で残業代は賄われている」との主張を崩さず、支払いに応じなかった。この会社の主張は、いわゆる「固定残業代制」というもので、残業代不払いのブラック企業が用いる典型的な言い分であるが、そのほとんどは違法だ。

 そこで組合から依頼を受け、私が代理人となって2人分の未払残業代を求める裁判を2016年11月に起こした。

 裁判では、PCのログイン・ログアウトの履歴、日記、会議のメモ、休日出勤届けなどの膨大な証拠で残業の実態を明らかにした。裁判記録は20センチ近い厚さとなった。

裁判で職場環境改善を求められた社長が「お前がいると全員失業者になる」「バカ」と暴言連発

 双方の言い分が出尽くすと、客観的な残業の証拠が残っていることを踏まえ、裁判官は会社に対し一定の金銭の支払いによる解決を促した。

 しかし、会社は今度は財務資料を出してきて、経営状態が悪いとして出し渋る戦略に出た。経営状態が良かろうが悪かろうが法律上払うべきものは払わなければならないのであるが、裁判官はこちらに譲歩を求めてきた。裁判官は会社から「経営状態」を言われると結構弱い、という面が実はあるのだ。

 組合は、それならば、と金額で一定譲歩するかわりに、今後の職場環境改善につながる和解条項として次の8項目を提示した。

1、今後タイムカード等を導入し全従業員について労働時間を適切に管理すること。
2、民主的に選出された従業員代表との間ですみやかに三六協定を締結すること。
3、課長代理および課長職など労働基準法上の管理監督者に該当しない者に対して労働基準法に基づき時間外労働に対する残業代を適切に支払うこと。
4、休日出勤について労働基準法に基づく割増残業代を支払うこと。
5、有給取得を理由として精皆勤手当をカットしないこと。
6、就業規則を速やかに整備すること。
7、原告に対し、会議に参加させない、一時金を支給しない等の差別的取り扱いをしないこと。
8、社内におけるパワハラ行為が一掃されるよう、適切な対策を取ること。

 これらは残業代請求とは直接関係のない項目も含まれていたが、和解なのだから当事者がOKならばどんな和解でもできる。団体交渉で進展しない項目については裁判所の和解条項で解決しようという戦略だった。

 しかし、裁判期日後に代理人を通じてこれらの要求を知らされた社長は怒りを爆発。原告の2人に対して、「お前がいると全員失業者になる」などと暴言を社内で連発。別の日には他の社員に向けて、「世界バカ大会。正真正銘のバカ」と誹謗する始末であった。

ついにパワハラ社長を撃退! 全従業員の労働環境を改善することにも成功



 組合は、こうした社長のパワハラ・暴言はきっちりと記録。組合名で抗議文を直ちに出すとともに裁判官にも伝えたところ、裁判官は期日に社長を出頭させたうえで、こうした発言をやめるよう説教をし、裁判所案として会社に以下の和解案を検討するよう伝えた。

1、被告は、原告らに対し解決金を支払う。
2、被告は、適正な手続きに則り従業員代表を選出し、三六協定を締結することを確約する。
3、被告は、原告ら及びその他従業員が法定労働時間を越えた時間外労働をした場合には、同時間外労働に対して労働基準法に基づく割増賃金を支払う。
4、被告は、原告ら及びその他従業員が休日出勤をした場合には、同休日出勤に対して労働基準法に基づく割増賃金を支払う。
5、被告は今後暴言等のパワーハラスメントととらえられる言動をしないことを確約する。

 代理人間で和解に向けた最終調整が進められていた17年12月、会社は突如、社長の退任を発表。社長の長男が代表取締役社長に就任した。予期せぬ突然の発表に一同仰天した。社長の退任は「健康上の理由」とされていたものの、原告と組合がパワハラや違法行為を徹底的に追及した上に、裁判官からも説教されたことが、社長に退任を決意させる大きな契機となったことは間違いないだろう。

 結局、新社長のもと、上記の5項目での和解が成立した。パワハラ社長はいなくなり、従業員は長年の抑圧体制から解放され、新体制での業務が始まった。

 本件は、原告2人の残業代請求訴訟ではあったが、組合とタッグを組んで団体交渉と訴訟を並行して行うことで、結果的にパワハラ社長を追い出した上に、会社に対し全従業員に対する労務管理のあり方を根本的に是正させる和解を勝ち取ることができた。

「仲間と声を上げることで変えられる」「自分が自分の権利のために声を上げることは、他の人の権利を守ることにつながる」ということを示す一例として、多くの人に知ってほしいと思った次第である。

【関連条文】
三六協定 労働基準法36条
残業代 労働基準法37条

(今泉義竜/東京法律事務所 https://www.tokyolaw.gr.jp

********************

ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2018.07.03 11:07

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