井ノ原・有働がきょう降板『あさイチ』が最後に踏み込んだ沖縄の基地問題! 沖縄の母親たちに寄り添う番組を放送

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『あさイチ』(NHK)番組HPより

 本日30日をもって『あさイチ』(NHK)から井ノ原快彦と有働由美子アナの2人のMCが同時に降板する。2人の降板が明らかになって以降、それを惜しむ声が相次いでいる。それは2人の誠実で明るい司会ぶりが支持されてきたというだけではない。

 2人が司会する『あさイチ』が、ほとんどのテレビが取り上げることにない原発や戦争、米軍基地問題、夫婦別姓、セクハラなどの問題に取り組み、間違っていることに対しては、イノッチや有働アナが臆することなく、きちんと疑問の声を上げてきたからだ。

 実は、降板を直前に控えた28日にも、『あさイチ』は「沖縄 母親たちが見た基地」という特集企画で、沖縄の米軍基地問題に真っ向から取り組んでいた。

 今回、取り上げたのは、米軍ヘリCH53Eの装置カバーが屋根を直撃した普天間基地近くの緑ケ丘保育園の園児の母親たちの生の声だった。

 この事故が起きたのは昨年12月7日のこと。ドーンという衝撃音に驚いた保育園の関係者が確認したところ、円筒形のプラスチックを発見。園側はすぐに通報して、警察でも現場検証が行われた。ところが、この事実が明らかになると、なんと、被害者である保育園に「自作自演だろう」「嘘をつくな」という誹謗中傷の電話やメールが殺到したのだ。

 言っておくが、部品がCH53Eのものであることは米軍も認めており(飛行中落下は否定)、園近くの「騒音測定局」で2度の衝撃音が記録され、静止画カメラにもCH53Eの機体が映っていた。また、事故直後の12月13日にも普天間基地近くの小学校のグラウンドに同じCH53Eのコックピットの窓枠が落ちている。にもかかわらず、安倍応援団やネトウヨは被害者の保育園を攻撃したのだ。

 沖縄が日本という国家からそれこそ二重、三重に疎外されていることを物語る事件だが、ほとんどのテレビは安倍応援団やネトウヨの攻撃を恐れて、この問題を報道しようとしなかった。

 そんななか、『あさイチ』は今回、被害者である緑ケ丘保育園の取材を行い、基地と隣接する保育園の立地や落下の状況、保育園に浴びせられた卑劣な誹謗中傷、そしてこの1年に相次いだ沖縄の米軍事故の実態を報道。事件究明と保育園上空の飛行禁止を求めて嘆願書をつくり署名活動を行っている、保育園園児の母親たちの姿を追ったのだ。

『あさイチ』が伝えた部品直撃の保育園園児の母親たちの思い

 番組では緑ケ丘保育園に子どもを通わせている保護者の一人である与那城千恵美さんに焦点を当て取材を行っていたが、そこから浮かび上がってきたのは被害者であるはずの“母親たち”を取り巻く複雑な状況だった。

 普天間基地近くの自宅で夫と2人の子どもと暮らしている与那城さんは、落下事件の後、他の保護者とともに飛行禁止などを求める署名活動を行ったが、しかしその活動によって感じたのは、地元沖縄での“温度差”だったという。

 事件について地元の人たちから出てきた言葉は“あきらめ”だったからだ。もちろん活動を応援する人も多かったというが、一方で、「こんだけ騒いでも変わらん」「何があっても変わらないし、『ああやっぱりな』というあきらめみたいなところもある」という声もあったのだ。

 しかし、それは以前の与那城さんも同様だったという。与那城さんは普天間基地に近い自宅で生まれ育ち、ヘリの窓枠が落下した小学校に通っていた。つまり生まれたときから基地が“そこにあった”。その環境と心情についてこう語っている。

「(生まれたときから基地はあったから)自分で押し殺そうと思っているわけではなくて、(基地の存在が)気にならなくなる。無意識に。こんな日常化してしまうと」

 しかも与那城さんの父親は長年基地内のレストランで働き、家族4人を養ってきた。

「父が働いているし、反対とかそういう意識もないし生活に密着している。生活の一部が基地」

 さらに2012年、オスプレイが配備されることになり、県内で反対の大規模集会も行われるなか、米軍はそうした声を無視するように配備した。そのことも与那城さんから逆に“基地”を遠ざけたという。

「ショックとあきらめ。何を言っても沖縄って変わらないんだ。何も受け入れてもらえない」

 こうして基地に対する疑問の声を押し殺していた与那城さんだったが、しかしそこで起きたのが保育園への落下事故だった。与那城さんはそれを“魔法が解けた”と表現している。いままで危険を気づかないよう“魔法”がかかっていたが、当事者となったことで魔法が解けた。気づいたらすごい危険な状態、場所に住んでいた、と。そして、与那城さんたちは落下事件を機に声をあげ、行動に移した。署名活動を開始し、集めた署名はなんと12万6000人にものぼった。

 ただ、そんな母親たちを待っていたのは、政府のなんとも冷たい反応だった。署名を持って今年2月に保護者の代表が上京。事件の真相解明と保育園上空の飛行停止を求めたが、要望した担当大臣の面会はかなわず、対応した各省の担当者からは「引き続き米軍に強く申し入れる」「官邸に伝える」「米軍からの答えを待つ」と繰り返すだけ。そして落下事故の真相もわからないまま、今月にも部品落下の事故が起こっていたことが発覚しているのだ。

井ノ原「アメリカは冷たい」柳澤「沖縄と福島の現実が重なって見える」

 そして、この日の『あさイチ』は、VTRでこうした現実を伝えただけではなかった。スタジオでも、沖縄の人たちが抱える苦しみを共有しようという声が相次いだ。

 まず、コメンテーターの室井佑月氏が「日本全体で考える問題」「せめて米軍がどうしても必要なら国が丁寧な説明をしてほしい」と怒りの声を上げると、井ノ原が「本当によく頑張った、12万件。だって自分たちだってやりたいこと、いっぱいあるのにさ」と、母親たちにエールを送ったあと、こう熱く語った。

「いますぐには(基地を全部)なくしてくれって無理な話かもしれないですが、でも徐々にって考えたときに、こういう声が上がっているっていうのを、アメリカ側もちゃんと理解して、そこにいるんだから、もちつもたれるでやらないといけないのに、なんか冷たいような気がするじゃないですか」
「こんな思いをしている人がいる。それをもしかしたら知らないかもしれない。知ったら本当にちゃんとしようって思う人がいるかもしれないし。落下だけは避けようとか。せめてそれだけは伝わってほしいですよね」

 番組コメンテーターである柳澤秀夫解説委員は、さらにこんな踏み込んだ発言もしていた。

「沖縄に在日アメリカ軍基地施設の70%が集中しているってことで、向こうに全部押し付けちゃっているんだって。そこにどうやってイマジネーションを働かせて想像できるかっていうことだと思うんだよね」
「見ているとね。よく福島の原発事故の現実と沖縄の現実と、ぼく重なって見えることがあるんだよね。自分も問題として考えたときに自分はどういうふうにすればいいのか、何を言えばいいのかって非常に似ているような気がするんだよね。本当に東京の真ん中に基地ができるかどうかっていう話を考えてみたらどうか、原発を置いてみたらどうかっていう話と共通するような」

 また、視聴者の声として「これだけ危険なのだから、一刻も早い辺野古移転が必要では」「番組では米軍は危ないという意見ばかり、では米軍は不要ということ?」という、番組内容を曲解、揚げ足をとるような意見が紹介されると、井ノ原は語気を強めてこう断言した。

「そういう話はしていない。今日はお母さんたちの気持ちで、そこだけに焦点を当てて話しているので」

井ノ原と対照的に自分の意見を口にしなかった有働由美子、NHKでなにが?

 すべて当たり前の主張だが、しかし、“安倍サマのNHK”といわれる状況下でここまできちんと米軍基地に苦しむ沖縄の人たちの声を取り上げ、基地問題の本質に踏み込むコメントをするというのは、相当に勇気が必要だろう。

 しかも、これは降板が決まったから、最後っ屁としてやったというような話ではない。『あさイチ』では、前述したようにこれまで、原発や戦争などともに何度も沖縄米軍基地問題を取り上げ、一貫して「沖縄の痛みを共有すべき」という姿勢をつらぬいてきた。

ただ、一方でこうした姿勢がNHK上層部の反感を買い、今回のMC交代という事態に発展した可能性は高い。NHK内部では、今回の二人の降板について、まず、有働アナが異動を命じられ、有働さんが降りるなら、と井ノ原も降板を申し出たという情報が流れている。

 実際、この28日の放送では、井ノ原、柳澤と対照的に、有働は一言も自分の意見を口にしなかった。これはいったい何を意味しているのだろう。

 井ノ原・有働の後任はお笑いコンビの博多華丸・大吉と、近江友里恵アナが就任するが、『あさイチ』という番組がこれまでつらぬいてきた姿勢を今後も続けていける可能性は残念ながら、極めて低いと言わざるを得ない。

最終更新:2018.03.30 06:04

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