桂春蝶は本業の落語でも特攻美化の創作落語を上演! 一方、二代目林家三平は対照的な戦争へのアプローチ

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左・ネトウヨ発言を連発している桂春蝶(フジテレビ『バイキング』3月1日放送回より)/右・あえて国策落語も披露している林家三平(彩流社『林家三平のみんなが元気になる英語落語入門』より)


 落語家・三代目桂春蝶による〈この国での貧困は絶対的に「自分のせい」〉というツイートが大炎上した問題。本サイトは、3月1日放送『バイキング』(フジテレビ)でそのツイートを正当化するために出演したにもかかわらず、坂上忍、フットボールアワー後藤輝基、岩尾望からコテンパンに批判されたことをお伝えした。

 この『バイキング』での一連の釈明のなかで春蝶は、唐突に、これまでのキャリアのなかで戦争をテーマにした創作落語をつくってきたという話をし始めた。その噺をつくる過程で、ひめゆり学徒隊や従軍看護師だった人たちに取材を行い、そのなかで「私はいまの国というのは幸せなほうなのではないのかなと。日本人に生まれただけでひとつ幸運なのではないかな」と感じたと語っている。

 実際、春蝶は戦争に材をとった創作落語を高座に上げている。それが、鹿児島県知覧基地から飛び立った特攻隊員を描いた『明日ある君へ~知覧特攻物語~』だ。

 この噺は、死期が迫りつつある病床の祖父を看病しながら眠り込んだ若者が目を覚ますと、なぜか戦中の日本にタイムスリップしていて飛行場に立っており、そこで当時の兵隊らとの交流が始まる、というもの。この時点で、百田尚樹の『永遠の0』を思い出させるが、スタンスもそっくりだ。

 たとえば、春蝶はこの落語のなかで、特攻隊員にこんなセリフを語らせているのだという。

「これ以上犠牲を出さぬため、われわれが全員死ぬ以外、日本が救われる方法はない。それがおれたち隊員が考える『守るべきものを守る』ということ」(「産経WEST」2015年8月12日より)。

 何だろう、このイデオロギー臭がプンプンするリアリティのないセリフは。春蝶がこの創作落語をつくったきっかけは、知覧特攻平和会館で特攻隊員の遺書を見たことらしいが、あの遺書のどこをどう解釈すれば、こんな安いアニメみたいなセリフが出てくるのか。表向き「戦争の悲劇」を語り継ぐようなポーズをとってはいるが、「特攻」や戦争を美化し、国のために国民が命をなげうつことを称揚しようという意図があるとしか思えない。

 このように、本業の落語、戦争に対するアプローチでもネトウヨ的な浅さをさらけ出している桂春蝶だが、一方で、同じ戦争を扱いながら春蝶と真逆のアプローチをしている噺家がいる。それは、二代目林家三平(林家いっ平)である。

 二代目林家三平といえば、祖父は七代目林家正蔵、父は初代林家三平、兄は九代目林家正蔵(林家こぶ平)という落語一家の一員として知られるが、そんな二代目林家三平は、敢えて「国策落語」を現代に蘇らせる活動を行っている。

二代目林家三平はあえて戦時中の「国策落語」を再演!

「国策落語」とは、戦時下に落語界が「戦意高揚」のためにつくった新作落語群のこと。その内容は、軍隊賛美や貯蓄、債券購入、献金奨励などを入れ込んだ、まるでプロパガンダのようなもので、とても「笑い」に昇華されたものではなかった。本サイトでは以前にも、桂歌丸による「つまんなかったでしょうね」「お国のためになるような話ばっかりしなきゃなんないでしょ。落語だか修身だかわかんなくなっちゃう」というコメントとともに、「国策落語」について紹介した記事を配信している(リンク)。

 しかし、わざわざ「国策落語」と銘打っていることからもあきらかにように、二代目林家三平は国策落語を上演することで、当時の戦意称揚という目的を再現しようとしているわけではない。その逆だ。戦争礼賛というイデオロギーが無理やり注入された落語のつまらなさ、リアリティのなさをそのまま現代に蘇らせることで、「戦争」の本質を考えようとしているのだ。

 たとえば、三平が板に乗せているのは祖父・七代目林家正蔵がつくった国策落語「出征祝」。ケチで有名な大商店の若旦那に召集令状が届いたときの話だが、その中身は到底、「落語」とは思えないものだ。

 お祝いのためお頭付きの鯛が出てくると思ったら、イワシの目刺ししか出てこなかったことで、一悶着起きるのだが、いつのまにか、ケチがいかにお国に貢献できるかという“感動話”に。帰ってきた若旦那の父親も息子の出征を「私も日本男児だ。天子さまの子だ。私の倅がお国のために役に立つってんだったら、私は喜んで倅を差し出しますよ」と手放しで喜んだ上、「けちん坊が役に立って国防献金ができる」などというセリフまで口にする。

 そして、「一升瓶を二本買ってきた。こら、若旦那さま、縁起がいいな」「若旦那、縁起がいい?」「あぁ、そうだ。一升瓶を二本だろう。二本買った。日本勝った」というサゲで締められるものだ。

 この「出征祝」について、林家三平は2016年3月1日の「BuzzFeed Japan News」で「どんな古典落語より難しいですね」と語ったうえで、通常の古典落語との違いをこのように説明している。

「落語ってケチなら笑えるくらいケチだし、登場人物が基本的に失敗するんですよね。そこに人間の業だとか、生きていく上で大事な教えが詰まっている。でも、この話は落語的な価値観で描かれる登場人物が出てくるんだけど、ケチは美徳として描かれる。いびつな構成になっています」

 また、三平は同じく「BuzzFeed Japan News」で、2015年の安保法制国会前デモにも触れながら、国策落語をあえて復活させた動機をこう語っている。

「そのなかで、経験談を語り継ぐだけでいいのでしょうか。体験していない人が語っても力は弱くなります。ならば、思いっきり戦争を賛美する落語という真逆のアプローチで、逆に戦争というものを考えるフィールドを作れるのではと思ったのです」
「先の戦争をどう考えるのか。若旦那は18歳から20歳だと思って、演じています。今なら選挙権を持つ世代ですよね。そんな若旦那が遺言を残した時代です。国のために戦争に行くのは嫌でも、家や会社、周囲の人が『非国民』と言われるのが嫌で行ったかもしれない。戦争に負けたという事実をどう捉えますか。いまの時代は平和でものも自由に言える。これからの社会を考えたいと思う人たちの前で、国策落語はまだまだやってみたいと思っています」

「昭和の爆笑王」初代林家三平は「肉弾特攻」の訓練を受けていた

 こうした林家三平の戦争への視点には、先代の三平の戦争体験も影響しているのかもしれない。

 9歳のときに父と死別しているため、先代の三平から直接戦争の話を聞いたことはほとんどないそうだが、実は、初代林家三平は本土決戦部隊として徴兵され、千葉の九十九里浜に配属された過去をもっている。アメリカ軍が上陸した際、爆弾を抱えて戦車に突撃していく「肉弾特攻」のための兵士として訓練を受けていたのだ。もしも戦争が長期化していたら、この戦いで犠牲となっていたかもしれない。

 初代林家三平の本名は海老名栄三郎というが、彼は戦後に「栄三郎」から「泰一郎」に改名している。二代目林家三平は2015年9月に放送された『昭和の爆笑王林家三平 いま明かされる戦争秘話』(BS朝日)の取材で九十九里浜を訪れ、彼自身もかつて父が行っていたように、砂浜掘った穴に籠って波の音しか聞こえない真っ暗な闇に耐える訓練を行ったという。そこで彼は、父が復員後に名前を変えた理由を悟った。「週刊現代」(講談社)17年1月14日・21日合併号ではこのように語っている。

「波の音しか聞こえない真っ暗闇の中、死の恐怖にじっと耐える父の体験を追想してみました。そこでわかったのは、海老名栄三郎という男は一度死んだということ。復員後、父は名前を栄三郎から泰一郎に改めていますが、この体験と無縁ではなかったと思います」

 そして、このときの体験と「心の戦死」は、後に「昭和の爆笑王」として名を馳せる父の破天荒な芸風をかたちづくったのではないかと語っている。

「戦後の日本で、生まれ変わった自分がどう生きるか。その答えとして、世の中は古典落語だけでなく弾けた笑いを求めていると父は考え、そこに突出させた芸に突き進もうと舵を切ったのだと思います」(前掲「週刊現代」より)

 いずれにしても、こうした三平の言葉を聞けば聞くほど、桂春蝶との差が浮き彫りになってくる。

 国策落語の戦意高揚とリアリティのなさをあえて前面に出すことで、逆説的に戦争のリアリティに迫ろうとしている二代目林家三平。リアリティのない特攻英雄譚をつくりだして「特攻隊員の精神は崇高なもの」などと語っている三代目桂春蝶。いったいどちらが戦争というものを深く考えているのか、答えは明らかだろう。

最終更新:2018.03.06 09:32

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