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「WELQ」のことはいえない? 不当表示“水素水”に群がった大企業とブームを煽った「週刊文春」の責任
「週刊文春」2016年8月11日・18日合併号
お肌ツヤツヤ、血液サラサラ、さらにダイエットから認知症予防まで、美容・健康に様々な効能が謳われている水素水だが、はたして、その実態はただの「水分補給」だったらしい。
去る12月15日、国民生活センターが、「容器入り及び生成器で作る、飲む『水素水』-『水素水』には公的な定義等はなく、溶存水素濃度は様々です-」と題した文書を発表。売れ筋の容器入り飲用水素水と、水素水生成器あわせて19銘柄についての調査結果とともに、事業者へのアンケートを公表したのだが、その内容はまさに愕然とするものだった。
同文書よれば、容器入りの水素水10銘柄のうち、7銘柄のパッケージに「高濃度」や「水素たっぷり」などの表示があった。だが、それらの溶存水素濃度を2種の測定法で調査したところ、測定値が商品表示の範疇であったのはわずか4銘柄(うち、1銘柄はかろうじて1種の測定法で表示範疇を示した)という結果になった。とりわけ、容器がペットボトルの2銘柄については、どちらの測定方法でも溶存水素が検出されなかったという。
水素水生成器9銘柄については、取扱説明書等に溶存水素濃度の表示のあった5銘柄のうち3銘柄の測定値が表示を下回った。また、全9銘柄はいずれも、生成後の水素水をコップに移し替えると、1時間で溶存水素濃度が約50~60%に低下した。
ようするに、国民生活センターが調査した水素水及び生成器の半分以上が、表記を下回る水素濃度だったというのだ。
さらに驚くべきは、事業者へのアンケート結果だ。水素水飲用の効果を尋ねて回答の得られた15社のうち、「期待できる効果」として最も多かったのが「水分補給」(11社)だったのである。なお、「ダイエット」「疲労回復」「美容」「アンチエイジング」と回答した業者はいずれも1〜2社にとどまった。
いうまでもなく、水素水の効果がただの「水分補給」であるならば、水道水を飲めば十分である。国民生活センターはすでにこれらの業者に、パッケージや広告で謳われている健康効果が景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)などに抵触する恐れがあるとして改善を要望したというが、それも当然だろう。
だとすると気になるのは、これまで水素水の健康・美容効果を散々あおって、ブームまで引き起こしたメディアの責任だ。
そもそも水素水は、2007年に太田成男日本医科大学教授(細胞生物学)の研究チームが世界的権威を持つ医学誌「Nature Medicine」に動物実験による水素の効果を実証した論文を発表、これに企業が飛びつき、2015年から16年にかけて大ブームとなった。巷は“水素関連商品”であふれかえったが、とりわけ2011年から太田教授と二人三脚でその効能を喧伝してきたのが、昨今“文春砲”などともてはやされる「週刊文春」(文藝春秋)だった。
「文春」は普段、あやしげな健康食品や健康商法を批判し、ぶっ叩いているのに、なぜか水素水については逆に大礼賛の立場をとっていた。つまり、大ブームの火付け役の一端を担ったといっても過言ではなく、他メディアとの“水素水論争”でも全面擁護の論陣を張っていたのだ。
たとえば今年5月には、産経新聞がウェブ版「産経ニュース」16日付で「美容、ダイエットと何かと話題の『水素水』 実はかつてブームを巻き起こした『あの水』と同じだった…」と題した記事を公開。「今話題の水素水の多くは、電解還元水のことで、かつてアルカリイオン水と呼ばれたもの」(石川幹人・明治大学教授)、「水素には何かの効果があるかもしれない。しかし、市販の水素水に効果があるかと言われれば、ゼロだろう」(唐木英明・東京大学名誉教授)との指摘を紹介している。
また、東京新聞も5月31日付で「健康効果実証されず 医薬品でもトクホでもなく…」という記事を掲載。水素水ブームに警鐘を鳴らす左巻健男・法政大学教授が、「そもそも水素は大腸でも発生し、おならの10~20%を占め、外に出ないで体内にも吸収される。これは水素水から摂取する量よりはるかに多い」と指摘した。
すると「文春」は、こうした批判に猛反論。6月9日号で医学的効果の提唱者である太田教授を登場させ、「水素水『効果ゼロ』報道に異議あり」と展開したのだ。
記事では、産経ニュースが主張する「水素水はアルカリイオン水と同じもの」という点について、太田教授に「アルカリイオン水は水素が溶けているとしても量が少ない」「(市販の水素水とは)まったく別物」と反論させたうえで、複数の臨床試験が行われていると紹介。さらに、研究者や医療関係者、そして水素水愛飲者らのコメントのかたちで、認知症や糖尿病の予防改善、メタボ対策、勃起不全の治療、また、アンチエイジングや疲労回復にも効果があるとその効用を強調した。
しかし、毎日新聞6月23日付によれば「現在、効果が研究されているのは分子状の水素」であり、「医薬品の臨床試験のように、被験者に内容を知らせず、水素水と偽の水素水を飲ませて効果を比べる信頼性の高い無作為比較試験を行ったものは約10本と少なく、試験での症例数も少ない」。仮に水素自体になんらかの医療的効果があるとしても、健康商品として売り出されている「水素水」とはまた別の話なのだ。実際、現段階で、科学的な証拠を基になんらかの健康効果を表示できる特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として許可された水素水は存在しない。
さらに、水素水の効能を否定する公的な報告も出ている。厚労省所管の独立行政法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」は6月、水素水に関してこのように記載した。
〈俗に、「活性酸素を除去する」「がんを予防する」「ダイエット効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない。現時点における水素水のヒトにおける有効性や安全性の検討は、ほとんどが疾病を有する患者を対象に実施された予備的研究であり、それらの研究結果は、健康な人が市販の多様な水素水の製品を摂取した時の有効性を示す根拠になるとはいえない〉
そして、前出した国民生活センターのアンケートでも明らかになったように、水素水事業者ら自身がその効果について“後ろめたさ”を感じている。実際、「Wedge」6月号に寄稿された医師・ジャーナリストの村中璃子氏による取材記事では、業者側のこんな赤裸々な証言が掲載されている。
「水素水はあくまでも清涼飲料水。体に良いとは言っていません」(伊藤園広報担当)
「ええ、(水素水生成器で)できあがった水素水はアルカリイオン水と同じですよ」(パナソニックマーケティング担当者)
だが、太田教授と「文春」はこうした反論に対して“市販の水素水は濃度の低いインチキ商品なだけで、基準を満たせば効能はある”と主張してはばからなかった。とりわけ「文春」は8月11日・18日合併号でも「水素水論争に最終結論 測って判った『ホンモノ』」なる記事で、各種水素水や生成器の水素濃度を測定する誌上実験まで行っている。
しかし、繰り返すが、問題は水素自体の濃度がどうかということでなく、水素水をはじめとする各種商品(水素タブレット、水素風呂、水素ヘアトリートメント……etc.)が謳う美容健康効果がはたして本当なのか、という話だ。仮になんらかの効果があったとしても、「お肌がピチピチに」とか「毎日快便」とか「アトピーが治る」とか「朝立ちした!」とか、まるで“完全無欠の魔法の水”のような謳い文句は問題だろう。
ちなみに太田教授は「今後の目標は、インチキ商品を排除した上で、10年以内に水素水市場を1兆円規模に拡大させることです」(「週刊新潮」7月28日号/新潮社)と意気込んでいるが、しかし、太田教授の次男・太田史暁氏が取締役を務める「水素健康医学ラボ株式会社」は水素入り化粧品「Auter」を展開していることも注視すべきだろう。この化粧品について。「産経ニュース」5月24日付の太田教授による反論記事でも「安全・安心な水素発生素材として唯一化粧品素材として承認・登録された素材を使っており」と宣伝していた。
実際、「Auter」ホームページでは「世界初『水素化Mg』配合」をウリとする化粧水をはじめ、保湿クリームやバスパウダーなどを販売している。また同HPのブログを読むと、水素の効能を謳うエントリーがてんこ盛りだ。とりあえずタイトルを紹介するとこんな感じである。
〈春のイライラ・モヤモヤを水素で解消! 気分すっきり新生活〉
〈食欲の秋に欠かせない!? 水素水とダイエットの美味しい関係〉
〈水素水で新しいUVケアをはじめよう!〉
〈加齢臭も活性酸素が影響していた!?〉
〈お客様から教えて頂きました!水素水で口内ケア?〉
……いや、これ完全に“魔法の水”だろう。「文春」はこうした事実をどう考えているのか。
そういえば、最近、キュレーションサイト「WELQ」が“インチキ医療情報”をバラまいていたとして話題になり「文春」も12月15日号のワイド記事でとりあげているのだが、そのなかでライターの朽木誠一氏の指摘として「インチキ医療情報の見破り方」のひとつをこう指南していた。
〈健康食品の販売サイトに繋がるような、営利目的の医療情報は避ける〉
さていかに。いずれにせよ、今後の“水素水”界隈と「文春」がどう出るか、ウォッチし続ける必要があるだろう。
(都築光太郎)
最終更新:2017.11.12 01:44
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