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辺野古訴訟の県敗訴は最高裁と政府の癒着だ! 原発再稼働でも政府を追従し続ける司法の内幕を元裁判官が暴露
『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社)
沖縄の辺野古沖埋め立て承認取り消しをめぐり、国が翁長雄志知事を訴えていた上告審で、昨日12日、最高裁判所は高裁判決の結論を変更する際に必要な弁論を開かず、判決期日を指定した。つまり、今月20日の最高裁判決を前に、沖縄県の敗訴が決定したということだ。
これまで辺野古移転反対、米軍基地反対を訴え続けてきた沖縄県の民意が、最高裁によって踏みにじられる──。これで普天間飛行場の移転先となる辺野古埋め立てはもちろん、さらに米軍キャンプ・シュワブでの陸上工事や高江ヘリパット工事の動きも一層加速することは間違いない。
だが、今回の最高裁の態度は、ある意味、予想どおりと言うべきだろう。これまでも公害などの行政訴訟において、多くの場合、最高裁判所は政府、行政寄りの判決を下してきた。
それは現在、全国各地で起こされている原発再稼働訴訟に関しても同様だ。高浜、大飯、美浜、玄海、浜岡、川内、大間、伊方、泊など全国各地で運転差し止めや、建築差し止め、廃炉、操業停止などを求める住民らによる訴訟が継続中だが、これらも決して楽観視できない状況だ。本サイトで何度も指摘しているが、こうした訴訟の裏では原発ムラや政府と癒着した裁判所の巻き返し、そして露骨な“原発推進人事”が横行しているからだ。
そんな事態を証明するかのような本がある。『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社)だ。本書は政府や原発ムラと最高裁判所の関係、そのための人事や政治介入などが赤裸々に描かれた小説なのだが、しかしこれは単なるフィクションではない。というのも著者は、1979年から31年間、裁判官を勤めた元判事の瀬木比呂志氏。『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(ともに講談社)などで、これまで一貫して裁判所と裁判官の腐敗を告発し続けてきた人物なのだ。つまり、本書は裁判所を知りつくした人物による、ある種の“告発の書”であり、事実、随所にフィクションとは思えないエピソードが散りばめられている。
その最たるものが、“最高裁判所による原発訴訟の封じ込め作戦”だ。
小説では、福島原発事故が起こる以前の80年代後半、ある原発が稼働停止に追い込まれる。この原発では、大津波により非常用電源が喪失されるというシミュレーション結果が出されていた。にもかかわらず、電力会社がこの事実を握りつぶしていたことが発覚。また、制御棒6本が脱落し臨界状態が8時間も続くという重大事故の隠蔽なども明らかになったことで、稼働停止を余儀なくされていた。
一方、こうした事態に電力会社は再稼働へ向け躍起になるが、しかし住民による原発再稼働差し止め訴訟が起こされ、その結果、地裁は再稼働差し止めの仮処分を決定する。時代は違うが、福島原発事故後の原発停止、そして再稼働の動きや、数々の住民訴訟を彷彿とさせるものだ。
だが、これに危機感をもったのが最高裁判所だった。
登場人物のひとり、最高裁判所長官の須田謙造は、この判決に大きな不満と不安を感じ、強権を発動していく。差し止め決定を出した支部長を本来の異動時期ではないにもかかわらず、近くの高裁所在地の家裁に異動させたのだ。しかも、須田が行った報復人事はそれだけではなかった。
〈須田は、念のため、全国の原発訴訟係属裁判所について、再度人事局に担当裁判長についてのチェックをさせ、また、民事局や行政局にも調査をさせ、原発訴訟で原告側に有利な心証を表に出したことがある者や、過去に行政訴訟や国家賠償請求訴訟で目立った原告側請求容認判決を出している者については、四月に、目立たない形で、つまり、いわゆる左遷人事ではない形で、異動させていた(略)。早急に仮処分を取り消させるために、先の支部長、またこの四月が異動時期であった右陪審の後任には、事務総局経験者の中なら、取り消し決定を出すことに絶対間違いのない者を選んで送り込んだ〉
〈いかなる批判を浴びようとも、ともかく原発稼働差し止めの仮処分だけは早急確実に取り消しておく必要がある〉(同書より)
つまり最高裁長官は、原発稼働のために、裁判官たちの思想や過去の判決を調査し、権力に都合の悪い判決を出した裁判官を密かに左遷し、意のままになる裁判官を送り込もうとしたのだ。
繰り返すが、これはフィクションではない。こうした報復人事は、現実世界の裁判所でも実際に起こっている。それが大飯、高浜両原発をめぐる一連の再稼働訴訟に関するものだ。
2014年5月、福井地裁において大飯再稼働を認めないよう命じる仮処分が出された。この判決を出したのは同地裁の樋口英明裁判長(当時)。樋口裁判長はその後、高浜原発差し止め仮処分も担当することになるが、一方、裁判所は15年4月1日付で樋口裁判長を名古屋家裁に異動させる決定を行う。
裁判所は、住民側の訴えを聞き入れた樋口裁判長に、原発裁判にかかわらせないような人事を発令したのだ。
しかし、樋口裁判長は、高浜原発の差し止め仮処分申請について裁判所法28条に基づく「職務代行辞令」を利用して、名古屋地裁への異動後も引き続き審議を担当。結果、再稼働を差し止める仮処分を決定している。
問題は、樋口裁判長に代わって最高裁が福井地裁に送り込んだ林潤裁判長の存在だ。林裁判長は1997年の最初の赴任地が東京地裁で、2年後に最高裁判所事務総局民事局に異動。その後も東京、大阪、福岡と都市圏の高裁と地裁の裁判官を歴任しているスーパーエリート裁判官。司法関係者の間でも、将来を約束され最高裁長官まで狙えると言われている人物である。
これはもちろん、最高裁の“意思”を忖度することを見込んでの人事だった。目論見通り、林裁判長は15年12月24日、高浜原発再稼働を容認する仮処分決定の取り消しを行った。このとき、林裁判長の左右陪席の2人の裁判官もまた最高裁判所事務局での勤務経験があるエリート裁判官だった。
つまり、本書と同様に、政府や電力会社、そして最高裁判所にとって都合が悪い決定を下した裁判官を左遷し、代わりに最高裁がお墨付き与えたエリート裁判官たちを原発再稼働容認のために送り込んだのだ。
『黒い巨塔』で描かれているのは、こうした裁判所の“報復人事”だけではない。同書では、裁判所への政治介入と最高裁長官が示した原発稼働への意志がはっきりとえぐり出されている。
たとえば、こんな場面。報復人事を完了した須田だったが、与党の大物政治家に呼び出され、“総理の意志”として露骨な圧力をかけられる。
〈「御存知のとおり、黒塚首相は、ああいう方で、正直、目から鼻へ抜けるような人ではないし、学歴などはいささか乏しいこともあって、行政官僚も、裁判官も、ひどく嫌っているのですよ。ことに、須田長官のような東京帝大、高等文官試験トップ組の方々に対しては、何と申しましょうか、インフェリオリティー・コンプレックスや嫉妬の入り交じった、すさまじい憎しみをあわらにされることもありましてな。
いうまでもありませんが、表の顔や一見しての能力だけで彼を判断なさいませんよう。権謀術数やメディア、世論操作には非常に長けた、なかなか恐ろしい人物ですよ、あの人は。」〉
〈「原子力の問題は、まさに国家のエネルギー政策と安全保証の根幹にかかわります。世間というものをよくは御存知ない秀才であられる裁判官の方々が立ち入るべき領域の問題ではありません」〉
こうして大物政治家に恫喝された須田は、もっとも大規模で重要かつ、全国の裁判官たちに与える影響が大きい「裁判官協議会」で原発訴訟を扱うことを単独で決定する。もちろん“最高裁としては原発差し止めはまかりならん”という意志を隅々の裁判所や裁判官に伝え、徹底させるためだ。そして、出された結論は、原発訴訟に対する裁判所の“判断放棄”であった。「協議会」は以下の指針を原発訴訟に対する裁判所の“あるべき”姿勢として、全国の裁判官に下達したのである。
〈原子炉施設の安全審査は、多方面にわたる高度かつ最新の科学的、専門的知見に基づくものですから、原子力委員会の知見を尊重して行う内閣総理大臣、つまり被告行政庁の合理的な判断に委ねるのが相当と思われます〉
最高裁の政治との癒着、そして貫かれる露骨な“国家意志”──これが、裁判所を知り尽くし、裁判所を告発し続ける著者が描き出した、最高裁の実態だ。これら以外にも本書では、最高裁の派閥や権力維持として使われる人事権など、その暗部の実態も告発されているのだが、本書を読めば今後、原発差し止め訴訟において公正な裁判所の判断など期待できないこともわかるだろう。
もちろん、これは原発案件に限ったことではない。前述のとおり、行政訴訟で政府や企業に都合の悪い判決を出した判事や、刑事事件でも無罪判決を出した判事を閑職に飛ばすなどの事実上の左遷人事は、これまでも横行してきた。また、福島原発の事故後はそれがさらに露骨になってきているとも指摘されている。
そう考えると今回、国策として安倍政権が進める辺野古基地移転を最高裁判所が“後押し”するのも、当然のことなのだ。
国民の生命や安全を無視し、辺野古新基地建設と米軍基地の固定化、そして原発再稼働政策を押し進める政権と、それを後押しする最高裁判所。政府と司法の構造的癒着というこの国の権力の実態は、まさに“絶望”なのかもしれない。
(伊勢崎馨)
最終更新:2016.12.13 12:08
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