週刊誌・実話誌に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
安倍官邸が送り込んだ日本銀行審議委員に「ショーンK氏」並みの経歴詐称と「小保方氏」ばりの杜撰論文が発覚
首相官邸ホームページより
5月5日付の英デイリー・テレグラフ紙が「イギリスは日本経済で失敗したシンゾー・アベのアドバイスに耳を傾ける価値なし」とアベノミクスを辛辣に批判したことがネット上で話題だ。アベノミクスの失敗は、海外の専門家たちにはもはや隠しようのない事実なのだ。
しかし、安倍官邸はこの失敗の事実を日本人に悟られないようにとの工作に必死だ。少なくとも、この夏の参院選が終わるまでは。ところが、にわかづくりの薄っぺらな詐術やペテンは化けの皮が剥がれるのも早い。今週発売の「週刊ポスト」(小学館)がその一端を見事に暴き出してくれた。題して〈安倍官邸が送り込んだ「日銀のショーンK」に重大「経歴詐称」疑惑〉だ。
いったいどういう話かというと、安倍官邸が日銀の政策を決定する日本銀行政策委員会メンバーに送り込んだ人物が、ショーンKばりの経歴詐称をしていたというのである。その人物とは櫻井眞氏(70)といって、今年4月に同委員会の審議委員に就任したばかりの人物だ。
日銀の金融政策は、黒田東彦総裁と2人の副総裁、そして櫻井氏を含む6人の審議委員の計9人が出席する政策決定会合で、合議制(多数決)によって決定される。金利を上げるも下げるも、この人たちの判断ひとつだ。その重い職責を担う審議委員には、〈経済又は金融に関して高い識見を有する者〉(日銀法23条2項)が選ばれ、国会の同意を得た上で内閣が任命する。年俸は大臣並みの2638万円だという(2015年度)。
そんな重要な役職にもかかわらず、櫻井氏は就任当初から経済記者の間でも「ほとんど無名といってもいい」と言われ、その経歴が訝られていた。審議委員になる直前まで「サクライ・アソシエイト国際金融研究センター代表」だったというが、そもそもこの「サクライ・アソシエイト国際金融研究センター」自体がインターネットで検索してもホームページすら出てこない“幽霊団体”だ。櫻井氏個人が投資家向けのリポートを出し、小銭稼ぎをしていたというのが実態らしい。
日銀のホームページによると、中央大学経済学部を卒業後、〈昭和51年3月/東京大学大学院経済研究科博士課程修了〉〈昭和59年4月/大蔵省財政金融研究室特別研究員〉などとある。ところが、「週刊ポスト」の取材によって、これらがみんなウソだったことがバレたのだ。
まず、東大の博士課程修了について。東大経済学部当局によると「博士課程修了」とは博士論文が審査を通って博士号を取得していることを意味するという。博士論文は文部科学省令によって公表が義務づけられていて、博士号を授与した大学に行けば誰でも自由に閲覧できる。ところが、「週刊ポスト」記者が東大経済学部の資料室で閲覧申請をしたところ、「該当論文がない」「この方は博士号を持っていない」ということが分かってしまったというのである。
さらに、「週刊ポスト」記者は同大経済学図書館に収蔵されていた『ケインズ的経済成長の動学的性格』と題された修士論文を“発掘”した。これがなんと、目次を含めて400字詰め原稿用紙たったの「4枚」、文字数にしてわずか1258字というシロモノだった。「週刊ポスト」はこの論文を財務省出身の小黒一正・法政大学経済学部教授に見せ、
「本当に本物ですか? こんな修士論文、見たことがありません」
「内容は当時の経済学で示されていた課題を要約しているだけで、(中略)学部生が書いた簡単なレポートのレベルです。(中略)私が指導教官なら通さない。東大がこんな論文で修士号を与えたこと自体、不思議でなりません」
とのコメントを引き出している。まさに、ショーンK+小保方晴子事件のような話なのだ。
経歴にある「大蔵省財政金融研究室特別研究員」についても同様で、大蔵省(現・財務省)の1984年の職員録を調べてみても櫻井氏の名前は見当たらず、同省秘書課の説明でも保存されている30年分(86年以降)の行政文書の記録を調べても櫻井氏が(日銀のHPに記載されている時期に)財政金融研究所(85年に改称)に在籍している記録は確認できなかったという。そもそも「特別研究員」という役職自体が存在しなかったようなのだ。ただし、痕跡はあった。
「90〜96年に、同研究所で非常勤、原則無給の特別研究官をされていた記録はありました」(同省秘書課、「週刊ポスト」より)
これがなぜ、〈昭和59年4月/大蔵省財政金融研究室特別研究員〉という日銀HPの記載になるのか、はなはだ疑問だ。これは細かいことでも、単なるミスでも許されない。ことは、ショーンKのようないちタレントの経歴ではないのである。我が国の金融政策を左右するトップ9の一人が、真にその重責をまっとうする資格があるかどうかの問題なのだ。
だが、安倍首相にとってはそんなことハナからどうでもいいようなのだ。そもそもなぜ、この櫻井氏なる御仁が「日銀トップ9」に選ばれたのか。そこには、官邸の強い思惑があったという。
日銀の金融政策が9人の合議で決定するのは、政策の多様性が求められているからだ。総裁の独裁や暴走によって国民経済が破壊されることを防ぐため、政策委員会は常に絶妙なバランスで成り立っているはずだった。黒田総裁が今年2月の金融政策決定会合でマイナス金利を導入した際、9人のメンバーのうち4人が反対だった。結果は同じでも、「4人が反対」という事実が国民に伝わり、記録に残ることが重要なのだ。
実はこの時、反対に回った審議委員の一人、白井さゆり氏が3月末で任期を迎えた。なんのことはない。エコノミストとしてまったく無名の櫻井氏が反対派白井氏の後任に選ばれたのは、任命権を持つ安倍内閣が、安倍─黒田ラインの傀儡として送り込んだからなのだ。自らの経済政策・アベノミクスの失敗を糊塗するため、中央銀行の人事すら「私物化」しているということなのだ。
「週刊ポスト」の報道に対して、菅義偉官房長官は9日午前の記者会見で「日銀のウェブサイト上の表現の正確性の事柄であり、日銀が適切に対応する」などと言い訳にならない言い訳をした。
そもそも安倍内閣は首相の安倍自身が、成蹊大学卒業後、南カリフォルニア大学の外国人向け語学コースに一時的に通っただけなのに、「南カリフォルニア大学政治学科に2年間留学」とウソの経歴を語って恬として恥じない人物だ。「公職に就く人物は経歴詐称をしてはならない」などという倫理感はハナから持ち合わせていないのだろう。
しかし、問題なのは、新聞やテレビの姿勢だ。官邸にこう開き直られた途端、追及の動きを一気に鈍らせてしまった。テレビは昼のワイドショーも夕方のニュース番組も一切、この「週刊ポスト」の報道に触れていない。ショーンK氏や小保方氏のことをあれだけ叩きまくった勇ましい姿勢はどこへいってしまったのか。
「新聞・テレビがこの件を大きく報じないのは、官邸を恐れて、というのもあるでしょうが、日銀ににらまれたら、金融政策にかんする情報をもらえなくなると心配しているから。各社とも経済部が待ったをかけているんじゃないでしょうか」(全国紙政治部記者)
結局、日本のマスコミが叩けるのは、ショーンK氏くらいということらしい。
(野尻民夫)
最終更新:2016.06.21 07:26
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