パリ同時テロでフジ『グッディ』が“在日外国人”をテロリスト扱い! 広がる嫌な空気と勢いづく公安、安倍政権

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フジテレビ『直撃LIVE グッディ!』オフィシャルサイトより


 15日、フランス軍はパリ同時多発テロ以降初めて、ISが拠点とするシリア北部ラッカを空爆。仏オランド大統領は「フランスは戦争状態」として、ISに事実上の宣戦布告を行った。憎悪の連鎖は止まりそうにない。

 そんななか、日本国内でも、さっそく在日外国人や難民に対する排外主義・差別的言説が広がっている。しかも、それを口にしているのは浅薄なネトウヨだけではない。パリ同時テロについては週明けの朝からワイドショーがこぞってとりあげているが、ここでも同様の言説が垂れ流されている。

 たとえば『情報LIVE グッディ!』(フジテレビ)も16日の放送で、在日外国人がイまるで、テロリスト予備軍であるかのような解説をしていた。

 国内テロの危険性をスタジオでパネルを使いながら解説していた際のことだ。『グッディ』は国内テロの犯人像として、外国から来るテロリスト、過激思想をもった在日外国人、感化された日本人の3パターンがあるとしたのだが、とくに在日外国人について、その人数の推移グラフをフリップにするなど、集中的に説明。「いま外国人はすごく増えている」「現在日本に在留している外国人は約212万」、そして「すでにISに感化された外国人がいる可能性もある」などといった解説を加えたのだ。

 さらに、ゲストコメンテーターの国際開発センター研究顧問・畑中美樹氏も「公安は国内にアルカイダが入っているという情報を得ていた」とコメント。「だからといって在日外国人を差別排斥してはいけない」というような注意も一切ないまま、ひたすら、在日外国人の危険性を煽り続けた。

 予想はできたことだが、事件発生からわずか数日でこの有様である。

 本サイトでも既報のとおり、パリ同時多発テロ事件の犯行声明を出したISが次に狙うターゲットのなかに、日本が含まれている可能性が高いのはたしかだ。しかし、ISが多様な国籍の構成員を持つように、現在のテロリズムは以前より複雑化し、国籍や人種、外見的特徴と安易に結びつけることはできない。

 それを、社会の公器たるマスメディアが「在日外国人」をひとくくりにして“犯罪者予備軍扱い”するのは、ヨーロッパで移民排斥を叫んでいるネオナチとほとんど同じ発想ではないか。

 しかも、メディアの“在日外国人=犯罪者予備軍”という喧伝がもたらすのは、たんに在日外国人やイスラム教徒への差別や偏見を助長するだけではない。こうした世論は、警察などの国家権力による人権侵害をさらにエスカレートさせていく。

 今回のテロに対する警視庁公安部の反応を、担当記者がこう証言する。

「すでに公安は『俺たちの出番だ』と息巻いています。公安はもともと左翼組織対策が主任務だったのですが、冷戦が終わり90年半ばには“もう公安はいらないんじゃないの?”というふうになっていた。それが9.11後の“対テロ戦争”の流れで、予算や権限、人員を拡大させました。今回のパリ同時多発テロに加え、国内では東京五輪などの国際イベントが控えています。9.11後のように公安の権力拡大が進むのは目に見えています」

 しかも、公安は自分たちの権限と予算拡大のために、平気で違法な捜査やでっちあげを行う。
 
 2010年10月、警察の内部資料計114点がネットに流出した事件を覚えているだろうか。ファイル共有ソフトを経由して流出したのはイスラム過激派国際テロに関する文書。警視庁公安部外事第三課が捜査対象としていた在日イスラム教徒らの住所、氏名、写真、勤務先、パスポート番号、渡航歴、さらには配偶者や子どもの通学先まで、詳細なプライバシー情報が記載されていた。彼らの大半は警察の捜査に協力してきたただの一般人だったが、資料のなかにはあからさまにテロ容疑者扱いする記述も見られた。

 市民のプライバシー情報がネットで世界中に拡散されたことも大いに問題だが、しかし、この事件の最大の問題は、警察組織が日本で生活するムスリムを片っ端から捜査対象にしていたという事実だ。ようするに、テロとは無関係にもかかわらず、ただイスラム教徒だという理由で、警察に尾行されたり、銀行口座を調べられたり、私生活の細部にいたる個人情報を収集されていたのである。

 当時の「フライデー」(講談社)2010年12月31日号が、この流出事件でテロリストに“でっちあげられた”男性の肉声を伝えている。都内でエスニックカフェを経営していた男性は、「危険人物」「テログループのインフラになる恐れあり」などとされ、警察に収集されていた顔写真や個人データを晒されてしまった。男性はこう語っている。引用しよう。

「こんなデマが広がれば、店がつぶれてしまいます。それに私の子どもはどうなりますか? 父親がテロ関係者などと言われたら、仲間外れにされ、イジメに遭いかねません。私の国はテロ対策に厳しいですから、もう国にも帰れない。いったい私はどうすればいいんですか……」

 男性は公安警察により生活の基礎をズタズタにされてしまったのだ。

 おそらくこれと同じことが再び起こるだろう。いや、もっとひどい微罪逮捕や犯罪でっちあげも行われるかもしれない。マスメディアが在日外国人を“危険人物扱い”し、イスラモフォビアを煽ることで「アラブ系の人は怪しまれてもしかたがない」という風潮ができあがれば、警察権力による違法捜査への抵抗感が薄まり、警察はどんどん違法捜査をやりやすくなる。

 さらに、国内で在日外国人に対する偏見やイスラモフォビアが広がることは、実は、安倍政権にとっても非常に都合がよい。日本で生活する外国人やムスリムを、市民に蔓延する“テロへの不安”のスケープゴートに仕立てあげることで、責任転嫁をすることができるからだ。

 周知のように、日本がISのテロの標的となったのは、安倍首相による積極的平和主義外交、安保法制で米軍および有志連合との結びつきを強めた結果、である。しかし、国内に“敵”をつくりだせば、国民の目をこの外交政策の失敗からそらすことができる。警察当局だけでなく、官邸がそういう狙いをもって、あたかも国内の在日外国人にテロリストがすでに潜入しているかのような情報を率先して流し始めるかもしれない。

 同時に、安倍首相の悲願である改憲へのアクセラレーターにもなるだろう。お得意の中国脅威論もそうだが、安倍政権は国防上の不安感を過剰に煽ることで「有事の際の自衛」の必要性を説く。安倍政権がさまざまなチャンネルをつかって“憲法9条の縛りのせいで海外のテロの拠点を潰すことができない。このまま指をくわえているだけでいいのか!”というキャンペーンを仕掛ける可能性は十分考えられる。

 いや、その動きはすでに始まっている。安倍首相はパリ同時多発テロについて「いかなる理由があろうともテロは許されない。断固非難する。国際社会と緊密に連携し、テロの未然防止に取り組む」(14日)、「各国の水際対策強化などを支援し、テロの未然防止、根絶のため積極的に取り組む」(16日、G20)などと、いまにも“対テロ戦争”に参戦するかのごとく鼻息を荒くしている。

 このままいくと、仏オランド大統領による非常事態宣言を持ち出し、先日安倍首相自ら明言した緊急事態条項の新設の必要性を強調、改憲への嚆矢にしても何の不思議もない。

 公安の増長も、緊急事態条項の新設も、つきつめれば市民の生活におけるさまざまな権利が侵害・制限されることを意味する。もちろん、テロ防止の議論とのバランスは考慮せねばならないが、欧州に比べ、日本ではこうした議論が驚くほど出てこない。たとえば、テレビが“在日外国人が危険”と煽れば、公安による異常かつ杜撰な捜査体質すら許容されるし、“テロ容疑者のなかには難民に扮して入国した者がいた”と報道されれば難民受け入れの議論を完全にシャットアウトしてしまう。大局的にみれば、こうした状況は市民生活のレベルも国際的な評価も下げてしまうことになるのだが……。

 今回の同時多発テロをきっかけに、日本はさらに“お上にたてつくことを許さない社会”の色彩を濃くするのだろう。それはまず、『グッディ』がそうしたように、国内の在日外国人への偏見・差別を助長させるような放送から始まる。結局のところは、それは国家権力による締め付けを助長していることと同義だ。もちろん、放送の自由も無関係ではない。メディアはこうした状況を自覚しているのだろうか。
(宮島みつや)

最終更新:2015.11.20 07:09

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