大河に『花燃ゆ』ごり押し? 安倍首相が愛する「長州藩」はテロリスト集団だった!

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NHK大河ドラマ『花燃ゆ』NHKオンラインより


 NHK大河ドラマ『花燃ゆ』が低視聴率に喘いでいる。歴代ワースト3での発進となった初回視聴率16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)からいっこうに浮上できず、第7回(2月15日放送)ではついに11.6%と、早くも一ケタ台の尻尾が見えてきた。

 その大河ドラマに最近、ある疑惑がもちあがっている。今回の主人公は、吉田松陰(伊勢谷友介)の妹で、長州藩士の久坂玄瑞(東出昌大)の妻・文(井上真央)、舞台はもちろん長州・山口県なのだが、こういう設定になったのは「NHKが安倍首相の地元をどうしても取り上げたかったからだ」「安倍首相がNHKに圧力をかけたんじゃないか」と関係者のあいだでまことしやかに噂されているのだ。

 こうした疑惑を、ジャーナリスト・鵜飼克郎氏が「SAPIO」(小学館)2014年2月号や「週刊ポスト」(同)15年1月30日号で追及。これらの記事によれば、制作発表までの経緯はまさに“異例続き”だったという。通常、大河ドラマの制作発表は放送開始2年前の5月〜8月にされる。だが、『花燃ゆ』の場合は極端に遅く、13年の12月まで発表がずれこんだ。また、発表の直後に鵜飼氏が山口県萩市を取材したところ、例年なら制作発表を終えているはずの13年9月になって初めてNHK側が萩市の観光部へ「山口県に何か大河ドラマの題材がありませんか」と聞いてきたのだという。題材も主人公も未定で「舞台」だけが先に山口県に決まった形跡があることを、鵜飼氏は「不自然きわまりない」と書く。

 まあ、この疑惑は今のところ状況証拠しかなく、真偽を断定することはできないが、安倍首相が長州に並々ならぬ思いを抱いているのは事実だ。尊敬する祖父・岸信介、父親・安倍晋太郎の出身地で、安倍晋三の“晋”の字が長州藩士・高杉晋作に由来するというのは有名な話だが、本人も産経新聞社が運営する「長州「正論」懇親会」の一周年講演会で、こんなスピーチをしている。

「長州というのは近代国家の日本を生み出す原動力になった場所です。志士たちが生まれた土地であります。皆様と同じように、長州人の血を引いている受け継ぐ一人であることを大変誇りに思うのであります」

 安倍首相にとって、その“血”は誇らしくて誇らしくてたまらないものらしいが、しかし、長州に魅かれているのは、安倍首相だけではない。「長州藩」は幕末を描いた歴史ノンフィクション、小説などでも常に、明治維新の立役者であり、日本の近代化の礎を築いた存在として描かれてきた。薩長による維新が達成されなければ、日本は江戸の封建体制のまま、欧州列強にのみこまれ、植民地にされていたであろう――こうした説を、多くの人が今も信じているはずだ。

 ところが、その長州藩を“残虐非道のテロリスト”呼ばわりする本が登場した。今年1月に改訂された『明治維新という過ち~日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト~』(原田伊織/毎日ワンズ)だ。

 本書は冒頭から「倫理性という観点から長州テロリストの犯罪を列挙し、百四十五年にわたってそれを包み隠してきた「官軍教育」(=現在の歴史教育)を否定」することを宣言する。

 学校では、長州の「維新の志士」たちが近代日本の扉を開いたと教わるが、著者によれば、長州は黒船来航以降、開国路線に舵をきろうとした江戸幕府に反目し、攘夷を唱えた首謀者だという。そして、維新志士たちは大義名分をいいことに、さまざまな「テロ」行為を繰り広げていたと、その犯罪を列挙するのだ。

「桜田門外で水戸脱藩のテロリストと薩摩藩士に暗殺された大老井伊直弼の彦根藩ゆかりの者の暗殺(長野主膳の家族など)」
「おなじく彦根藩ゆかりの村山可寿江の生き晒し(女にも容赦しなかった)」
「京都町奉行所与力やその配下の暗殺(賀川肇など)」
「幕府に協力的とみた商人への略奪、放火、無差別殺人」
「佐幕派とみた公家の家臣たちの暗殺(あまりに多数。これらは公家に対する脅し)」
「儒学者の暗殺(儒学社池内大学など)」
「その他、仲間内でハクをつけるための無差別殺人」

 これらを実行したのは、圧倒的に長州の荒くれ者たちが中心だったという。「彼らのやり口は非常に凄惨で、首と胴体、手首などをバラバラにし、それぞれ別々に公家の屋敷に届けたり、門前に掲げたり」していたそうだ。

 まあ、これが有名な「天誅」ってやつなのだが、現代の感覚で見ると、その行為はイスラム国も真っ青の残虐さであり、著者がいうように「人道に対する罪」を犯しているとしか思えない。しかも、目的が政治的で、暴力と恐怖によってこれをなしとげようとしていたのだから、「テロ」と呼ぶのも同意せざるをえないだろう。

 著者いわく、「なかでも、吉田松陰はその扇動者であり、その義弟となる久坂玄瑞は、超過激テロリストとしか表現の仕様がない存在」だった。備忘として書いておくが、つまり『花燃ゆ』の主人公・文は、「テロの煽動者」の末妹で、「超過激テロリスト」の妻ということになる。

 さらに長州藩士たちは天皇を拉致しようともしていた。1864年、禁門の変(蛤御門の変)である。くだいて説明すると、その前年、長州は薩摩や会津から「長州ってさすがにヤバくない?」「キレてますよね、アレ」と陰口をたたかれ、京を追放されていた(文久の政変)。だが、長州がさらにキレるのはここからで、挙兵して京に攻め入り、御所(朝廷)に向けて大砲をぶっ放すわ、市街をだだっ広く炎上させるわと、もうめちゃくちゃにしてしまったのだ。これは、我が国の歴史上、天皇がおわすところにガチで攻撃をしかけた唯一の事件である。

 繰り返すが、このブチギレ長州の精神的指導者としてもてはやされているのが吉田松陰なのだ。学問に秀で、好奇心旺盛、さらに知行合一であったがゆえに、安政の大獄で処刑された“悲劇の主人公”。これが一般の松陰像であると思うが、著者に言わせれば、これも「大ウソ」なのだという。

「ひと言でいえば、松陰とは単なる、乱暴者の多い長州人の中でも特に過激な若者の一人に過ぎない。若造といえばいいだろうか。今風にいえば、東京から遠く離れた地方都市の悪ガキといったところで、何度注意しても暴走族を止めないのでしょっ引かれただけの男である」
「長州藩自身がこの男にはほとほと手を焼き、ついに士籍を剥奪、家禄を没収している。つまり、武士の資格がないとみられたはみ出し者であった」。

 現在の松陰像は、明治になって「長州閥の元凶にして日本軍閥の祖」である山縣有朋などがでっちあげた虚像だと著者はいう。

 しかも、あの名高い松下村塾は「師が何かを講義して教育するという場ではなく、よくいって仲間が集まって談論風発、『尊皇攘夷』論で大いに盛り上がるという場であった」らしい。

 ちょっと長州ディスがすぎる感じもしなくもないが、しかし、今、常識になっている長州=近代化の礎論は、勝った側がつくりだした歴史であることは間違いない。「歴史は勝者が決める」というが、おそらく、最終的に幕府と薩摩が手を結び、長州が敗れていれば、長州は後世までテロリスト扱いされ続けた可能性はあるだろう。

 だが、結局、長州は勝って官軍となり、明治政府の要職をしめた。そして、以降も政府や陸軍の実権を握り続けた。

 そう考えると、たしかにこの長州のDNAは、安倍首相をはじめとするその末裔(を自負する者)に受け継がれているといってもいいかもしれない。彼らはそろいもそろって「維新」という言葉を好み、ナショナリズムで荒くれ者たちを鼓舞し、歴史を自分たちの都合のいいように書き換え、「積極的平和主義」という言葉で戦争を始めようとしている。それは、「尊王攘夷」という言葉で権力を奪取し、「近代化」の名目で日本を帝国主義的侵略戦争に駆り立てていった長州、明治政府とそっくりではないか。

 安倍首相は著書『美しい国へ』(文春新書)で、政治家としての志について、こう書いている。

〈「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人といえども吾ゆかん」──わたしの郷土である長州が生んだ秀才、吉田松陰先生が好んで使った孟子の言葉である。自分なりに熟慮した結果、自分が間違っていないという信念を抱いたら、断固として前進すべし、という意味である。〉

 いやいや、後生だから、あらぬ方向に勝手に進まないでくださいよ!
(宮島みつや)

最終更新:2018.10.18 05:13

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