検察べったり、無理矢理有罪に…元裁判官が告発する裁判所の恐ろしい真実

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『ニッポンの裁判』(瀬木比呂志/講談社)

 足利事件、東電OL事件、袴田事件――ここ数年、最高裁で有罪が確定した事件が冤罪だったことが証明され、長期にわたり収監されてきた “無実”の人間が釈放されるという事態が続いている。これらの事件に共通するのは警察による杜撰な思い込み捜査、検察による強引な起訴である。しかしその責任は捜査をした警察や検察だけにあるのだろうか。

 いや、それは大きな間違いと言わざるを得ない。杜撰な思い込み捜査があったとしても最後の砦である「裁判所」において有能で公正な「裁判官」が真実を見極めてくれる。多くの市民はそう期待するだろう。しかし裁判所は真実を見極めるどころか、不当な捜査をした警察や証拠を隠蔽する検察を疑うことなく全面的に擁護し、一審、高裁、最高裁と3度も有罪判決を導き出した。冤罪を後押ししたのが裁判所だったと言っても過言ではない。

 それだけではない。有罪が確定した後にも無罪を訴えて再審を求めても、裁判所はろくな根拠もなく撥ね付け続けた。

 例えば、足利事件では1997年に弁護側が行ったDNA鑑定が犯人とされた菅家利和さんと不一致だったにも関わらず、最高裁はこれを無視。その後の再審も退け続けた。菅家さんの再審が決定し、釈放されたのはそれから12年後の2009年だ。袴田事件でも、不自然で杜撰な証拠や物証を問題にせず、1980年に死刑判決が確定。再審が決定したのは、なんと30年以上も経った2014年だった。

 なぜ裁判所は間違えるのか。冤罪を作り出してしまうのか。『ニッポンの裁判』(瀬木比呂志/講談社)によると、裁判所は摩訶不思議な魔界のような場所らしい。著者の瀬木自身、31年間にわたり裁判官を務めた元判事であり、その経験をもとに裁判所と裁判官の腐敗を告発した前著『絶望の裁判所』(講談社)は大きな波紋を呼んだ。本書はその第二弾に当たるが、そこには恐怖とも思える裁判官たちの実情が描かれている。

 本書ではこんな大前提が突きつけられる。

「国民、市民の自由と権利を守ってくれるといった司法の基本的な役割の一つについて、日本の裁判所、裁判官にはほとんど期待できない」
「明日はあなたも殺人犯、国賊」

 なんともセンセーショナルだが、一体どういうことか。例えば、あなたがデリバリー・ピザのチラシをマンションにポスティングするバイトをして、逮捕されるなんて考えられるだろうか? 常識で考えればあり得ないことだ。しかし実際にポスティングしただけで、逮捕起訴された挙げ句に有罪となってしまった例が存在する。

 2004年、当時、社会的に大きな感心を呼んだのがイラク自衛隊派兵だった。これに反対するため、3人の市民運動家が集団住宅で反対ビラをポスティングした。場所は立川の自衛隊官舎だ。実際に派兵される自衛隊の家族に対しその実情を訴えたものだったが、この3人は住居不法侵入で逮捕、起訴された。通称「立川反戦ビラ事件」だ。

 デリバリーのチラシで他人の敷地に入ることはOKだが、政治的な主張、それも時の政権に反対するビラは、住居不法侵入で逮捕、有罪。明らかに権力による嫌がらせであり、思想弾圧とも言える事件だった。

 しかし、裁判所は捜査側の恣意性を考慮することなく、いや、権力に寄り添うように有罪判決を下した。本書では08年に下された有罪判決について、近代民主主義国家の水準に達していないとこう批判している。

「およそ憲法論と評価することなど困難な代物である。まともな憲法論を展開すれば、ポスティング一般が処罰の対象とされることはない中でのこのような狙い撃ち起訴を正当化することは難しいので、実質的な理由を一切述べないことによって、何とか体裁を取り繕っているのであろう」

 著者によればこの判決は「都合の悪いことには一切触れないのが、あるいは、都合の悪い部分を省略するのが、「切り捨て型」のレトリック」であり、「未だ社会にも政治にも裁判にも前近代的な残滓を色濃く残す国のそれ」とまで徹底批判している。

 さらに本書では冤罪は構造的に作られてきたとして、その前提に取り調べ段階の「人質司法」(裁判所が簡単に勾留を認め、弁護士の立ち会いもなく、苛酷な取り調べから逃れられない)や検察の権限が強大でそのチェック機関もないことを指摘。その上で裁判所の問題をこう記している。

「(刑事系裁判官の)多数派は検察寄りであり、警察、検察が作り上げたストーリーについて一応の審査をするだけの役割にとどまっている。つまり『推定無罪』ではなく、『推定有罪』の傾向が強い」

 裁判では検察の主張ばかり聞いて、弁護側の主張をことごとく退けると言われている。それは元判事である著者の目から見ても事実のようだ。その上で、さらに問題なのは「警察官に対する情緒的同調傾向も強い」という点だという。裁判官は警察官や検察官と同じく「役人」である。そのため「お上」的意識が強く、また裁判官と検察官の人事交流も存在する。いわば裁判官と警察官、検察官は「お仲間」とも言える関係だ。そう考えると、彼らにとって「下々の存在」である被告がいくら無罪を主張しても、裁判官は「お上仲間の検察の主張の方が正しい」と思うのも納得がいく。

 先頃歌手・ASKAの愛人が覚せい剤違反に問われた事件で、一貫して無罪を主張し、物証も問題だらけにもかかわらず、2回の鑑定結果が異なった毛髪の再鑑定をせずに放置したまま、一審有罪判決を下したのもその一例だろう。

 無罪の可能性がかなり高いのに、再審請求がことごとく棄却される背景にも、この裁判所の体質がある。その最たる例が本サイトでも冤罪が濃厚だと指摘した「恵庭OL殺人事件」再審棄却問題だ。

 三角関係の末、同僚OLを殺害したとして恵庭市の女性に有罪判決が確定した事件だが、著者はこの事件に関する資料を取り寄せて読んでみたという。

「その結果は、啞然とするようなものだった」

 元裁判官である著者から見ても、検察が証明責任を果たしたとは思えず、有罪判決に疑問があった。

「裁判官たちは、有罪推定どころか、可能性に可能性を重ね、無理に無理を重ね、何としてでも「有罪」という結論に達しようと、なりふり構わず突き進んでいる印象がある。袴田事件、足利事件、東電OL事件のように再審請求にDNA型鑑定等の強力な裏付けがある場合はよいが、そうでない限りこのような強引な事実認定が通ってしまうことがありうるのかと思うと、元裁判官として、本当に暗澹たる気持ちにならざるをえない」

 しかも決定的証拠があるにも関わらず、再審が決まった時の検察の態度は驚くべきものだ。

「(検察は)動揺するのみならず、激怒した人々も存在することだろう」

 検察のすさまじいまでの面子、そしてそれに同調する裁判官の姿がそこにはある。DNA型鑑定という決定的証拠があっても、袴田、足利、東電と再審が開かれるまでには気が遠くなるような月日が掛かっている。にもかかわらず自らの責任を感じることなく、逆ギレする検察。そして検察の顔色をうかがう裁判所。その背景に「裁判官と検察のお仲間意識」があるとすれば、なんともやりきれないが、検察に追随する裁判官はこうした刑事事件に対してだけでなく、原発訴訟等の行政訴訟、憲法訴訟、国策捜査となれば尚更だ。

 こうした異常な裁判所の異様な態度は、裁判官が検察に「お仲間」意識を持つ以上に、「過剰反応」を起こしているからだという。だがその理由については裁判所を知り尽くしているはずの著者も「明確には分からない」らしい。

「統治と支配の一部を担うと自負するどうしの仲間意識なのだろうか? 権力におもねっているのだろうか? それとも、権力の保護者、あるいは、権力と市民の調停人の役割でも果たしているつもりなのだろうか? あるいはねじれたプライド、『私こそ、まさに権力の中の権力、権威の中の権威。その私が、権力以上に権力的な裁断を下すべきなのだ』といった倒錯した意識の現れなのだろうか?」 

 著者はその理由をこれらの複合ではないかと類推するしかないようだが、その類推の末の結論も恐怖と言えるものだ。

「現在の裁判所・裁判官の状況、その多数派の意識と裁判を前提にする限り、三権分立など絵空事であり、司法による官・民の権力チェックも絵空事である」

「(裁判官は)権力の番人、擁護者、保護者、忠犬」

 なんとも恐ろしい日本の司法の世界。一度警察に容疑者のレッテルを貼られれば、有罪はほぼ決定的。そして一旦検察に目をつけられ、形式犯で捜査を受けた政治家(例えば小沢一郎などがその典型)は社会的に抹殺される。それが日本の司法の実情だ。

 さらに憂うべき存在が、裁判所を始め権力をチェックできないマスコミだ。現在のマスコミは権力に対する監視という本来の役割を放棄しているとさえ見える。政権によるメディアコントロール、自主規制――。特に大手メディアは権力の補完、広報、下請けに成り下がっていると著者は指摘する。

「日本のマスメディアは、国民、市民の『知る権利』に奉仕し、その代理人となって司法を厳しく監視、批判し続けるという役割を半ば放棄してしまったのではないか」

 同時に記者の劣化もそれに拍車をかけている。専門知識が乏しく、そのため裁判所側のレクチャーを受けなければ記事が書けないのだ。

「そのような力関係の下では、本当に適切な裁判報道、客観的な司法批判など、できるわけがない」

 メディアが裁判所の広報に成り下がると同時に、裁判所幹部との交遊を自慢し、ステイタスだと勘違いする記者まで出現する始末だという。これでは、裁判所の現状を批判できるはずもないだろう。

 多くの国民はおそらく、裁判所の問題にはほとんど関心がない。裁判所がいくら劣化しようが「刑事事件を起こさなければ関係がない」、そんな意識から抜け出せない。しかし、裁判所の腐敗、劣化がもたらすのは刑事事件における冤罪だけの問題ではない。

「現在の国粋的保守派の政治家の中には、およそ近代的な憲法解釈などなく、むしろ、大日本帝国憲法に深いノスタルジーを抱き、みずからのアイデンティティとしているのではないかと疑われるような人々さえ存在する。その結果、憲法違反の疑いが大きい法律や条例、あるいは政府の行為はむしろ増えてきている。たとえば、特定秘密の保護に関する法律(二〇一三年一二月成立)、憲法解釈によって集団的自衛権の行使を認めた閣議決定(二〇一四年七月、安倍晋三内閣)は、その顕著の例であろう(略)にもかかわらず、こうした事柄について司法による適切なチェックは全く行われていない。それが、現代日本の状況なのである」

 実際、原発訴訟でも米軍の騒音訴訟でも秘密保護法違反訴訟でも、裁判所は国の意思を尊重するだけで、公正な判決など望むべくもない。裁判所の腐敗は私たちが政権の暴走を止める力を奪われたことと同義なのである。 
(伊勢崎馨)

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