ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第39号

「家政婦」の名目で24時間労働の介護で日当1万円、残業代なし! 労基法の穴を利用したミタゾノもびっくりのブラック紹介所

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「家政婦」の名目で24時間労働の介護で日当1万円、残業代なし! 労基法の穴を利用したミタゾノもびっくりのブラック紹介所の画像1


 今回ご紹介するのは、家政婦紹介所(有限会社)が相手方の事件である。

 家政婦といえば、家庭における家事を補助・代行する職業に就かれている方のことで、ドラマの主人公になったりもしているようである。法律上の概念としては、「家事使用人」というものがあり、これに該当すると、労働基準法の適用がない(労働基準法116条2項)。この家事使用人であるが、家事一般に使用される労働者のことをいうが、「家政婦」=「家事使用人」という簡単な構図にはなっていないことには注意が必要である。例えば、メインの業務が家事でない場合や、家事を事業として請負う会社に雇われてその指示に従って家事を行うような場合は家事使用人には該当しない。

 しかし、この規定が、無用に労基法の保護の外に置かれてしまう根拠として利用されてしまうのである。そのため、個人的には、この条文自体がブラックなのではないかと思ってしまう。

 そして、ブラック企業は、この条文を楯に「家政婦」=「家事使用人」として、好き勝手働かせ、正当な対価を払わないのである。

 ここでは、その一例をご紹介する。

 原告であるOさんは、家政婦紹介所(被告/東京都内の有限会社)から介護付有料老人ホームの入居者についての介護・家事を担当する家政婦として送り込まれていた。

 その契約内容が凄い。「勤務時間は24時間、日給11,700円」。ちなみに、刑罰をもって禁止している長時間労働の基準が、1日8時間である(労働基準法32条)。このような内容であるから、休みを取りたいときは、交代要員を家政婦紹介所に依頼し、交代者が入っている間だけ職場を離れることができるという過酷な労働環境である。

 Oさんの退職にあたって、相談者の息子(元バンドマンで探偵というしっかり者!)が、この働き方はおかしいのでは?と思って色々動き回り、最終的に弁護士のところに相談に来られたのがきっかけである。

 Oさんの働き方をうかがうと、形式的には家政婦紹介所からの紹介で、いわゆる一般的な「家政婦」として、有料職業紹介(職安法4条3項)の体裁で、老人ホームの入居者の居室で身の回りの世話をするというものだった。

 しかし、仕事の内容は、掃除・洗濯・食事の用意といった日常家事は中心的な仕事ではなく、全体の仕事の中の一部でしかなかった。具体的には、ストーマー装具(人工こう門のことであり、消化管の疾患などにより、便を排泄するために腹部に造設された消化管排泄孔をストーマーといい、便を貯めるための袋を定期的に交換する必要がある。)交換、食事介助、入浴介助等が中心で、24時間介護の仕事に、居室の清掃等の家事が付加してついているといった程度であった。そして、当該介護に関しては、ケアマネージャーのケアプランに従って行い、介護保険を適用していた。

 つまり、Oさんの仕事の内容は、老人ホーム入居者(特定の一人)の生活全般の「介助」「介護」であって、「家事」はごく一部に過ぎなかったのである。

 しかも、家政婦紹介所での取り決めをみると、「法人の一員(職員)であることを忘れがちである。しかしあくまで組織の一員だ」などと戒めており、あくまでもOさんは家政婦紹介所の組織に所属しており、さらには、家政婦紹介所がOさんの「給料」を支払っていた。源泉徴収も行っている実態であった。
 
 そうすると、Oさんは、家事使用人と見るべきではなく、家政婦紹介所に在籍する介護職員であって、グループホームに派遣されて稼動する労働者とみなければならないのである。

 しかし、家政婦紹介所は、Oさんは家政婦であるとして、日当11,700円しか支払っていなかった。

「家政婦」に介護をさせて24時間労働で日当1万円、残業代なし!

 ここで、Oさんの賃金を計算してみよう(便宜上、週40時間超・休日労働の計算は省略する。)。

 基準となる賃金額が不明であるので、最低賃金で計算してみることにする。当時の東京都の最低賃金は766円だったのだが、労働時間が1日あたり24時間になるので、時間外労働が16時間、深夜労働が7時間となるため、1日で22,788円という計算になる。日当が11,700円であるから、毎日11,088円の未払いという計算になる。24時間勤務の対価が22,788円ということ自体が驚異的な低さではあるが、毎日1万円超の未払いということもまた驚異的である。

 そして、24時間勤務とすれば、毎月の残業時間は、500時間を超えることになる。実際のところ、夜間は被介護者の部屋で仮眠となるため不活動時間もそれなりに多いが、24時間対応を要請されていることには変わりが無い。

 実は、この裁判、先程登場した、Oさんの息子(元バンドマンで探偵)が自ら訴状を作成して訴えを提起していた。家政婦紹介所に代理人が就いたため依頼となった訳である。

 訴訟の途中から介入していくのはやりにくいが、①稼動の実態は、「家事」ではなく「介護」であり、労働者に該当すること、②家政婦紹介所の基本指示に従い、個別の指揮命令をするのが入居者であることから、実態は派遣であることという主張を中心に組み立て直し、未払残業代を計算し直して、改めて主張することにした。

 会社側の代理人は、就労時間が24時間であることについて、「24時間契約の家政婦だから当然である。」「何の問題も無い。」と回答し、裁判期日の度に、「家政婦なのだから(訴訟を)取り下げたら如何か。」と言っていた。まさにブラック企業に寄り添うブラック士業というべきだろう。

 この裁判は東京地裁立川支部に係属していたが、裁判官も本件の働き方の酷さを見て、これは、救済しなければならないと考えたのだろう。毎回、原告の働き方の実態や、どのような指示が出されていたのかについて、資料提出を求める等、労働者であることを固めるような訴訟指揮をしていた。

 会社側は尋問においても、そのブラックぶりを遺憾なく発揮した。会社の代表者は、会社側の代理人からの質問には答えるが、こちら側からの質問には、「よく覚えていません。」「忘れました~」といって何も答えないという態度で、ブラック企業を絵に描いたような人物であった。

 試しに、会社の代理人が聞いたことと同じ質問をしたところ、「覚えていません。」と回答した。態度が徹底している。この態度には、さすがの裁判長もブチ切れて、「きちんと答えなさい。」と指示をだしていたが、それでも、「忘れました~」を連発した。

 結果、原告は労働者であると認定され、未払賃金・残業代の支払いを命ずる判決となり、会社は控訴したが、高裁で十分な水準での和解となった。

 あまりにも信用できない会社&代理人であったため、和解金は席上での交付となり、帰り道、大金を抱えて緊張したことを覚えている。

【関連条文】
家事使用人の労働基準法適用除外 労働基準法116条2項
労働時間の規制 労働基準法32条
残業代の計算 労働基準法37条
日本の最低賃金 最低賃金法

(弁護士 上田裕/つきのみや法律事務所 http://www.tsukinomiya-law.jp/)
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.09.13 11:49

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