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百田尚樹『日本国紀』批判で出版中止に追い込まれた津原泰水が幻冬舎の説明に真っ向反論! 言論封殺の経緯を告白
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問題の発端! 百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎)
百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎)の“コピペ問題”をTwitterで批判してきた作家・津原泰水氏が、自身のTwitterで「幻冬舎から文庫出せなくなった」と“告発”したことが、大きな波紋を広げている。
すでに毎日新聞(16日ウェブ版)が詳しく報じているが、津原氏はこの4月、幻冬舎から小説『ヒッキーヒッキーシェイク』の文庫版の刊行を控えていた。幻冬舎のPR文芸誌「PONTOON」での連載を経て、2016年に単行本として出版。同年の織田作之助賞の最終候補にもなった作品だ。
ところが、昨年から進めてきた文庫化の作業が大詰めを迎えていた年明け、事態は急展開を迎えた。津原氏によれば、〈ゲラが出て、カバー画は9割がた上がり、解説も依頼してあった〉にもかかわらず、突然、幻冬舎からの文庫出版が中止に。結果として6月に早川書房から文庫版を出すことになったのだ。津原氏はその経緯をこのようにツイートしている。
〈正月あけ、担当を通じ、『日本国紀』販売のモチベーションを下げている者の著作に営業部は協力できない、と通達されました。「どうしろと?」という問いに返答を得られることなく、その日のうちに出さない判断をしたとのメール。それ以前の忠告警告はありません。〉
たしかに、津原氏は昨年11月に幻冬舎から『日本国紀』が刊行されて以降、同書の“Wikipediaからのコピペ”や“出典明記のない引用(剽窃)”、あるいは騒動をめぐる百田氏、幻冬舎側の対応にかんして批判的なツイートをおこなってきた。百田氏本人にも〈ただ残念に思いますのは、百田さんが、盛んに指摘されているウェブからの大量無断引用への見識をお示しにならない事であり、その点が唯一の引っ掛かりです〉(2018年12月11日)などのリプライを飛ばしている。
つまり、幻冬舎は“『日本国紀』批判”のツイートを問題視して、津原氏の作品の文庫化を中止したということなのか。事実だとすれば、表現の自由を擁護し出版文化を担うはずの出版社が、自らそれを抑圧・封殺したということになる。
本サイトは15日、事実確認のため幻冬舎へ取材し、津原氏の複数ツイートを挙げながら具体的に回答を求めたところ、幻冬舎総務局はメールで一括して回答した。全文を引用する。
〈文庫化を一方的に中止したという津原氏のご主張は、事実ではありません。
2018年末から2019年初にかけての、津原氏の『日本国紀』に関する膨大な数のツイートに対し、担当編集者として「さすがにこれは困ります」という旨、ご連絡を差し上げたのが年初のことです。
そして、担当編集者と津原氏が電話で話をする中、「お互いの出版信条の整合性がとれないなら、出版を中止して、袂を分かとう」と津原氏から申し出がありました。
その後、弊社内で協議検討し、出版中止することを了承する旨をメールで連絡いたしました。
尚、津原氏のご指示で、制作に関する関係各所への連絡は担当編集者が行い、それまでの制作経費は弊社ですべて負担いたしました。また、津原氏からの出版契約の更新不可のお申し出を受諾し、その後、他社で文庫化される際のロイヤリティも放棄しております。〉
見ての通り、幻冬舎は“「袂を分かとう」と言い出したのは津原氏である”と主張する一方で、津原氏に『日本国紀』へ批判的なツイートをやめるように言ったことは認めた。つまり、幻冬舎社内で“日本国紀批判”が問題視されて、『ヒッキーヒッキーシェイク』の文庫化が中止になったという大きな流れは、やはり事実だったのだ。
しかし、両者の主張には食い違う部分があるし、幻冬舎側の回答は何らかの物証を示して行われたものでもない。そこで16日、本サイトはあらためて津原氏に電話で話を聞いた。
津原泰水が「誰が文句言ってるの? 見城さんなの?」と問うと、幻冬舎編集者は…
たとえば、幻冬舎側が主張するように、津原氏から「お互いの出版信条の整合性がとれないなら、出版を中止して、袂を分かとう」と言ったのか尋ねると、「そんなことがある訳ないじゃないですか」と明確に否定した。
「そもそも『出版信条』なんて言葉を僕は使いません。出版社じゃないんだから。作家なら『執筆信条』あたりですが、文庫化なんだから『推敲信条』? 作家がそんなことを言うわけがないですよ。(日頃から)信条、信条と発言されるのは見城(徹・幻冬舎社長)さんですよね? 4月刊の本で1月といえばゲラが大詰めを迎えて、イラストレーターから仕事もカバーが上がっている段階で、仮に『袂を分かつ』なんて言い出したら、僕もですけど幻冬舎側も大損なんです。『はい、そうですか』と引き下がってくれるわけがない」
津原氏は本サイトに対して“文庫出版中止”となった経緯を詳細に語った。幻冬舎側が「担当編集者として『さすがにこれは困ります』という旨、ご連絡を差し上げたのが年初」と主張している点について、津原氏はこう説明する。
「1月8日になって、急に担当編集者からそういう話をされました。旧年中は一緒に食事をしながら『なに考えてんでしょうね』なんて笑っていたにも拘わらず、です。朝、メールが入っていて、進行中だったゲラのことに加え、〈津原さんのツイッターについても……。社内でも「どうしてここまで」と白い目で見られ、私も肩身が狭く居心地が悪くなってきました。窮状をお察しいただき、一度、お話できないかと思っています〉とあった。久々に携帯電話を確認したら、すごい数の着信履歴で、これはただごとではないと思ってかけると、重たい口振りで、『じつは社内でですね……津原さんの……まあツイッターでの……』ともごもご言っている。『なにかまずいこと書いたかな?』と尋ねてもはっきり答えない。『日本国紀?』と訊いたら『ええ……まあ』。でも『僕はどうすればいいんですか?』と訊いても、言葉を濁されるばかりで埒が明かないんですよ。はっきり『批判をやめろ』と言えば強要になると思ったからでしょうか。仕方なく『誰が文句を言ってるんですか? 見城さん?』と問い詰めたら、『まあ営業の……』『営業の誰?』『営業の……部長です』と」
同日、この電話の後、担当編集者から送られてきたメールには〈会社に来て、いろいろ考えてみましたが、『ヒッキーヒッキーシェイク』を幻冬舎文庫に入れさせていただくことについて、諦めざるを得ないと思いました〉と書かれていた。つまり、事実上、1月8日には担当編集者から“文庫化中止の通達”がなされていたことになる。
津原氏によれば、幻冬舎に正式に契約更新をしない旨の通知をおこなったのは2月22日。担当編集者からの返信のメールには、1月8日を振り返っての〈実際に社内でこの作品(引用者注:『ヒッキーヒッキーシェイク』)に味方する人はもういないと考え〉との文言もあったという。津原氏の担当編集者もまた、幻冬舎内で孤立していたことは想像に難くない。
幻冬舎・見城徹社長の「こちらから文庫化停止は申し上げていない」という主張に反論!
他方、前述のように16日朝、毎日新聞がこの問題を詳報すると、幻冬舎の見城徹社長と百田氏も相次いで反応した。〈こちらからは文庫化停止は一度も申し上げておりません〉〈全く平和裡に袂を分かったのが経緯です〉(見城氏)などと主張し、〈津原氏はなぜトラブルのあった時に何も言わず、数ヶ月も経った今になって大騒ぎしたのか〉(百田氏)などと投稿。さらに見城氏は、幻冬舎が出版した津原氏の作品の実売数を晒すなど、明らかに出版人としての矩を超えた攻撃まで加え始めている。
「ひとつハッキリしておきたいのは、『津原と担当編集者の折り合いが悪かっただけじゃないか』といった憶測が飛んでますけど、まったくそういう話ではないということ。担当とは長年の知り合いで、親友といってもいい。『ヒッキーヒッキーシェイク』という作品は、彼からの数年にわたる請願に応じて創りあげたものです。期待に応えるべく僕も人脈のかぎりを駆使し、ビートルズのレコードジャケットを手掛けられた伝説的アーティストのクラウス・フォアマンさんまで巻き込んで、企画段階から加わっていただいた、思い入れの強い作品です。チームのつもりだった。それがこんなことになってしまってね……僕も苦しい。だから幻冬舎からの文庫化中止を告げられたことも、(第三者からのツイートで)“津原何とかって作家と百田尚樹の日本国紀騒動はもしやプロレスだったのでないかと疑っている”なんて言われるまでは、ずっと黙ってきたのです」(津原氏)
『日本国紀』を批判したツイートについても、津原氏は「僕は『日本国紀』を買うなとも悪書だとも言ってません。問題だと思うのはウェブからの引き写しが明記されていないことと、その事実が知れわたった後の対応。幻冬舎の本はどれもそうだと思われては困るから、謝罪すべきところは謝罪してほしい、そうすればむしろ関係者の株が上がる、と表明する必要があった。販売妨害などというのは言いがかりです。僕にそんな影響力があるはずもないし」と強調した。
いずれにしても、本来、自由な言論を守る側にある出版社が、自社出版物でもないネット上での“『日本国紀』批判”を強く問題視し、ツイートをやめるように作家へ言ってきた。その結果、幻冬舎からの津原氏の作品の文庫化が中止になった。これは幻冬舎側も認めている。その意味を問い直さねばならない。
津原泰水「ヘイトスピーチへの抵抗さえ反日的とされる情けない状況に慣れてはいけない」
本サイトの取材に幻冬舎総務局担当者は「津原氏に『さすがにこれ(=『日本国紀』批判ツイート)は困ります』と伝えたのは担当編集者個人の判断」と言うが、津原氏の証言や保管するメールを見る限り、より上層部からの指示、あるいは何らかの“忖度”があったのはほぼ確実だろう。津原氏も「今にして思えば、正月明けに連絡があった時点で、結論はくだっていたのだという気もします」と頷く。
周知の通り、『日本国紀』をめぐっては、コピペ問題等で世間から大きな批判をあびるなか、昨年末、安倍首相がFacebookで〈年末年始はゴルフ、映画鑑賞、読書とゆっくり栄養補給したいと思います。購入したのはこの三冊〉との文言とともに画像をアップ。完全にPRに加担していた。それは『日本国紀』が“安倍応援団”によって送り出されたものであるうえに、内容も「日本はアジアを侵略していない」などと先の戦争を肯定しながら「悲願」の改憲を猛プッシュする内容であることと無関係ではないだろう。
いま、幻冬舎の件を“告発”した津原氏のTwitterには “安倍応援団”のネット右翼アカウントが殺到し、炎上させようと攻撃をしかけている。本サイトが津原氏に、“日本国紀批判”をめぐる幻冬舎やネトウヨの過剰反応について聞くと、少し考えてからこう語った。
「時期的に安倍政権になってから、たとえば嫌中韓感情ですね、そういったネガティヴな感情を正当化する思考のテンプレートが広まり、そこから逸脱するのを恐れる層が拡大したのは感じています。物事を個別に見ることなく、ヘイトスピーチへの抵抗さえ、反日的、左翼的、とテンプレート思考して憚らない人間に満ちた、情けない国になってしまった。その状況に慣れさせられてはいけない、見苦しいものには見苦しいと反応するべき、安っぽいナショナリズムに酔っていては何も見えなくなりますよ、と、そういったことは当然、僕はTwitterでも言いますよ。そんな発言さえできないのなら、何のためのSNSですか。商売のためのツールなんですか? 違いますよ。借り物でも真似事でもない、言論のためにあるのですから」
いずれにしても、確かなことがひとつある。出版社が権力者に対して擦り寄れば、健全な言論環境は破壊される。政権応援団への批判がタブーにされることは、すなわち、政治権力批判がどんどんタブー化しつつある現実の射影なのだ。
(編集部)
最終更新:2019.05.17 09:29
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