ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第27号

2代目社長がパワハラでベテラン社員をいびり出し! 「奴隷になれ」暴言連発、延々やり直し命令、接待ゴルフでも…

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2代目社長がパワハラでベテラン社員をいびり出し! 無理難題押し付けては「奴隷になれ」「飛び降りろ」の暴言連発の画像1

「ブラ弁は見た!」も2周目に突入ということで、久しぶりに私にお鉢が回ってきた。久しぶりということもあり、どんなブラック企業のことがよかろうかと考えていた。たとえば、正社員で入社したのにいつのまにか業務委託契約を結ばされて、給料が5万円になってしまった話や男性社員が育休をとったら懲戒解雇されてしまった話、死ぬほど働かされて病気になって休職したら会社が就業規則を変更して休職期間を短くしてきた話など、悲しいことに挙げればキリがない。

 そんな中で、今回は、会社のナンバー2だったのに、社長が代替わりしたため、新社長から壮絶なパワハラを受けた話を紹介したい。思えば、昨年はスポーツ界、芸能界、政治界とハラスメントが話題になった年だった。以下の話は、残念ながら「よくある話」かもしれない……。

 舞台は地方のある中堅企業である。機械の部品製造をする会社で、創業者が一代で築き上げ、事件当時で創業40年以上、派手さはないが堅実な仕事で信を得てきた優良企業といっていいだろう。ここに創業15年ほどのタイミングで入社したX氏。営業職をまかされ、会社のために献身的に働き、創業者からの信頼も得て、少しずつ重要な仕事を任されるようになる。入社から20年ほど経った時には、会社の役員ではないものの、重要な社員として重宝されていた。

 ところが、創業社長が急逝したころから、会社の雲行きが変わってくる。

 創業者の息子が二代目社長となると、なぜか上層部の人間が辞めていくのである。当時のナンバー2であった取締役事業部長が突然退職、その後任に就いた者も数年で退職してしまったのである。次々と上が空くので、X氏は「出世」し、ついにはナンバー2と目される順番にまでなった。

 しかし、これが悲劇の始まりであり、なぜ上の人たちが辞めていったのかを身をもって知ることになるのである。

 優良企業と言っても、中規模の企業である。部品販売先は大手企業が多く、どうしても値段を下げろという圧力かかる。他方、部品を納めた先が中小企業の場合は、お金を払わずに倒産してしまうことなども、珍しい話ではない。そうした中で、X氏は、大企業からの値下げ圧力、中小企業の倒産リスクの中で、会社になんとか利益をもたらそうと粉骨砕身の努力をしていた。

 ところが、ある時、部品を納めた企業が倒産するという事態が発生した。未回収金が出てしまったのである。このことをX氏は社長に報告すると、社長は「その上の会社から回収してこい」と命令を出した。「その上の会社」とは、倒産した会社に発注している会社である。

2代目社長がパワハラでベテラン社員をいびり出し! 無理難題押し付けては「奴隷になれ」「飛び降りろ」の暴言連発の画像2


 ここでいう「上の会社」から倒産した会社の未回収金を回収するというのは、かなり無茶なミッションである。法律的には、「上の会社」とX氏の会社とは契約関係に無いのだから、お金を請求する筋合いがない。そのため、X氏も、「それは難しいのではないでしょうか」と意見を述べていたが、そんなことを一切意に介さない社長は、命令を撤回することはなかった。

 社長から命令を受けたX氏は、「お願いベース」でやるということで、まずは「お願い」の文書を作成し、社長に見せた。すると、社長は、文面を一瞥すると、「やりなおし」と冷たくいうのであった。X氏は、「どこが悪いのでしょうか?」と問うと、社長は「ばかやろう!俺が1回でOK出すわけがねえだろう!」と怒鳴りつけた。内容の問題ではないのである。

 なお、社長は二代目、X氏は当時入社30年近いベテランである。年齢も社長よりX氏の方が10歳以上も上である。

指示通り修正しても延々とやり直し命令、接待ゴルフでも「帰れ」「帰るのか」

 どう変えたらいいか分からないX氏がデスクで頭を抱えていると、社長室から出てきた社長が、X氏の作った文案に赤ペンで訂正箇所を指摘した。X氏は、その指示通りに訂正し、社長に見せるのであるが、やはりやり直しを命じられるのである。X氏は混乱したが、さらにやり直しを命じられた個所を直して、再度持っていき、また、やり直しをさせられる。そんな理不尽なやり取りを何回も行ったところで、ようやく「ま、こんなもんだろ」という捨て台詞とともに、文案が決裁された。

 その後、X氏は、部下とともに、「上の会社」へ交渉へ行った。極めて難しい交渉であったが、粘り強い交渉で、未回収金を回収することはできなかったが、この会社と取引をすることなど、諸々の条件を勝ち取り、未回収金の金額以上の成果を得ることができた。

 この会社との新しい取引が始動することになり、X氏ら交渉担当者と、社長、そして、「上の会社」の担当者らが、挨拶をかねた食事会を開いていたところ、みんなでゴルフへ行こうという話となった。具体的な日付や場所まで決まったところで、社長は「Xはなしだな」として、X氏だけを排除する発言をした。理由は、X氏は未回収金を回収できなかったからだという。

 しかし、酒席での発言であるので、X氏は、もしこの言葉通りにゴルフに参加しなれば、あとで社長にどやされると感じ、ゴルフの日には行くことにした。

 ゴルフの日の当日、クラブハウスでX氏を見た社長は、鬼の形相となり、「なんで来たんだ、ばかやろう!」と大声を出した。周囲の人たちが一斉にX氏や社長を見る中で、X氏はいたたまれなくなり、「では、帰ります」と述べると、今度は「受付はしたのか?したなら金を払ってから帰れ、ばかやろう!」と述べたのである。そこまで言われたX氏は、「わかりました」と述べて、席を立つと、社長は「本当に帰るのか、ばかやろう!」と再び大声を出したのである。

 X氏は、どうすればいいのか分からず立ちすくんでいると、社長は「AさんとBさんの分は私が払います」と、取引先の人の分を払うと言ったあと、X氏に向かって「お前は自分で払え、ばかやろう!」と述べたのであった。ゴルフのプレイ中も、X氏は社長から怒鳴り続けられた。あまりにX氏がかわいそうに見えたのか、キャディの女性から、「もう少しで終わるからがんばって」と励まされる始末であった。

 この一件から、X氏は、社長の顔を見るだけで、緊張を感じ、動悸が激しくなるようになった。

無理難題を押し付け「飛び降りろ」「俺の奴隷になれ」と暴言連発

 あるとき、某企業からの値下げ要求が厳しさを増し、どうしても値下げをしないと取引自体を切られる事態となりかねない状況が生じた。ところが、社長は、逆に「製品をセットにして値上げする交渉をしろ」とX氏に命じた。またもや難題をぶつけられたX氏は、それでも一部を値上げするような要請を某企業に対して行った。

 帰社したX氏を、社長が社長室に呼び出した。

社長「値上げの資料を提出したのか」
X氏「一部ですが提出しました」
社長「なに、一部? ばかやろう死んじゃえ、飛び降りて死ね、俺は全部の値上げをしろと言ったんだぞ! 死ね、早く。ばかやろう」

 怒りの形相となった社長は、自分の顔をX氏の顔に近づけて怒鳴りつけたのである。

 そして、さらに、「お前は俺の奴隷になれ、完璧に追い詰めてやる、絶対に辞めさせねえからな、逃げたって無駄だからな、ドアーを開けたらどうするかわかってんだろう、足を出して閉められねえようにするんだ、俺は何回もやっているんだ」と脅すのである。

 あまりの剣幕にX氏はその場から動けなくなり、頭の中では「本当に飛び降りて死んだら楽になれる」と思ったのだという。

 その後、値上げがうまくいくはずもなく、いらだった社長は、X氏に当たり散らした。そして、「これからはお前を徹底的に追い詰めて監視してやるからな、1日3回俺のところへ来い、いいな」と述べ、実際にX氏を1日に3回呼びつけて怒鳴り散らした。怒鳴る中で、社長は、「辞めてもいいよ、ただ300万円払えよ」と述べ、実際にはX氏が辞められないように追い詰めていった。

 こうしたことが続いたため、X氏は食欲減退、手のしびれ、動悸など、体調に異変が生じ始めた。そして、ついに、ある朝、吐き気と倦怠感で起き上がることができなくなってしまった。ようやく、会社に休暇の電話をしたものの、社長のことが頭から離れず、今にでも社長が家に来るのではないかと思うようになり、怖くて家にいられず妻の実家に行き、そこで寝泊まりするほどであった。

 その後、X氏は精神科で診察を受け、「反応性うつ病」と診断され、その診断書と欠勤届を会社にFAXで提出した。

労働審判で社長が「Xのそういうところがムカつく」と暴言

 ただ、いずれは会社に戻らなければならないと思ったX氏は、そのまま復帰すればまた社長からパワハラを受けると思い、一人でも入ることのできる労働組合に加入して、身を守ろうと考えた。X氏の加入した労働組合は、会社にX氏の職場環境を良好なものとするよう求める団体交渉を申入れた。実際に何度か団交が行われたが、当の社長は一度も出席することがなかった。

 団交を重ねるうちに不思議なことが起きた。ある日、会社から労働審判が申立てられたのである。

 労働審判とは、解雇や残業代など、労働問題が発生したときに、労働者が会社を相手に起こすことが多い。しかし、このケースでは会社が起こしてきたのである。もちろん、法律上、労使どちらが起こすこともできるが、統計的には会社(使用者)の申し立てる労働審判は非常に珍しいといえるだろう。

 労働審判の当日には、さすがに社長も出席してきた。当然、X氏が社長から言われた数々の暴言が話題になる。社長は必死に否定していたが、X氏の業務遂行に関するところで、つい「そういうところがX(呼び捨て)のむかつくところなんだ」と述べてしまう場面があった。その労働審判の場にいた全員が何かを察した瞬間であった。

 結局、X氏は、退職することで和解となった。会社が支払った金額は秘密なので正確な数字は言えないが、X氏の定年までの残りの年数を考慮したもので、かなりの高額となった。

 私は、これだけのお金を払うはめになって、この二代目ワンマン社長は一体何がしたかったのか、大きな疑問を感じた。いろいろな労働事件を見ていると、労働者と会社の相性が合わず、会社としては、この人を追い出したいんだろうなぁ、ということが手に取るようにわかることもある。しかし、このX氏は、むしろ社員の中でも好かれている人で、能力もあり、会社への貢献も長く、なぜ追い出そうという気持ちが芽生えるのか、全く分からない人物であった。ただ、X氏よりも前の役員たちも不可解な退職をしているところを見ると、二代目社長は、もしかしたら創業社長にかわいがられていた従業員を追い出したかったのかもしれない。

 いずれにしてもパワハラは誰も幸せにしない。パワハラのない職場環境を作ることの重要性を感じた事件で、印象に残っている。

【関連条文】
労働者への安全配慮義務 労働契約法5条
労働審判手続 労働審判法

(弁護士 佐々木亮/旬報法律事務所 http://junpo.org

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.03.09 12:59

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