琴光喜恐喝で逮捕された大相撲野球賭博のキーマンが告発本を出版! 相撲界と警察の捜査の内情を暴露

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『ヤクザより悪い男たち』(宝島社)

 2010年の夏場所が開かれている最中に明るみとなり、琴光喜や大嶽親方(元貴闘力)が日本相撲協会から解雇。また、多くの関与力士が謹慎休場となった大相撲野球賭博問題。この捜査過程で、押収していた力士の携帯電話から八百長を示唆するメールが発見されると、翌年には大相撲の八百長問題にまで発展。11年春場所の開催が中止になるなど、相撲界が揺れに揺れた問題は記憶に新しい。

 その事件で、琴光喜を恐喝したとして逮捕。懲役4年6カ月の実刑判決を受けた古市満朝氏が著書『ヤクザより悪い男たち』(宝島社)を出版。そのなかで、この件はでっちあげであると告発し、話題となっている。

〈これだけははっきり言っておきたい。この事件の「真相」はこれまでどこにも書かれていない。
 確かに俺は、野球賭博をした。自分でも大金を張ったし、他人の玉(賭け金)を受ける中継もやった。
 だが、俺は琴光喜から350万円を「恐喝」したことはないし、およそ5年もの間、塀の中に閉じ込められなければならないような罪は犯していない〉

 古市氏は、1988年3月場所で初土俵を踏んだ元相撲取り(同期には若貴兄弟や曙などがいる)なのだが、1997年に引退してからは、飲食店や風俗店の経営をしていた。そんな彼が野球賭博に手を染め出したのは、相撲の世界から離れ、デリヘルチェーンのオーナーとなり大金を手にし出してからのことだった。

 古市氏の著書によれば、それと時を前後して、相撲界でも野球賭博がまん延し始めていたという。野球賭博の特徴は「現金がなくても賭けられる」というところにある。手元に現金がなくても、信用さえ残っていれば、賭け続けることが可能だ。しかし、口先ひとつで金を動かすため、その結果、理性を失った人間はいつの間にか自分の支払い能力を超えた額の借金を背負うことになり、金を払えなかったり回収できなかったりといったトラブルが頻発するようになっていく。

 相撲の世界における野球賭博も、まさしくその状況にあった。琴光喜もそれで困っていたひとり。彼は勝ち金が500万円あったのだが、胴元が金に困り出し渋っているため回収するのに苦労していた。かといって現役の大関が大っぴらに圧力をかけることもできない。その話を聞いた古市氏は琴光喜に対し、自分が代わりに取り立てを行う提案をする。

 その結果、500万円のうち250万円を取り立ての報酬、そして100万円を経費、合計350万円を先払いでもらうことになるのだが、その後「週刊新潮」(新潮社)の報道などにより野球賭博が社会問題化すると、この350万円が琴光喜を「恐喝」して得た金ということになり、古市氏は10年6月に逮捕されることになるのだった。

 古市氏は取り調べ中何度も否認していたのだが、起訴までの勾留期限が近づいてきたある日、刑事は突然「古市、頼むから認めてくれ。お前の家族も、相撲取りもこれ以上パクりたくない」と、家族をだしにして脅しをかけてきたと言う(彼の弟も相撲取りで野球賭博に関わっていた。結局この取引の直後、賭博開帳図利罪で逮捕されている)。その結果、古市氏は意に添わないながらも恐喝をしたと証言をすることに。

 警察側がこんな取引をしてまで恐喝で逮捕者を出したかった理由について、古市氏は野球賭博を資金源にしていると思われる暴力団にメスを入れたかったからではないかと推察している。

 しかし、野球賭博と暴力団の関係について古市氏は〈いまの野球賭博を支配しているのは主にカタギだ。ヤクザはむしろ「客」であって、利ざやを抜かれる側なのだ〉と語る。結局、この件でも暴力団の胴元を立件することはできなかった。

 昨年起きた、笠原将生選手らジャイアンツの4選手が野球賭博に関与していた事件でも、現在公判が続けられ、暴力団の資金源になっていないか調査が続けられてはいるが、決定的な証拠はいまだ掴めずにいる。仮に古市氏の主張する通りであるとしたら、今後もそのような証拠は出てくることはないだろう。

 野球賭博問題はこの後、力士から押収した携帯に残っていたメールにより八百長問題が明るみになり、世間の興味は八百長問題へと急激にシフトしていくことになるのだが、古市氏はその裏にも警察側の思惑があったのではないかと主張している。

〈この事件は、警視庁が進めていた一連の野球賭博事件の捜査の過程で、力士や関係者の携帯メールのなかに「八百長」の存在を示す内容のものが含まれていたため、警視庁が「公益性」を理由に、文部科学省にデータを提供したというものだ。
 これによって何が起きたかと言えば、世間の目はいっせいに分かりやすい「八百長問題」へスライドし、この野球賭博問題の「尻すぼみ」な幕切れには、誰も関心を払わなかった。
 何が言いたいかと言えば、この八百長メール事件は、間違いなく警視庁の「情報操作」ということだ。
 野球賭博問題で、暴力団の組織的関与という大きな水揚げを狙いながら、まったくその部分について解明できなかった。その腹いせと捜査に対する批判逃れのために、あえて八百長メールをリークしているのだ。これは、ある意味恐ろしいことだと俺は思う〉

 古市氏が著書で主張していることがどこまで真実なのかは分からない。ただ、前述のジャイアンツ選手野球賭博問題でも執拗に暴力団の関与を追い、結局その証拠を掴めていないことを考えると、説得力をもつ話ではある。

 古市氏からの告発は以上の通りなのだが、本書にはこれ以外にも暴力問題、賭博、八百長など、相撲界に巣食うスキャンダルについての詳細が綴られている。

 ここのところ相撲界ではスキャンダルが頻発し、数々の問題があぶり出されてきたが、それらの反省は今もまったく活かされていないということなのだろうか。同書は、こんな相撲界への批判で締められている。

〈俺が刑務所に入ってからも、相撲協会は北の湖理事長と九重親方(元横綱・千代の富士)、貴乃花親方らが権力闘争を繰り広げ、そのたびに妖怪のような連中が内部で暗躍しながら、公益財団法人とは思えないスキャンダルがいくつも表沙汰になった。
 結局、俺の事件や八百長メール事件で得た教訓など何もなくて、本当にこの世界から退場しなければいけない奴らだけが、のうのうと生き残っている。それが現実だ〉
(井川健二)

最終更新:2016.07.19 11:04

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