「酒離れ」の本当の原因は貧困にあった! 一億総「中流酒」崩壊…格差社会の日本は金持ちだけが酒を飲める社会に

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橋本健二『居酒屋の戦後史』(祥伝社)

「若者の酒離れ」という言葉がメディア上で盛んに使われるようになって久しい。その理由として、飲み会文化の衰退、インターネットやゲームといった別の趣味に余暇を奪われているといった要因があげられているが、果たして本当にそうなのだろうか?

 飲酒習慣と所得に関する統計を見ていった結果、その理由は「格差」にあることが浮き彫りとなった。「若者」が酒離れをしているのではない。「貧乏な人」が酒離れしているのである。

 理論社会学および階級・階層論を専門とする早稲田大学人間科学学術院教授でありながら、居酒屋めぐりの趣味が高じて『居酒屋ほろ酔い考現学』(毎日新聞社)なる本も執筆している橋本健二氏は、『居酒屋の戦後史』(祥伝社)のなかで、〈所得の減少と格差拡大が、非飲酒率を上昇させている。この傾向は、格差拡大が続く限り、止まらないと考えなければならない〉と綴っている。「酒離れ」の原因は「格差」であると断じているのである。いったいどういうことなのか?

 まず、日本人はどれほどお酒を飲まなくなってしまっているのかについて見ていきたい。本書でも引かれている「国民健康・栄養調査」のデータによると、週3日以上、1日につき日本酒換算で1合以上飲む20代男性の割合は、1995年時点では34.9%いたのに対し、2010年には14.7%まで下落してしまっている。ちなみに、この減少は若年層に限ったことではない。全年齢層まで対象を広げると、1995年の54.4%から2010年の35.4%まで減っている。

 わずか15年で日本人とお酒との関係は一気に薄くなってしまった。しかし、酒との付き合いが薄れたのはすべての日本人ではない。収入に関するデータと照らし合わせてみると、ある一定以上の階層の人々の飲酒習慣はまったく変わっていないと橋本氏は主張する。

 JAGG調査データによると、酒をまったく飲まない人の比率(非飲酒率)は、2000年に8.6%だったのが、2010年になると16.4%まで上昇する。しかし、これを収入別で分けてみていくと興味深い事実が浮き彫りとなる。年収が低ければ低いほど非飲酒率の上昇は激しくなるが、年収650万円以上の人の非飲酒率はほとんど変化がないのだ。

 その上昇幅は、450万円〜650万円で4.7%、100万円〜250万円で12.1%に達する。もしも「生活習慣や嗜好の変化」が酒離れの原因なら、高所得者層でも非飲酒率は上昇しているはずだ。しかし、そうはならず、所得が高い層の非飲酒率はほとんど変わらずに、所得が低い層のみ非飲酒率が上昇しているデータから、「酒離れ」の本当の理由が見えてくる。

 ここまでで「酒」と「格差」の興味深い関係が分かってきた。ただ、話はこれで終わりではない。橋本氏は、格差が広がるにつれ、人々の飲む酒の種類にも変化が見られるようになっていることを発見する。

 全国消費実態調査が出したデータを見ていくと、高度経済成長期の1974年は、下位20%の低所得者層で焼酎、上位20%の高所得者層でウイスキーの消費額が多いという傾向はあるものの、日本酒とビールを中心に、どの階層の人もだいたい同じような酒を同じような量飲んでいた。「一億総中流社会」は「一億総中流酒社会」でもあったのだ。

 しかし、2009年のデータを見ると、その消費パターンは一変する。階層によって飲む酒の種類はくっきりと分化され、皆が同じ酒を飲んでいるという状況は崩壊してしまう。

 最底辺の所得者層で飲まれているお酒は焼酎と酎ハイ、それが中間層へと上がるにつれだんだんと発泡酒の割合が増えていき、年収600万円を境にビールへと切り替わる。そして、ウイスキー・ワインは低所得者層ではほとんど飲まれず高所得者層のお酒として親しまれていく。ワインを例にとれば、上位20%の高所得者層は平均の2倍近く、下位20%の低所得者層の4倍も消費している。このような状況は高度経済成長期には見られなかった現象だ。

 以上のように「一億総中流酒社会」は壊れていった。そして、こうなってくると問題となるのが現在の酒税である。日本の酒税は明らかに逆進税として機能してしまっていると橋本氏は警鐘を鳴らす。

 現在の酒税法では、低所得者層に愛されているお酒ほど酒税が高い。例えば、焼酎の場合(アルコール度数25度の焼酎で)1リットルあたり250円、麦芽25%未満の発泡酒で1リットルあたり134.25円となる。これと比較し、ワインは1リットルあたりわずか80円。しかもワインは値段が高いので税率は極端に低くなる。この逆進税となっている酒税法に関しては議論の余地が十分にある。

 アベノミクスの化けの皮が剥がれはじめ、首相がしきりに強調する「雇用の回復」にしても、正社員の数はほぼ横ばいで、非正規雇用の労働者のみが増えているデータが浮き彫りになっている現在。格差は是正されることなく広がり続けている。このままでは、お酒は高所得者層のみの嗜好品となってしまい、日本酒づくりの伝統をはじめ、これまで我が国が築きあげてきた酒文化も衰退の一途をたどってしまうかもしれない。
(井川健二)

最終更新:2016.08.05 06:41

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