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安保法採決へ! 天皇・皇后が“逆賊”安倍首相に抗した言葉は踏みにじられてしまうのか
『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』(小学館)
ついに、安保関連法案の採決が強行される。戦後日本がかろうじて守ってきた平和主義を根底からくつがえす安倍首相の暴走に、いったい、あの方たちはどういう思いを抱いているのだろう。
そう。明仁天皇と美智子皇后のことだ。本サイトでも報じたように、天皇と皇后は安倍政権の改憲の動きに強い危機感を抱いていると伝えられてきた。おそらく、いま、起きている事態にも相当に深刻な思いを抱いているに違いない。
先月30日、その天皇の思いがひしひしと伝わってくる一冊の本が出版された。タイトルは、『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』(小学館)。著者は、ベストセラーとなった『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル)の矢部宏治氏だ。
〈実は現在の日本で、明仁天皇と美智子皇后ほど大きな闇を体験し、その中でもがき、苦しみ、深い思索を重ねた方は珍しいのではないかと私は思っています〉
〈象徴天皇という大きな制約のもと、折にふれて発信される明仁天皇の考え抜かれたメッセージ。その根底にあるのは、「平和国家・日本」という強い思いです〉(同書・「まえがき」より)
たしかに、天皇はとくに近年、かなり踏み込んだ発言を行っている。たとえば、80歳となった2013年の誕生日会見では、これまでの歩みを振り返って「やはり最も印象に残っているのは先の戦争のことです」と語り、こう続けた。
「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ、改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています。また、当時の知日派の米国人の協力も忘れてはならないことと思います」
現状の平和と民主主義、そして憲法を「守るべき大切なもの」と語るこの言葉は、明確な護憲発言だ。また、憲法をつくった主語を「日本」とし、「知日派の米国人の協力も忘れてはならない」と加えるあたりは、「連合国からの押しつけ憲法論」への反論ともとれる発言である。本書の著者もまた〈「平和と民主主義」を大切にする現在の日本国憲法を、自分は徹底して守っていくのだという強い決意の表明〉だと評しているが、既報の通り、NHKはこの部分だけをカットして一切報じることがなかった。逆にいえば、政権にとってこの発言がいかに都合が悪いものだったかの証拠でもあるだろう。
一方、美智子皇后も同じように、昨年10月20日の誕生日を前にした文書コメントで、「来年戦後70年を迎えることについて今のお気持ちをお聞かせ下さい」という質問に、こう答えている。
「私は、今も終戦後のある日、ラジオを通し、A級戦犯に対する判決の言い渡しを聞いた時の強い恐怖を忘れることが出来ません。まだ中学生で、戦争から敗戦に至る事情や経緯につき知るところは少なく、従ってその時の感情は、戦犯個人個人への憎しみ等であろう筈はなく、恐らくは国と国民という、個人を越えた所のものに責任を負う立場があるということに対する、身の震うような怖れであったのだと思います」
皇后自らがA級戦犯の話題をもち出し、その責任の大きさについて言及する。──これは異例のコメントだが、こちらもすでに本サイトでお伝えしたように、じつはこの皇后発言の2か月前には、安倍首相がA級戦犯として処刑された元日本軍人の追悼法要に自民党総裁名で哀悼メッセージを送っていたことが報道されていた。連合国による裁判を「報復」と位置づけ、処刑された全員を「昭和殉難者」として慰霊する法要で、安倍首相は戦犯たちを「自らの魂を賭して祖国の礎となられた」と賞賛したという。皇后の言葉は、このようなタイミングで出てきたものなのだ。
美智子皇后は2013年の誕生日にも、「5月の憲法記念日をはさみ、今年は憲法をめぐり、例年に増して盛んな論議が取り交わされていたように感じます」 とした上で、以前、あきる野市五日市の郷土館で「五日市憲法草案」を見たときの思い出を語っている。
「明治憲法の公布(明治22年)に先立ち、地域の小学校の教員、地主や農民が、寄り合い、討議を重ねて書き上げた民間の憲法草案で、基本的人権の尊重や教育の自由の保障及び教育を受ける義務、法の下の平等、更に言論の自由、信教の自由など、204条が書かれており、地方自治権等についても記されています。当時これに類する民間の憲法草案が、日本各地の少なくとも40数か所で作られていたと聞きましたが、近代日本の黎明期に生きた人々の、政治参加への強い意欲や、自国の未来にかけた熱い願いに触れ、深い感銘を覚えたことでした」
日本国憲法以前から同じの理念をもった憲法が日本でもつくられていたこと、基本的人権の尊重や法の下の平等、言論の自由、信教の自由などが、右派の言うような「占領軍の押しつけ」などでないこと。美智子皇后はそのことをわざわざ示唆したのだ。
まるで憲法改正の動きに反応したかのようなメッセージを発する、天皇と皇后。だが、“先の戦争”への反省と“平和”に対する思いは、つねづねふたりが口にしてきたことだ。
今年の元旦、天皇が述べた新年の感想は、このようなものだ。
「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。(中略)この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、いま、極めて大切なことだと思っています」
戦争の歴史を正しく知り、未来を考えよう。そのスタンスは、中国や韓国への“謝罪”にもつながっている。1992年、日本の天皇としてはじめて中国を訪問した際、天皇はこう述べている。
「この両国の関係の永きにわたる歴史において、我が国が中国国民に対し多大な苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります。戦争が終わった時、我が国民は、このような戦争を再び繰り返してはならないとの深い反省にたち、平和国家としての道を歩むことを固く決意して、国の再建に取り組みました」
これは「明確な謝罪」といえるものだが、94年に韓国の金泳三大統領を招いた宮中晩餐で、韓国に対しても同様の発言を行っている。
そして、忘れてはいけないのは、沖縄への深い感心だろう。天皇は、沖縄で最初の慰霊碑である「魂魄の塔」について、こんな琉歌を詠んでいる。
〈花よおしやげゆん 人知らぬ魂 戦ないらぬ世よ 肝に願て〉
(花を捧げます 人知れず亡くなった多くの人の魂に 戦争のない世を 心から願って)
この歌を詠む以前、1975年に皇太子として現天皇がはじめて沖縄に訪問した際、ひめゆりの塔で火炎瓶が投げ込まれるという事件が起こった。訪問前から「石ぐらい投げられてもいい。そうしたことに恐れず、県民のなかに入っていきたい」と語っていたと言われているが、それほどに沖縄には、「沖縄が本土防衛のための捨て石にされた」という天皇への怒りがあったのだ。結局、大事にいたることはなく、その後もスケジュール通りに行事は進んだが、ひめゆりの塔のあとに現天皇が向かったのが「魂魄の塔」だった。この日、記者に配られた談話には、こう綴られている。
〈(前略)払われた多くの犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものでなく、人々が長い年月をかけてこれを記憶し、一人一人、深い内省の中にあって、この地に心を寄せ続けていくことをおいて考えられません〉
実際、それ以降、〈皇太子時代に5回、天皇時代に5回の計10回〉と積極的に沖縄を訪問。沖縄で米軍による少女暴行事件が起こった翌年96年には、誕生日の会見で「沖縄の問題は、日米両国政府の間で十分に話し合われ、沖縄県民の幸せに配慮した解決の道が開かれていくことを願っております」と言及している。
平和を希求し、中国や韓国といった近隣諸国に深い反省を述べ、沖縄に思いを馳せる。──こうして発言を振り返ると、天皇と安倍首相は、ことごとく対照的だ。
たとえば、現在、安倍政権は国立大学での入学式・卒業式で国旗掲揚と国歌斉唱を行うよう求めている。が、これにしても、04年の秋の園遊会で米長邦雄・,元棋士に「日本中の学校にですね、国旗をあげて国家を斉唱させるというのが、私の仕事でございます」と言われたとき、天皇は「やはり、強制になるということではないことが望ましいですね」と返答している。著者は、この言葉の意味について、〈天皇という権威をかかげて、国民に法的根拠のない義務を強制する。そうした日本の社会や権力者のあり方が、戦前は多くの国民の命を奪うことになりました。(中略)明仁天皇のこの言葉には、二度とそうしたことがあってはならないという強い決意がこめられています〉というが、そうした反省が安倍政権にはない。それどころか、日本会議との接近や言論弾圧の一件を取っても、戦前回帰を目論んでいるとしか思えない態度だ。
天皇が、安倍政権に危機感を感じていることは折々の言葉を見ればあきらかだが、他方、安倍政権側も天皇の発言を危険視している。事実、今年4月、安倍政権下で教育再生実行会議委員をつとめるなど安倍首相のブレーンとして知られる憲法学者の八木秀次氏は、「正論」(産業経済新聞社)5月号で「両陛下のご発言が、安倍内閣が進めようとしている憲法改正への懸念の表明のように国民に受け止められかねない」「宮内庁のマネジメントはどうなっているのか」と、暗に天皇・皇后を批判している。
しかし、これは飛んだ的外れの批判だ。日本国憲法第99条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という条文がある。そもそも現天皇は戦後憲法によって天皇に即位したのであり、自己の立脚基盤を憲法におくことは当然の話。むしろ、国会議員でありながら、憲法に立脚せず、到底合憲とはいえないシロモノを解釈改憲でどうにかしようとする安倍首相こそが、憲法に反しているのだ。
ついにネトウヨたちから「在日」とまで呼ばれるようになった天皇・皇后。平和な国であってほしいという切実な思いは、安保法制採決によって、このまま踏みにじられてしまうのだろうか。
(エンジョウトオル)
最終更新:2015.07.15 07:04
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