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マツコ・デラックスは昔、もっと過激だった! 朝日新聞に「闘う意志がない」と説教も
ナチュラルエイト公式サイトより
「数字がとれない」と嘆くテレビ業界にあって、いま「救世主」と呼ばれているのが、ご存じ、マツコ・デラックスだ。先日も自身にとってゴールデンタイム初の冠番組『マツコの知らない世界』(TBS系)で、2月17日放送分が最高視聴率となる14.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。『マツコ&有吉の怒り新党』(テレビ朝日系)に『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)、『アウト×デラックス』(フジテレビ系)とレギュラー番組すべてが好調という不動の人気ぶりを見せつけ、4月からは新たに『マツコとマツコ』が日テレでスタートする。
人気の秘密は、もちろんその毒舌、鋭いツッコミにある。最近では「脳内マツコ」という、自分の脳内に架空のマツコを準備し、ことあるごとに叱咤激励してもらう人まで急増しているらしい。もはやテレビも視聴者も、マツコなしでは考えられない──そんな愛されぶりだ。
だが、人気を獲得していくにつれ、マツコ自身の毒っ気は弱まっている。というよりも、ほんの少し前までは、いまよりもっとシャープで、ずっと精彩を放っていた。
たとえば、2008年に行われた朝日新聞出版の論壇誌「論座」(休刊)でのインタビュー。これは女性誌をテーマにした取材だったが、冒頭から「非生産的なオンナよね」と自らを批評。「アンタ、テレビでものをしゃべってるなんて、人間として最下層よ」「新聞社とか、出版社に勤めている人間だってそうよ。なくても誰も死なないものを作ってお金儲けにしているんだから。アタシらみたいな人間が一番、世の中に必要ないのよ」と持論を展開している。
そして、マスメディアの現状についての意見を問われると、マツコはメディアには金が集まることを挙げ、そのことが「人から思考を奪う」と指摘。「お金を儲けようとする電通や博報堂が周りを固めて、そこに利権が発生したりするから、まあ、分かりやすい言い方しちゃうと根腐れするのよね」と、マスコミタブーである大手広告代理店の批判を気負うようすもなく語る。
……まあ、ここまでは現在に通じるマツコらしさがあるが、このあとがすごい。マツコの矛先は、このインタビューが掲載される雑誌の親玉である朝日新聞に移行。「好きか嫌いかで言ったら微妙だけどさ、「産経抄」の方がよっぽどいいわよアンタ」と、朝日のライバル紙である産経新聞のコラムをもちだし、こう繰り出すのだ。
「(朝日は)あれ(産経)と闘わなきゃいけないのに、右だか左だか上だか下だか分からないようなぬるいことばっかり書いて。(中略)いつからか新聞って、公平中立でないといけないものだと見なされるようになって、朝日新聞がその代表になっているじゃない。誰もが不快な思いをすることなく読める新聞をつくろうなんて、初めから闘う意志がないわよ」
読者におもねって保身に走るな──。誤報問題以降、萎縮しっぱなしの朝日新聞の人間にはこのマツコの言葉を叩きつけてやりたいものだが、このように当時のマツコから感じられるのは、“ものの価値とは何か”という問いと真剣に向き合うことから生まれる強い批評精神だ。
「ものの真価なんていうものはさ、人が決めることじゃないし、いいと思っている人がいるんだったらそれで結構なのよ。だけど一方で、それをフォローするというか、凌駕するだけのパワーがあるものを見せないとダメなのよ」
大事なのは、既存の価値に凌駕されないためのパワーを見せること。そうした解をもちながらもテレビに消費されつつあったマツコには、引き裂かれるような思いがあったのだろう。このインタビューでマツコは、「もうさあ、最近、全部にケンカを売りたいんだよね。(中略)アタシ、どこでケンカしたらいいと思う? 有楽町の数寄屋橋交差点とかに立つか。びんちゃんみたいに」と、かの有名な右翼活動家・赤尾敏の名を出して鬱憤を表現している。
「ああやって生きられたらうらやましいよね。残念だけどアタシは、社会順応性や理性が邪魔をして、あそこまで踏み外せないんだよね。女装なんて踏み外したうちに入らないわよ。赤尾敏みたいなことができない人間は、生意気なことを言う資格はないって気持ちが常にあるの。だからすごく嫌なのよ今、自分が。安全地帯から発言しているだけだから」
「魂を売るってこういうことなのねって、日々テレビに出ながら感じてるのよ」──いまから7年前、このように語っていたマツコ。だが、昨年発表したエッセイ『デラックスじゃない』(双葉社)を読むと、どうやらこの悩みはカタがついたらしい。
〈以前は、世の中に向かって刀を振り回すこと、毒舌を吐くことが自分の役割だと思っていた。でも、「テレビが自分の居場所だ」と思うようになって、刀を収めることができるようになったの〉
〈言いたいことだけ言っても、自分の居場所を作れないと思ったの。だから、魂を売ったと思われてもいいの。「マイノリティの意識さえ失っていなければいい」と分かったの。(中略)テレビがものすごく叩かれているメディアだってことは分かっているけど、居場所を作ってくれたという恩義があるから、協力できる力が自分にあるときは、協力しようと思っているのよ〉
居心地の悪さを訴えていた過去とはちがい、いまはテレビこそが自分の居場所である、とマツコは言う。〈自分が考えていること、しゃべりたいことの半分も主張できてない〉ともわかっているが、それも仕方がない。こうして吹っ切れたマツコは、同書のなかで自身を〈要するに、電波芸者なの。お呼びがかかったら、お酌して、お客さんを喜ばせて、またお呼びがかかるのを待つの。別名、マスメディアの犬ね〉とさえ言い切っている。
電波芸者、マスメディアの犬。こんなふうに自認して生きるのは、赤尾敏の行動力を称え、批評精神をたぎらせていたかつてのマツコから見て屈辱的ではないのか。そう感じたりもするが、しかし、この“自己批評”にこそ、マツコの強みがあるのではないだろうか。
「非生産的」「最下層の人間」と自分を貶めながらどんどんと支持を集め、そして、かつて「人から思考を奪う」と攻撃していた電通や博報堂が仕切るトヨタやソフトバンクのCMに出演するまでになった。それでいて、マツコがほとんど批判されないのは、自分の立ち位置を注意深く観察しながら、先回りして自分の手で自分を批評しているからだろう。
そう考えると、マツコという人はとても戦略的で器用な人なのかもしれない。しかも、その器用さを気付かせない。マツコが番組やメディアによって毒の度合いをコントロールしていることに気付いている視聴者がいったいどれだけいるだろうか。
マツコ自身は〈どっちにしろ、いまの人気なんか一過性よ。いつかハシゴを外されることは目に見えている〉と語っているが、きっとそんなことはないはずだ。願わくば、また昔のようにメディアや言論状況に鋭く切り込んでほしいが、器用で自分の立ち位置がわかっているマツコがそれをやることはないだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2017.12.13 09:40
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