徴用工問題は本当に「解決済み」だったのか? 日本政府が60年以上にわたり隠蔽してきた日韓基本条約の欺瞞

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賠償でなく経済協力を提案したのは、日本の外務省だった

 まとめると、今回の大法院判決に対して、日本中でがなり立てられている「完全かつ最終的に解決済み」論は、そもそも請求権協定自体を植民地支配等に関する「賠償」として位置付けなかったこと、ましてや、日本が過去の植民地支配を正当化しているという事実を完全に棚上げしたまま、一部のフレーズだけを繰り返しているに過ぎないのだ。思考停止しているコメンテーターや芸能人はともかく、日本政府やマスコミは“確信犯”としか言いようがないだろう。

 一方で、「それでも国と国が決めた法的取り決めを180度ひっくり返すような司法判断はいかがなものか」と素朴に思う向きもあるかもしれない。しかし、条約締結までの歴史的経緯を振り返れば、そう単純なことではないとわかる。これもまたマスコミが無視している部分なので、簡単に解説しておこう。

 まず、1945年の敗戦からGHQの占領下に置かれた日本は、1951年にサンフランシスコ講和条約へ調印し、翌年の発行をもって本土が独立した(法的な話になるので割愛するが、そもそも日韓基本条約等はサ講和条約に直接的に連関している)。日韓の国交正常化に向けた会談はその1951年、アメリカの斡旋による予備会談から始まった。

 この間、朝鮮半島は米ソの分割統治を経て朝鮮戦争に突入していた。日本は朝鮮特需を経済成長の足がかりとする。一方、韓国は戦勝国の一員としてサンフランシスコ講和条約への参加を望んだが、受け入れられず、他の戦勝国のように対日賠償請求権を得られなかった。これは国家賠償をめぐる軋轢による日韓関係の悪化を警戒した米国の意向という見方が強いが、いずれにしても、時の吉田茂政権と李承晩政権で会談はスタートした。米国は日韓を北東アジア地域における「反共の防波堤」の拠点にすべく、両国の国交樹立を推し進めていた。

 しかし、両国の国内事情や思惑によって日韓会談は何度も中断し、締結までには14年の歳月を要することになる。とりわけ1953年の第3次会談のさなか、日本側代表の久保田貫一郎外務省参与が“朝鮮半島の植民地化は韓国国民にとって有益だった”などの趣旨を述べたいわゆる「久保田発言」は、対日感情が極めて悪化している韓国世論に輪をかけた。当然だが、日本による植民地支配が不当なものであったとの認識は韓国社会で広く共有されていたわけである。

 1960年4月、韓国での学生蜂起(四月革命)で李承晩政権が陥落する。続く張勉内閣は1961年の軍事クーデターで事実上倒れ、朴正煕政権が誕生し日韓国交正常化へと向かう。日本では米国の意向のもと東アジア外交に積極的だった岸信介政権を経て、池田勇人政権が「所得倍増計画」を打ち出している。この時期、韓国の経済復興のため、とりわけ米国の介入によって交渉の早期妥結が目指された。その結果、両国の賠償・補償の認識の溝は埋まらず、日本からの「経済協力」という形で曖昧なままとされた。韓国側が一貫して求めてきたはずの「謝罪」の性質は、結局、玉虫色の表現にして妥協されたわけである。

 近年公開された日韓会談文書の新資料の検討によれば、この請求権問題での「経済協力方式」を創設したのは日本外務省アジア局であったという。1960年7月に、当時のアジア局長の主導のもと起草された文書には、〈日韓会談を早急に妥結するためには、韓国側に対して何らかの経済協力ないし援助を行うことが不可避であり、またわが国にとっても過去の償いということではなしに、韓国の将来の経済および社会福祉に寄与するという趣旨でならば、かかる経済協力ないし援助を行う意義ありと認められる〉とある。

 日本政府として植民地支配などに対する「過去の償い」と位置付けることをどうしても避けたかったことが読み取れるとともに、北東アジアでの経済開発主義(張勉→朴政権と岸信介→池田勇人政権)の連携によって対共優位を進めようとする米国の思惑も反映されていたのだろう。

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