『ふたりの死刑囚』公開直前インタビュー

「名張毒ぶどう酒事件」奥西死刑囚を追いかけたドキュメンタリー製作者が語る、再審を阻む“司法の硬直”

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──最期まで直接の意思疎通はできなかった、と。この『ふたりの死刑囚』では、獄死した奥西勝と釈放された袴田巌が対比的に描かれていますね。どうして袴田事件も扱おうと?

齊藤 奥西さんの取材に限界を感じていたなか、どういう取材をしようかと鎌田と相談しているときに、ちょうど袴田事件の再審開始決定がでて、袴田さんが釈放されました。そこで、もしかしたら、と思ったんです。もちろん、袴田さんは奥西さんではありませんが、同じように長い間拘束されていた袴田さんへの取材をとおして、奥西さんを描けるのではないかと。すると、鎌田が頑張って袴田さんの懐に入った取材してきてくれたので、これは名張事件と袴田事件の両立でいこう、となりました。東海テレビのドキュメンタリーのつくりかたは、最初から構成も台本もまったくないので、タイトルを『ふたりの死刑囚』に決めたのも、取材で材料が集まってからです。

──袴田巌は拘禁反応に苦しめられながらも、徐々に日常生活に溶け込んでいく様子が描かれていますが、劇中で選挙にいくシーンでは選挙権がない。そこで「この人はまだ再審を待つ確定死刑囚なんだ」と、ハッとさせられました。他方でいま、世間では、慣例として再審請求中に死刑が執行されにくいことに対する批判があります。これをどう捉えますか?

齊藤 そういう声が多いのは、やはり死刑存置派が8割という日本の現状を考えれば自然な流れではあるでしょう。一方で、死刑廃止派の人たちもいる。それ自体を否定することはできません。ただ、再審制度はいま、本職の裁判官しか審理していませんが、これは裁判員制度のもとでやったほうがよいのではないか。それは、先ほども言ったように、裁判所のなかに先輩の判決を覆すことができない空気やしがらみがあるから。名張事件について言えば、裁判員の人が再審審理をすれば、僕は、再審開始決定をするんじゃないかと思っていますね。“疑わしきは罰せず”という大原則があり、それが再審制度でもあります。奥西さんには冤罪の可能性がある。だから、ひとりの取材者としては、やはり彼は無辜の市民かもしれないのだから、もう一度調べ直してほしい。そう思います。

『ふたりの死刑囚』が描くのは、厳しい取り調べの末の自白が根拠で死刑判決をうけ、約半世紀を塀の中で生きざるをえなかった人間と、その家族だ。新証拠による再審決定が覆され拘置所で死を迎えた奥西と、釈放されながらも再審の開始を待つ袴田。いまや、事件当時を知る証言者は減り、再審請求を行える親族も高齢となった。本作は“再審の扉”の重さと、費やされた残酷なまでの時間を、観る者につきつける。

──冤罪の可能性を指摘されながらも、奥西は死刑囚としてこの世を去りました。東海テレビとして、あるいは個人として、今後も名張事件を追っていくつもりですか。

齊藤 昨年、奥西さんの妹さんが請求人になり、第10次再審請求を申し立てました。最後までしっかりと報道し続けたいと思います。この事件を知ってしまったからには、伝え続けなければいけない。これは冤罪の可能性が高い、と。それが、われわれの使命だと思いますから。

(インタビュー・構成 梶田陽介)

■『ふたりの死刑囚』 監督・鎌田麗香 プロデューサー・齊藤潤一 制作・東海テレビ 
2016年1月16日(土)より、東京・ポレポレ東中野、愛知・名古屋シネマテークにて公開、ほか全国順次公開。最新の全国公開劇場一覧は公式ホームページにて。

最終更新:2016.01.15 07:12

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