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宇多丸らライムスターの3人がJASRAC批判「アーティストや音楽のことより、自分のためなんじゃないの?」
宇多丸が水曜コメンテーターを務める『バラいろダンディ』にRHYMESTERが集結、JASRAC批判を!(TOKYO MX『バラいろダンンディ』番組サイトより)
先日より議論となっている、日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室からも著作権料を徴収しようとしている問題。
今月6日、ヤマハ音楽振興会など音楽教室を運営する約250の団体によりJASRAC側には徴収する権利がないことの確認を求めた訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁で開かれた。報道ではこのなかでJASRAC側は「一円たりとも創作者に還元しないのは極めておかしい」と主張したと伝えられている。
この問題については、当のアーティストからもJASRAC側の対応はおかしいとの声が漏れていた。宇多田ヒカルは〈もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな〉とツイッターに投稿。
また、作詞家の及川眠子も〈音楽はタダではない。違法ダウンロードなど著作権を侵害するものに対してはもちろん厳しく取り締まってほしい。だけど、音楽を学びたい、いつか音楽の世界で花を咲かせたいと願う子供たちには、自由に楽曲を使わせてあげてほしい。それが今の私たちにできる、未来の音楽への恩返しだ〉とツイッター上で意見を表明していた。
9月6日放送『バラいろダンディ』(TOKYO MX)では、この第1回口頭弁論のニュースを取り上げていたのだが、そこでスタジオの席に座ったRHYMESTERの面々も、宇多田ヒカルや及川眠子と同様にアーティストの立場からJASRAC側の今回の問題に対する姿勢を批判していた。
まず、Mummy-Dは、そもそもJASRACの法人としての姿勢自体に、音楽文化の振興に対する真摯な思いが感じられないと口火を切る。
「JASRACっていうのは、たいていアーティスト全然好きじゃなくて。アーティストのことを考えてくれてるというよりは、なんか、自分たちのためとかなんじゃないの? 音楽を盛り上げていくことを考えてやってくれてるの? どうなの?って感じがすごくする」
そして、宇多丸は、音楽教室での著作権料徴収にアーティストが賛成することは絶対にないと語る。なぜなら、音楽教室で音楽を学ぶ人たちは、次の世代のつくり手や聴き手になる存在だからだ。
「だってね、俺らがね、『音楽教室でいっぱい弾いてるらしいから金取れや!』っていう意見、絶対ないと思うよ。だって、音楽人口を再生産する場所なんだから、あり得ないですよね」
宇多丸と同じくDJ JINも、 JASRACがいま行おうとしている焼き畑農業的な発想を批判する。
「本当にそうで、たとえば音楽が広まる妨げになることをすることで、JASRAC的にも、逆に結局自分に返ってくる、マイナスが返ってくるわけで。あとは、柔軟性ですよね。これは本当に真面目な話、ちょっとそういうところとかも必要なんじゃないかなと思います」
京大入学式式辞、ファンキー末吉による会見…連続するJASRAC炎上騒動
周知の通り、JASRACに関わる炎上騒動はここのところ立て続けに起きている。
今年5月には、京都大学のホームページに掲載された山極壽一総長の入学式の式辞に、ボブ・ディランの代表曲「風に吹かれて」の歌詞の一部が引用されているとして、JASRACが大学側に対し楽曲使用料が生じると指摘していた旨が報じられた。
結局、大炎上した挙げ句、JASRAC側はこの件に関しては頑として徴収を訴えるようなことはなかったが、引用した出典の記載もあり、どこからどこまでが引用なのかの区分も明確で、「自己の創作部分が主であり、引用部分が従であること」という引用の要件も満たしている式辞に対して威嚇のような指摘をしていたということには、各方面から驚きの声が漏れた。
また、先月には爆風スランプのドラマーであるであるファンキー末吉氏が、著作権料の作曲者らへの分配を適正にしていないとして、調査と業務改善命令を出すよう求める上申書を文化庁に提出したと報じられたのも記憶に新しい。
ファンキー末吉氏は会見を開き、著作権料がきちんと著作者に支払われていないと主張。その根拠として、自分自身も爆風スランプなどで2000年からの10年間に全国のライブハウスで204回のライブを開き自分が著作権者となっている楽曲を演奏したが、それに対する分配が1円も入っていなかったと語った。
このようなことが起きた原因は、JASRACがとっている「包括契約」という方式にある。この契約では、ライブハウス側は使用された楽曲を一曲一曲報告して個別にJASRACに払うのではなく、決まった額を包括使用料として支払うことでJASRAC管理楽曲を自由に使う許諾を得ることになる。その際、JASRAC側は、すべてのお店に人員を配置して何の曲が歌われたか調べるといったことはせず、一部のモニター店での演奏実績を基準としたサンプリング調査で徴収した著作権料の分配を決める。だから、そのサンプリング調査の網の目から漏れた場合、ファンキー末吉氏のようなケースが起こるのだ。
つまり、本稿冒頭で記した口頭弁論で「一円たりとも創作者に還元しないのは極めておかしい」と主張していたその裏で、JASRACは著作権料の公平な分配に関して不備のある仕組みを放置していたということになる。
詭弁を弄して議論とまともに向き合おうとしないJASRAC
このように問題が次々と炙り出されていっているJASRACだが、では、当のJASRAC側はそれをどのように捉えているかというと、ちょっと首を傾げざるを得ないような発言が次々と飛び出している。
DJ JINが「あとは、柔軟性ですよね。これは本当に真面目な話、ちょっとそういうところとかも必要なんじゃないかなと思います」と発言していたが、それはJASRAC上層部の姿勢にも当てはまる。
今年7月には、JASRACの浅石道夫理事長が朝日新聞デジタルのインタビューを受けているのだが(7月20日付)、ここで彼は音楽教室の徴収に反対する人々の声をこう評している。
「予想の範囲内。音楽教室の生徒さんたちが反対するのは当然あるだろうなと。一般の人の反対には、反対のための反対、『JASRACは気に入らないから、この機会にたたいてやろう』というのもあるのだと思う」
反対している人たちは、著作権料徴収によって引き起こされるであろう今後の音楽教育に与えるダメージについて議論しているのだが、これは話のすり替え以外なにものでもない。
また、浅石理事長は、京大入学式の式辞の件に関し「グレーな事案であり、徴収するとなれば訴訟になる可能性がある。経営判断として、そこまでしないと決めた。その決断が遅かったというのなら意見としては承る。しかし反省なんかしていない」とした後、さらにこのように語るのであった。
「(揶揄して)『カスラック』という人たちは議論の相手だと思っていない。まっとうな議論をしている人には真摯に対応する」
こういった姿勢は、JASRAC会長で作詞家のいではく氏も同じである。彼は「週刊文春」(文藝春秋)17年7月20日号の取材に応じているのだが、音楽教室の問題について記者から「音楽文化の根っこを弱らせると批判されている」と質問されると、このように答えたのだった。
「音楽文化の振興を、JASRACの徴収が阻害するみたいな考え方はおかしいでしょうって! 逆に言えばね、教室の方が積極的にそういうこと(著作権)を教えてクリエイターを増やし、日本のいい楽曲をたくさん生んでいくことが、やっぱり音楽文化の振興に必要なんじゃないかと思いますけどね」
普通の感覚でこれを読むと詭弁としか思えないが、本番はここからだ。音楽教室から料金を徴収することは、音楽教育を阻害する行為であり、それは将来的な音楽文化の衰退を招くものではないかといった指摘をされるとこのように語ったのである。
「私どもは、決して子どもさんからお金をいただこうと思っているわけじゃなくて、あくまでも営利目的の事業にペイメントをお願いしているんです。現に楽器教室なんかも全部子どもさんで成り立っているわけじゃなくて、子どもさんはほんの一部。大半は大人であったりしているわけです」
ライムスター宇多丸「あの立派な古賀政男記念館を整理してはどうか?」
確かに、音楽教室に大人がいないとは言わないが、「大半は大人」という説明にはどう考えても違和感しかない。しかも、仮に生徒が「大人」だったとしても、大人たちが楽器を習うことは、音楽文化の裾野を広げていくことに大きく寄与するはずだ。つまり、JASRAC会長の頭のなかはいかに金をふんだくるかだけで、音楽文化の普及などという観点はまったくないのである。
しかし、そもそも、なぜ最近になってJASRACまわりで問題が立て続けに起きているのか? 「ミュージック・マガジン」17年4月号では、JASRACをめぐる最近の現象について、〈JASRACが徴収対象を広げてきた背景には、CDのセールスの落ち込みにより、レコード業界からの著作権収入が減少したことがあるとされる〉と説明されていた。
こういった背景は確実に存在するだろう。しかし、だからといって、その分の補填を音楽教育の現場からの徴収でまかなおうとするのはどう考えてもおかしい。
前述『バラいろダンディ』にて、宇多丸はそのあたりの裏事情をほのめかしつつ、代々木上原にあるJASRACの本部ビルおよび古賀政男音楽博物館の名を挙げてこのように皮肉っていた。
「CDによる著作権の売上が下がって取りどころを新たに開拓しようとしているのかなと思うと、あの立派な古賀政男記念館をちょっと整理するとか、ね」
音楽教室からの著作権料徴収をめぐる問題については今後も議論は続いていくと思われるが、音楽文化にとって前向きな結果となってくれることを切に願う。
(新田 樹)
最終更新:2018.10.18 03:57
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