テレ朝「橋下徹の冠番組」こそ放送法違反だ! 私人と“政党の支配者”を使い分けるダブルスタンダードを許すな

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弁護士法人橋下綜合法律事務所公式サイト弁護士紹介ページより


 橋下徹・前大阪市長が4月からのテレビ新番組にレギュラー出演すると発表された。放送局はテレビ朝日系列、時間は現『ビートたけしのTVタックル』の枠(月曜23時15分〜)で、同じ早稲田大学政治経済学部卒の羽鳥慎一アナウンサーと共演することまでは決定。一方、タイトルや肝心の内容に関しては「未定」だという。

 橋下氏の8年ぶりの“テレビ復帰”とあって話題になるのは間違いないが、しかし、ちょっと待ってもらいたい。本当に、この人に冠番組をもたせてもいいのだろうか?

 橋下氏は昨年、大阪都構想の住民投票に敗れた直後に「政界引退」を表明、年末の任期満了を控えた最後の定例会見でも今後は「私人」として過ごしていくと強調したが、周知のように、現在もおおさか維新の会の「法律政策顧問」というポストに就いている。

 言っておくが、これは名誉職でもなんでもない。事実、報道によれば1月24日、橋下氏はおおさか維新の会の「戦略本部会議」の初会合に参加したが、これは参院選に向けた公約や政策などを話しあうためのもの。さらに同月30日には、おおさか維新が擁立候補の発掘を目的で設立した「維新政治塾」にも出席、報道陣に非公開で講演を行っている。

 ようするに橋下氏は、「政界引退」どころか事実上の“オーナー”として、国政政党の“院政”を行っているのだ。しかも、おおさか維新の会代表・松井一郎大阪府知事は、これからも党の方針などについて橋下氏から「さまざまなアドバイスをもらう」と公言している。つまり、おおさか維新側も、“橋下氏が党の顔”というイメージ戦略を発信しているわけである。

 そんな人物がキー局の冠番組を持つことは、毎週、特定会派の事実上のトップによる番組が全国放送で垂れ流されるということだ。これは明らかに「政治的公平」に反するだろう。

 昨年10月、橋下氏が率いる大阪維新は、大阪都構想反対の急先鋒であった藤井聡・京都大大学院教授が出演していた情報番組『おはようコールABC』(ABC朝日放送)に対して、政治的公平を定めた放送法4条に違反するとしてBPOに調査を申し立てていた。

 だが、藤井氏はたんなる学者であり、自分の意見を述べたにすぎない。政治権力の不当な介入を防ぐという放送法の本来の趣旨からすると、橋下が冠番組を持つことのほうがはるかに放送法違反にあたるのではないか。

 こういうと、おそらく、橋下氏は「大阪市長を辞めた今はただの私人」などという詭弁を弄するだろう。橋下氏は昨年末の「引退会見」直後にも、ツイッターで所属法律事務所の名前を持ち出して「これからは私人。社会的評価を低下させる表現には厳しく法的対処をする」などと宣言、自分への批判に対して露骨な恫喝をしかけている。

 しかし、橋下氏が「自分は私人」と主張すること事態、詭弁でしかない。自分を守る時だけ私人を騙り、片方で政党の事実上の代表として、政策決定に関与しているというのは、明らかなダブルスタンダードではないか。

 報じられているところによれば、橋下氏の新番組は、まず3月のパイロット版で3つの企画を試みて、そのうえで今後の方針を定めるらしいが、企画候補のなかには「橋下さん!日本のこんな所オカしくないですか?(仮)」なる仮題でゲストの論客らと「日本の未来を考えるトーク企画」もあるという。ようはこれ、バラエティの皮を被った政治討論番組だ。おおさか維新の名前はださなくとも、その政策を喧伝することになるのは目に見えている。

 いや、仮に一切、政治的なテーマを扱わなかったとしても、橋下氏が国民に“おおさか維新の顔”というイメージで受け取られている以上、毎週、テレビに出るだけで政党にとって大きな宣伝になる。おおさか維新の人気はまだ関西ローカルにとどまっており、テレビの全国放送に出ることは、それを一気に全国区に広げることになるだろう。もちろん、選挙結果へも多大な影響を及ぼすはずだ。

 しかも、その効果は、たんにおおさか維新という一政党の勢力が拡大するというだけにとどまらない。これは安倍首相が目論む改憲の動きにもつながっていくのだ。

 昨年12月19日、橋下氏は松井代表とともに都内の日本料理店で、安倍首相、菅義偉官房長官と会食を行っている。その場で、橋下氏が「憲法改正が必要だ」と述べ、安倍首相と見解を同じくしたということは、松井代表も認めている事実だ。

 さらに産経新聞12月21日付は「政府高官によると、安倍首相の政権運営や政治手法などに関しても意見交換した」とも報じている。おおさか維新が今夏の参院選で議席数を伸ばし、自公と合わせて改憲発議に必要な3分の2の議席を確保すれば、そのまま安倍政権はおおさか維新を連立内閣に迎え入れ、改憲を具体化させていくのは明らかだろう。

 ようするに、テレビ局が橋下氏に冠番組をもたせることは、最終的に安倍政権による改憲に加担することになるのだ。これは、公権力と徹底して距離を持つべきマスメディアとして考えられない行為。いったいテレ朝は何を考えているのか。

「橋下さんについては、多くの局がラブコールを送っていましたが、ほとんどは、上層部の『政治色が強すぎる』という判断で、レギュラーは見送られたと聞きます。そんななかでテレビ朝日だけ上層部のGOが出たというのは、早河(洋)会長はじめ、今のテレ朝のトップが安倍政権の方しか向いていないからですよ。とにかく、官邸に睨まれることだけを異常に恐れ、それ以外のバランス感覚を完全に失っている。おそらく今回も『橋下の番組なら官邸も歓迎してくれる、むしろ他の番組への圧力を弱めることができる』と考えたんじゃないでしょうか。現場もバラエティ班なんで、『まずいんじゃないか』という空気はまったくないですよ。むしろ、橋下さんが持ってる数字に期待してるんじゃないですか(笑)」(テレビ朝日関係者)

 まったく、報道機関としての矜持もへったくれもない話だが、しかし、これは新聞メディアも“同罪”だ。今回の橋下新番組に関する報道姿勢を見れば一目瞭然、朝日・毎日・読売は判を押したようなベタ記事で、せいぜい「政界復帰が遠のいたとの見方が広がった」などと加えるだけ。橋下氏のレギュラー番組が国政に与える影響を批評するものは、ひとつたりともなかった。

 ようするに、橋下人気に乗っかって改憲を後押ししようというテレビ局は論外だとしても、大新聞までもが「私人」を振りかざす橋下氏に対して、すでに萎縮しているのだ。もはや“権力とメディアの距離”に言及することすら、この国のマスコミには期待できないということなのだろうか。
(宮島みつや)

最終更新:2016.02.24 02:06

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